待ち伏せ作戦
ウィロー班長の目配せを受けて、私は頷いた。皆の顔を見回し、これまでの総括をする。
「まず、一番大きな収穫は私自身がランブスの町でコンラートの姿を確認したことね。見失ったのは残念だけれど、彼の変装は暴いたわ。今からでは新しい見た目にするのも大変でしょう。それに、すぐに街道へ出て馬を走らせたから、後追いじゃなく先に立つことができたのも確かよ」
私の言葉に、ウィロー班長が頷いて口を開いた。
「私は隊長の目を信じる。人間、見た目は変えられても立ち居振る舞いまで変えるのはなかなか難しい」
「ええ、そのとおりです。あれは確かにザラストラスだったわ。あの場にカクタス・グレイ副隊長がいたことも良かった、本隊にもこの情報が共有されているのは安心だわ」
「これで心理的にはこちらが大いに上に立ちましたな。正直、検問も『すでに通過した後ではないか』という疑念に囚われると精度が落ちます。そういう意味ではすべてはこれからだと思えば士気も上がることでしょう」
ウィロー班長の所見に私は満足して相槌を打った。やっぱりベテランの貫禄ね。頼もしい限りだわ。そして、私は彼にもうひとつ感謝しなければいけない。
「ウィロー班長、私の代わりに指揮を執ってくださりありがとうございました。それに、領事への協力も取り付けてくださって」
「いや、ここの警備主任が古い知り合いだったものでね。その伝手で領事と具体的な話をすることができたというだけだ。長いこと騎士をしていると、横の繋がりに助けられることが多いのだよ」
その言葉にその場に居た者、皆が感嘆の声を上げて頷いていた。ウィロー班長は騎士となってから実に二十五年以上も現役でいらっしゃる、それだけの間に関わってきた現場の人間がいったいどれほどの数いるのか。
私のツェラー隊に身を置いてくださっている間に、私だけでなく騎士になってまだ日の浅い者たちは彼から学ぶことがたくさんあるでしょうね。
それはそれとして話を戻す。ウィロー班長が手配してくださったのは他でもない、コンラートを捕らえるために私がやろうとしていたことのひとつだった。
「班長も迂回路の存在をご存知だったのですね。おそらくザラストラスがそちらへ向かうことはないでしょうが、見張りを置いてくださったおかげで、またひとつ不安材料が減りました」
ここサーフェスは大きな街道が交わる、古くから栄える城塞都市だ。王都へ通じる主街道はもちろん、この先はイダル王国へ繋がる道と、カエントゥス王国へ繋がる道と接続されている。この街道へのゲートを検問してコンラートを捕えるのが私たちの作戦。
もちろん、街の外を大きく回ってその先の街道へ合流する迂回路はある。ただ、そこは険しい山道で、抜けるならば一か所、必ず通らなければならない場所がある。そこは待ち伏せに最適で守るに易く攻めるに難い。
ただ、そこに詰めるとなると簡易テントを立てての野宿しかないので、こんな過酷な任務を押し付けてしまって、見張りの彼らには申し訳なく思う。
「なんだ、隊長も知っていたのかね」
「はい。養父に教えてもらったことがあります」
「ああ、団長か……」
ウィロー班長が懐かしそうな顔になる。
「これを思い出したのは、ランブスの街で倒れてすっかり寝入ってしまった後のことです。早くこちらへ着いて準備をしなければと思っていたところ、領事と警備主任から話を聞いて、さすがウィロー班長だと思いました」
「ふふ、面映ゆいな」
ウィロー班長は口角を上げ皺を深めながら蒸留酒の入った杯を口に運んだ。そこへ、ケントが訝しげに問う。
「でも、ホントにそっちには現れないんスかね? 裏をかいて強行突破って可能性だってあるでしょ」
「その可能性は否定できないわ。でも、かなり低いと言わざるをえないの」
納得していない表情のケント。それに、よくわかっていないような者もいる。これはもう少し説明が必要みたいね。
「いいわ。少し、考えてみましょう」