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馬丁とメイドと朝市場

お屋敷で朝が一番早いのは、毎朝のパンを焼くチェレスタさんです。けれど今朝は、たぶん私が誰より早く目を覚ましました。隣町の市場に連れて行ってもらう約束をしたからです。

いつものメイド服ではなく、スピネットさんにいただいたお古に着替えます。腰に黒いリボンのついた臙脂色のワンピースはかわいくてお気に入りです。

お屋敷で働きはじめて半年ほど。町の外に行くのは初めてです。

外が薄明るくなるのを待って、馬房に向かいます。栗毛の馬がうつらうつらしながら待っていました。ベイリーです。はためく耳に妖精たちが飛びついてははたき飛ばされています。


「早いなぁ」


やって来たヴァージナルさんが言いました。ベイリーのお世話と馬車の整備はヴァージナルさんのお仕事です。今日は、買い出しに行くヴァージナルさんについて行かせてもらうことになっています。

かぱかぱと足音をさせて馬房から出たベイリーが、荷馬車に繋がれました。いくつかの籠と布袋を乗せて、出発します。門を出る私達を妖精たちが楽しげに祝福しました。

先日、ウィリとエルと飛び抜けた道を、馬車に揺られて下っていきます。遠くに見える畑の緑が濃くなっている気がします。夏はもうすぐです。


「よし」


隣町には日が高くなる前に着きました。市場の外れにある馬宿にベイリーを繋ぎます。

馬宿の主に料金を払ったヴァージナルさんは布袋を担ぎ籠を抱えました。


「ここが、西の端。昼の鐘が鳴ったら出発する」

「はい。予鐘が鳴ったら戻ります」

「それでいい」


時間を知らせる鐘は一時間ごとに二回、その間に一回鳴らされます。それぞれ本鐘、予鐘と呼びます。馬宿の料金表によると今は五回目の本鐘が鳴ったところ。昼の鐘は七回目です。

野菜の多い並びに向かったヴァージナルさんを見送って、工芸品の看板が多い方に向かいます。

木彫りの髪飾りに、銀色の食器、魔道具の部品と、様々な品が並んでいます。


「何がいいかな」


今日はお屋敷でもらったお給料で、ウィリとエルにもほしい物を買おうと思っています。いつもお仕事を手伝ってもらっているので。

エルがとある露店の前で翅を震わせました。見ると、白色の水差しが並んでいます。手に取ってみると驚くほど軽い素材でした。小さめのものは割り当てていただいた寝室に良さそうです。


「いいだろ。木でできた器に釉薬をかけてるんだ。焼いてないからちょっと傷がつきやすいけど、代わりに割れにくくて、軽い」

「お一つください」


エルが飛んでいって、青い模様の入った水差しの上でくるくる回ります。それを購入しました。

次に見に行ったのは掃除道具の置いてある露店です。モップにバケツ。箒にチリトリ。窓の水滴を切るための道具なんて、騎士の構える剣のようです。


「この箒、穂の厚みが素晴らしいです」

「わかるかい。この部分の採集地で作った本格的な品だ。買えば一生使えるよ」

「チリトリももしかして」

「ああ、同じ土地で作られたやつ。箒の穂を採った後の幹から皮を剥がして、曲げて作ってる。だがこっち見ろ。王都にいる新進気鋭のデザイナーが考案した品でな。こうして、こうやると」

「柄が収納されるんですね」

「同じデザイナーの火ばさみもある。掴むと開いて、離すと」

「閉じる」

「画期的だろう。だがまぁお手頃なのは羽根箒だな。鶏と鴨があるぞ」


悩んだ末、最後におすすめされた羽根箒を買うことにしました。どれも素晴らしい品ですが、大抵の掃除道具はお屋敷に準備されています。羽根箒ならば、持ち歩いてちょっとしたことに使えるでしょう。

後ろ髪を引かれながら掃除道具のお店を離れ、干した果物でも探そうかと思ったところで、肩にとまったウィリがチリチリと翅を震わせました。私の抱える水差しにとまっていたエルも同様に翅を震わせます。

見ると、装飾品の露店に色とりどりのアクセサリーが並んでいます。その中の一つ。緑色のペンダントの上で、飛んでいったウィリがくるくると回りました。


「これは、何でしょう。瑪瑙でしょうか。それとも」

「ああ、いい物を見つけたね。それは妖精翡翠だよ」


脚に布を巻いた商人がそう答えました。


「翡翠、ですか」

「いいや、色だけだ。でもこの領地にぴったりの石だよ。妖精の里で採れる特別な石だ。これはな、持っていると、妖精が喜ぶ」

「初めて見ました」

「珍しいんだ」


どうやら、遠くから来た商人のようです。

ペンダントの上でウィリがチリチリと翅を鳴らします。水差しにとまったエルも、気になるようで、控えめに翅を震わせました。


「大きなものはありますか」

「うーん。見本があるけど、磨いてないからきれいじゃないよ」

「それでいいです」

「そうかい」


親指と人差し指を輪にしたくらいの大きさのゴツゴツした石が出てきます。元は売り物ではないからと、小指の爪ほどの石がついたアクセサリーの半分の値段で売ってくれました。ウィリの気にしていたペンダントも一緒に買います。


「まいどあり」


馬宿への帰り道、通りかかった露店で干した果物を買います。これで、買いたかった物が全て買えました。

予鐘が鳴ってすぐでしたが、ヴァージナルさんは先に待っていました。私の抱えた水差しとそれに刺さった羽根箒、袋に入った果物、紙に包まれた石とペンダントを見て、言います。


「いい物を買ったな」

「はい」


ベイリーの牽く馬車に揺られてお屋敷に戻るとおやつの時間でした。近くの森で採れた木の実を使ったパイです。

焼き立てを準備してくれるチェレスタさんに買ってきた果物を渡して、クッキーをリクエストします。笑って受け取ってくれました。作ってもらえるのが楽しみです。パイもいつもどおり、とても素晴らしい出来でした。

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