ラインの街へ
私の部下の多くは、まだ実践経験のほとんどない、騎士学校を出たばかりの若者たちなのだ。長距離の行軍も、時間が勝負の追跡も、机上の講義を受けただけでは成しえない積み重ねの賜物だ。正直、ここまでついてこられているだけでも上等と言える。
それなのに私は……! 出発する前にあれだけ自分に言い聞かせたのに、私は結局、コンラートのことにばかり気を取られてしまっていた。騎士であることは私の誇りであり、生き方であるというのに!
私の考えは小隊をまとめる者として最低な、独り善がりなものだった。それに第一、隊長だけが突出してどうしようというの! 任務の成功には連携が必要なのに。私は彼らの信頼を損ね、不安を招いてしまった。そんな状態でこれから先、どうやって彼らを率いて行こうというのか。慣れない彼らの士気を落とさず行軍させることこそが、私の役割だったのに……。
「……みんな」
「でもぉ、気持ちはわかる! だから、こうしましょ、隊長。ここで隊を分けんの」
「え?」
謝罪の言葉を口にしようとする私を遮って、ケントは早口でまくし立て始める。私は気持ちの切り替えが追いつかずにいた。
「馬もヤロウも限界来てるのがいる班は置いてくことにしましょ。ウィロー班長、班長のとこはベテラン揃いだし、馬も騎士も余裕っスよね? なんで、隊長とオレ、それからウィロー班でラインの街まで向かいましょ。全員しっかり休んで、明日はラインの街から仕切り直し! ほら、これで隊長のプラン通りっスよ」
「えっ、でも……」
「先遣隊はオレが責任持って隊長の宿まで連れて行くし、明日の朝は後続が来るまでウィロー班とオレとでラインの街を捜索するの決定で。リク、アルスル、オマエらに後のこた任すぞ? 隊長はラインまでもうひと踏ん張りしてくださいっス。よし、んじゃそーゆーことで!」
ケントが強引に切り上げると、皆が動き始めた。ケントは私の真横まで馬を寄せると、手綱に手を伸ばしてくる。
「ほら、行くっスよ」
「え、ええ……わかったわ。でも最後にもう一言だけ……」
私は馬を足で制御しながら、支度をしている騎士たちを見渡し、言葉を投げかけた。
「みんな、本当にごめんなさい! 貴方たちはよく頑張ってくれているわ。それなのに私は貴方たちに甘えるばかりで無理をさせてしまった……。こんなになるまで気づきもしなかったのは、私の心が弱いせいです。私が私情を挟んでしまったから……」
若い騎士たち、それから私よりも長く勤め上げてきた先輩騎士たちの顔を、一人一人確かめるように見ていく。
「私に対し、不満はあるかと思います。けれど、仕事は仕事です。すべては帰ってから、またひとりずつとお話しさせてください。そして今しばらくはどうか、私に力を貸してほしいの……どうか、お願い」
「隊長」
「隊長……!」
軽く頭を下げ、待つ。
しかし、私を非難する声はなかった。
「隊長、頭を上げてください! 隊長は悪くないです。自分たちが情けないばっかりに……」
「すみません、隊長」
「ケイン、ブラッド……」
真摯な瞳でこちらを見てくる部下たちに、思わず胸が熱くなった。もっと話をしたかったけれど、ケントが身振りで急かす。
「隊長、行くっスよ!」
「わかったわ」
ケントに促され、私は馬首をラインに向けた。何が何やらわからない内に、ケントに丸め込まれて出発してしまったけれど、そこからラインの街までの行軍はとても順調にいった。
心配していた宿も、騎士団の制服のおかげで問題なく取れた。ただ寝て身体を休めるためだけの、贅沢とは言えないものだったけれど、ひとり部屋というのがありがたかった。