出会い、別れ(6)
「この辺にこんなのあったんだ…」
俺の背中から降りながら、夏菜は桜の木に近づく。
「通学路からは大分離れたところにあるからな。気付かなくても不思議じゃない」
「じゃあ何で野桜君は知ってるの?」
「休みの日とか暇な時にルールルマップでこの辺調べてたら出てきたんだよ」
いつかの日、暇で暇で仕方がなかった時に、自宅で寝転がりながら3Dマップで、いつも歩いている通学路から外れた道を辿っていた際に見つけた場所だ。
新学期で桜の季節な今、恐らく見頃だろうと思い、夏菜と俺が暇な事を確認して、夏菜をここに連れて来た。
「…野桜君って、結構暇人だよね…」
「うっせ」
誰のおかげで来れたと思ってんだ。
そんな恨みがましげな俺の視線を無視して、夏菜は静かに上を見上げる。
「ほんと…きれいだね…」
そう言った彼女の姿は今にも消えて無くなってしまいそうな、舞い散る桜の花弁に溶け込みそうな、そんな幻想的な雰囲気を漂わせていた。
「…お気に召したようでなによりだわ」
「うん…あ、でも、お花見するんだったらお菓子とか飲み物買ってくれば良かったね」
「安心しろ。ちゃんと持って来てる」
「わぁお、随分準備がいいね」
「遊びとかには手を抜かない主義なもんでね」
「ふふっ、全然かっこよくない」
「そこ、うるさいぞー」
適当に返事しながら、その辺の地面に家から持って来たミニシートを広げて、腰を下ろすと、夏菜もそれに倣う。
さっき自販機で買って来た二本のミルクティーを鞄から出して夏菜に一本投げて渡す。
「ありがと」
「ん」
ミルクティーを受け取った事を確認した俺は、持って来たお菓子の箱の包装を破いて、箱を開けて、俺と夏菜の間に置く。中身はクッキーだったようだ。俺も今知った。
それを見た夏菜は怪しいものでも見るような目で俺を見る。
「…ねぇ、これ、お高いお菓子じゃない?」
箱の中にはオシャレなクッキーが沢山入っていた。
クッキーだったんだ。俺も今知った。
「家から適当に持って来たやつだから知らん」
「だ、大丈夫なの?」
「別にいいだろ。食わなきゃお菓子の意味がない」
「それはそうだけど…」
「いらないなら俺一人で食うぞ」
「いただきます!」
慌ててお菓子を一つ掴んだ夏菜は、小さい口で一口齧ると、一度目を見開いた。
「っ〜!おいしい!」
「そりゃよかった」
そう返事をし、俺も一つクッキーを口に放り込む。
うまい。そして口に入れた瞬間わかった。
…あ、これ高ぇやつだわ。
一瞬だけ親の鬼の形相を思い浮かべたが、隣にいる幸せそうな奴を視界に入れて上書きする。
「ねぇ野桜君」
「ん?」
突然、夏菜が俺の顔を真っ直ぐ見たかと思うと、桜に負けないくらいの満天の笑顔を此方に向ける。
「私、今すっごい幸せ!」
そう強く言った彼女は、先程と同じように、消えてなくなってしまいそうな雰囲気を漂わせていた。
「…そ、そっか」
「ねぇ!また二人でどこか行こうよ!」
「え?あ、あぁ、別にいいけど」
「やった!約束ね!」
そう言ってもう一度笑う夏菜に苦笑する。
…ほんと、俺の事男として見てないんだろうな。
信用しきった態度と距離感、曇りのない笑顔。
どこまでもこいつは真っ直ぐに俺を見て来る。
「はいはい約束約束。今度は坂とか階段とか少なそうなところ探しとくと」
「うっ…お願いします…」
申し訳なさそうに目を逸らしながらクッキーを食べる夏菜を横目に、俺はミルクティーを流し込む。
…まぁ、今はこれでいいか。
次の約束も出来たし、まだこの関係が終わる事はないんだから。焦る必要はない。
そう、思っていた。
さぁ




