表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/33

ラインの街へ

 私の部下の多くは、まだ実践経験のほとんどない、騎士学校を出たばかりの若者たちなのだ。長距離の行軍も、時間が勝負の追跡も、机上の講義を受けただけでは成しえない積み重ねの賜物だ。正直、ここまでついてこられているだけでも上等と言える。


 それなのに私は……! 出発する前にあれだけ自分に言い聞かせたのに、私は結局、コンラートのことにばかり気を取られてしまっていた。騎士であることは私の誇りであり、生き方であるというのに!


 私の考えは小隊をまとめる者として最低な、独り善がりなものだった。それに第一、隊長だけが突出してどうしようというの! 任務の成功には連携が必要なのに。私は彼らの信頼を損ね、不安を招いてしまった。そんな状態でこれから先、どうやって彼らを率いて行こうというのか。慣れない彼らの士気を落とさず行軍させることこそが、私の役割だったのに……。


「……みんな」

「でもぉ、気持ちはわかる! だから、こうしましょ、隊長。ここで隊を分けんの」

「え?」


 謝罪の言葉を口にしようとする私を遮って、ケントは早口でまくし立て始める。私は気持ちの切り替えが追いつかずにいた。


「馬もヤロウも限界来てるのがいる班は置いてくことにしましょ。ウィロー班長、班長のとこはベテラン揃いだし、馬も騎士も余裕っスよね? なんで、隊長とオレ、それからウィロー班でラインの街まで向かいましょ。全員しっかり休んで、明日はラインの街から仕切り直し! ほら、これで隊長のプラン通りっスよ」

「えっ、でも……」

「先遣隊はオレが責任持って隊長の宿まで連れて行くし、明日の朝は後続が来るまでウィロー班とオレとでラインの街を捜索するの決定で。リク、アルスル、オマエらに後のこた任すぞ? 隊長はラインまでもうひと踏ん張りしてくださいっス。よし、んじゃそーゆーことで!」


 ケントが強引に切り上げると、皆が動き始めた。ケントは私の真横まで馬を寄せると、手綱に手を伸ばしてくる。


「ほら、行くっスよ」

「え、ええ……わかったわ。でも最後にもう一言だけ……」


 私は馬を足で制御しながら、支度をしている騎士たちを見渡し、言葉を投げかけた。


「みんな、本当にごめんなさい! 貴方たちはよく頑張ってくれているわ。それなのに私は貴方たちに甘えるばかりで無理をさせてしまった……。こんなになるまで気づきもしなかったのは、私の心が弱いせいです。私が私情を挟んでしまったから……」


 若い騎士たち、それから私よりも長く勤め上げてきた先輩騎士たちの顔を、一人一人確かめるように見ていく。


「私に対し、不満はあるかと思います。けれど、仕事は仕事です。すべては帰ってから、またひとりずつとお話しさせてください。そして今しばらくはどうか、私に力を貸してほしいの……どうか、お願い」

「隊長」

「隊長……!」


 軽く頭を下げ、待つ。

 しかし、私を非難する声はなかった。


「隊長、頭を上げてください! 隊長は悪くないです。自分たちが情けないばっかりに……」

「すみません、隊長」

「ケイン、ブラッド……」


 真摯な瞳でこちらを見てくる部下たちに、思わず胸が熱くなった。もっと話をしたかったけれど、ケントが身振りで急かす。


「隊長、行くっスよ!」

「わかったわ」


 ケントに促され、私は馬首をラインに向けた。何が何やらわからない内に、ケントに丸め込まれて出発してしまったけれど、そこからラインの街までの行軍はとても順調にいった。


 心配していた宿も、騎士団の制服のおかげで問題なく取れた。ただ寝て身体を休めるためだけの、贅沢とは言えないものだったけれど、ひとり部屋というのがありがたかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ケントの株が爆上がりです(*´ω`*) 優秀な脇役大好きです♡ 女の子の隊長で周りが男ばっかりだと、いくらか優しく(甘く)見てくれるし、素直な彼女には、部下もついてきますよね。 オーディ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ