生意気後輩ちゃん完全敗北
ちょっとした空き時間に読めるような短い文字数なので、気軽に読んでください。
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俺の後輩は、生意気だ。
「えぇ~! 先輩またぼっち登校ですかぁ~!」
高校の授業を終え、下校中。
挑発的で何処か煽るような口調で彼女は声を掛けてきた。
「……ああ」
同意しながら振り向くとそこには案の定一学年下の後輩である彼女がいた。
井崎 カンナ。
短い髪を二つに結っており、華奢な体つきにそぐう幼い顔つきでしばしば中学生と間違われるそうだ。
しかし、幼く見えがちながらも、いや幼く見えるからこそ愛くるしい見た目に学内での人気は高い。
学校のアイドル、という言葉が似合うのは、うちの学内なら彼女を置いて他にいない。
そんな学内屈指の人気者と、話をするようになった。
話すというより、からかわれるようになった。
部活でも委員会でも接点のない後輩に、理由もわからず関わりを持つようになった。
「カワイソー! 先輩ってばホント友達いないですよねぇ~」
ニヤニヤと小馬鹿にするような表情。
俺がぼっちなことが相当面白いのだろうか。
「友達ならいるぞ」
「あはは! 見栄張ってて超ウケるぅw」
虚言とか見栄とかじゃないのだが、嘘っぱちだとされてしまった。
「だってだってぇ、いつもうちと会うとき一人じゃぁん♪ 登校するときも、食堂で会う時も、今みたいに帰ってる時も、ずっとずぅ~っと一人じゃないですかぁ~」
「……まぁ、そうだな」
嬉々として俺がぼっちであることをいじってくる井崎。
確かに彼女が言っていることは大半が正しい。
事実として、俺は登校時も食事時も下校時も一人でいる。
——だが、それは決して友達がいないからではない。
「それってぇ、先輩が友達いないぼっちってことですよねぇ。チョーカワイソー!」
「いや、井崎に話しかけてもらいたくて一人でいるだけだ」
紛れもない事実として、彼女に本当のことを告げる。
「えー、そうなんだぁ~。———————…………………………………………はい?」
聞き返してきた。
突如豆鉄砲をくらった鳩のような顔をして、短い二文字で返された。
意表を突かれた、という言葉のお手本のようなリアクションだ。
「井崎に話しかけてもらいたくて一人でいるんだ」
「えっ、いや、なっ、え、だっ、…………え?」
あたふたしている彼女は、関連性のない文字を羅列した言葉を発する。
「どうした、井崎」
「いや、どうしたじゃないし! ——な、なな、なんなんですか! か、からかってるんですか!? ぼっち先輩の癖に!!」
「俺はぼっちじゃない」
「今論点そこじゃないし!!」
「それと、からかってもいない」
「っ!?」
「冗談でもお世辞でも社交辞令でもない。俺の本心だ」
「ぐぅっ!?」
何故かダメージをくらったように身動ぐ井崎。
一体どこにダメージ判定があったんだ?
「——じゃ、じゃあ、その、あれですか! せ、先輩は、わた、……う、うちに、は、話しかけてもらいたくて、……その、ずっと一人でいたってことですか!」
「そうだ」
「登下校の時も、昼休みの時も私に会えるか期待してたってことですか!?」
「いいや、休み時間でもなんなら学校以外の場所でも井崎に会えないかと期待している」
「ッッ!?」
なんだかいろいろ耐えられないみたいな感じで悶えている。
——そして彼女は未だ整理のつかない心境ながらも、大事な点について問う。
「——……つ、つまり、…………先輩は——、わた、……わたしのことが、
——……す、…………好きって、こと……ですか」
途切れ途切れの小恥ずかしそうな態度。
先までのハツラツとしながら俺を煽る井崎が嘘だったようだ。
打って変わってしおらしい態度の彼女に、俺は小学生男子にありがちな悪戯心のようなものが芽生える。
紅潮させた頬でチラチラ俺の顔を見上げる彼女の表情は何ともいじらしく愛らしい。
きっとそれのせいか、俺はこんな態度を取る。
悪戯心にも似た感情で、俺は小さくほくそ笑み。
「どうかな」
短く勿体ぶる。
仕返しなんて意図はない。
ただ純粋にそうしてみたかっただけ。
「~~~ッッッ!?!?」
すると、井崎は更に顔を真っ赤にし、今にも爆発しそうな勢いだ。
——そして、感情の限界点を迎えた彼女は。
「————ば、バァアアカ!! アホアホォォオ!! 先輩のボッチ!! 根暗!! 彼女いない歴=一生涯!! あんぽんたぁあああああああん!!!」
暴言を叫び散らしながら走り去っていった。
あんな漫画みたいな逃げ方する奴現実にいるんだ、と感心する。
走り去っていく井崎の後姿を見ながら、つくづく思う。
——俺の後輩は、生意気だ。
そして、結構可愛い。
友達にメール送るくらいの感覚で感想書いてくれると嬉しいです。
…………今時は友達間でメールとかしないか。