夜明け
17話の前に丸々一話抜けがあったので間に挟んでおります。ご迷惑をおかけいたしました。
「さぁ、今夜はここでお開きにしましょう。明日からもまた、お願いね」
「ええ~? もうっスか? もうちょっと飲みましょうよ~!」
「任務中でしょう。過度に破目を外すのはダメよ」
「ちぇ~」
若い子たちはケントに同調している。それも仕方のないことだと思うけれど、隊長としては止めなくては。
「本当は私だって続けたいわ。でも、そういうわけにいかないでしょう? 私に付き合って飲んでいたら、貴方たち全員潰れちゃうもの」
私がそう言うと、みんなから「ああ、納得」というため息が聞こえてきた。……失礼しちゃうわ。貴方たちが弱いだけなのに。
「私一人で飲み直しに行こうかしら……」
「えっ! そんなのダメっスよ!」
いじけてそんなことをこぼした私を、ケントが慌てた顔で止めてくる。
「隊長ひとりで飲みに行かせるなんて、絶対にダメっス。許可できないっス! はいもうお開きお開き! 隊長はホテルから出るの禁止っスからね」
パンパンと手を叩いて離席を促すケント。みんなも、ウィロー班長すら苦笑いでそれに従っている。明日から本格的にコンラート捕縛のために動くのだから、私だって本気で飲むつもりないのに!
「あのねケント」
「隊長、去年演習先でリザさんと飲みに行ったとき、最初の店で絡まれて三人のして、飲み直しに行った先で五人ぶっ飛ばして、挙げ句に止めに入ってきた巡回中の騎士にセクハラされたからって『指導』と称して泣くまでボコボコにしたじゃないスか。覚えてないとは言わせないスよ!」
そういえば、そんなこともあったかしら? 過去のことは、振り返らないことにしてるのよ……。
「忘れたわ」
「じゃあ今、覚え直してくださいっス」
うんうんと頷く何名か。
このままじゃいけないわね。何とか求心力を回復しないと! 私は隊長なんだから。
というわけで、さっそく切り札を使うことにする。
「ねぇみんな、この任務が明けたら全員で打ち上げパーティーをしましょう。私の奢りで、好きなだけ飲んでもらっていいわ」
「ホントっスか!?」
「すげぇ!」
隊員たちから歓声が上がった。よし、いい感じ。
ウィロー班長はやや呆れ顔だったけれど、笑顔を浮かべているという事は黙認してくれるということでしょう。
「約束よ。王都でいいお店を貸し切りにしてあげる。だから、全員無事に任務を完了しましょうね」
「おー!」
威勢のいいこと。
でも、本当に全員無事に終わってほしいものだわ。心からそう思った。
そう、このときから何か、予感めいたものがあったのかも知れない。
ゲートの開く午前四時。私はその少し前に宿を抜け出し、単身王都側のゲートへ向かっていた。
鉄格子が降りたゲートの前には、すでに何組もの商人や旅人たちが並び、最後の形式的な審査を受けている。向こう側にもまた、気の早い旅人たちがちらほらと見えていた。
サーフェス中に鳴り響く少し重めの鐘の音が、三つのゲートからそれぞれ呼応するようにメロディを奏でている。
いよいよ、門が開く。
そして、私はその向こうに彼の姿を認めた。
「コンラート」
「オーディリア……」
申し訳程度にフードのついた、旅行者のマントの下には、黒く染めた短髪と変装のためか眼帯が見える。
彼には連れがいた。やはり旅行者のマント姿の細身の人物は、わざとみすぼらしくしているのか髪の毛を乱暴にカットしていた。一見すると若い男の子に見える。だがしかし、アルマ男爵令嬢に間違いないだろう。
おそらく、彼女単身であれば私は気付くことができなかった。私はアルマ男爵令嬢と面識がないし、その髪色は聞いていたのと違って銀色をしている。珍しいなと思った。コンラートと同じ、銀の髪……。カツラだろうか? 遠目ではよくわからない。
二頭の馬を曳いていたコンラートが、その手綱をアルマ男爵令嬢へと渡し、こちらへ近づいてくる。私はすぐに対応できるよう、愛剣に手をかけた。