後ろ髪を引かれながら
「あいつらを見たのは、ボクたちが王都を出発して本隊に追いついた後です。ザラストラス隊なのは確かなんですけど、隊員を率いていたのは副隊長じゃありませんでした! ボク、分隊を解散して早駆けしてきたんです!」
カクタスは胸の前で両手を握りしめ、興奮状態でそう言った。
「あいつら、ボクたちの手柄を横取りする気なんじゃないですかね!? 王子の手紙に、てっきりそのことが書いてあると思ったのに~~!」
「言葉遣いはくだけてもいいけれど、王族に対する敬意まで忘れないでちょうだい」
「あ、すみません!」
ついついお小言が口を突いて出る。
……若い子と話していると、自分がどんどんおばさんになっていくようで嫌だわ。
愚痴っても仕方がない。気を取り直して、カクタスから最新の情報を聞き出すことにした。
「それで、今、本隊の指揮は誰が執っているの?」
「アルスル班長です。自分はあぶれちゃいました……」
照れくさそうに後ろ頭を掻く姿に自然と笑みがこぼれてしまう。でもいけないわ、馬鹿にしているつもりなんてないのに勘違いされちゃう……! そう思ったときにはもう、カクタスの表情は曇っていた。
「すみません……」
「違うわ。貴方はよくやってくれているわ、カクタス。無事に分隊を連れてきてくれたし、こうして今、私に大切な情報を運んでくれた。貴方が側にいてくれたら心強いわ」
「本当ですか、隊長!」
「ええ。たった一年でこんなに成長したのねと、思っていたところよ」
「そうですか〜? 嬉しいです!」
とたんに笑顔になるカクタス。よかったわ。
「カクタスてめー、ちょっと褒められたからって、調子乗んなよ!」
でもそこへいきなり現れたケントが意地悪を言う。まったく、後輩に対して当たりが強いんだから。とはいえカクタスも負けてはいない。うるさい二人をよそに私は手早く朝食を摂った。
荷物をまとめ、馬を曳き私たちは宿を後にした。サーフェスの街へ続くゲートへ向かっていたそのとき、私は雑踏の中に、彼を見つけた。
「コンラート!」
たとえ髪を短くしていても、黒く染めていても、私が貴方を見違えるなんてありえない。
「コンラート!」
「隊長?」
私の声に気づいたコンラートは、外套のフードを被って角を曲がっていった。ケントもカクタスもわけがわからないといった表情で私を見ている。
説明している時間はない。私は馬の手綱をケントに押し付け急いで彼を追った。
「ちょ、隊長!?」
「どいて」
通行人を掻き分け走る。コンラートの消えた角を曲がり、周囲に目を走らせるがもうそこには彼の痕跡はなかった。
でも、見間違いなんかじゃない。
あれは確かにコンラートだった。
ここに彼がいるということは、私たちの推測は正しかったのだ。単身でいたのは何かの準備のためかしら。
……追いたい。でも。
私はしばらく迷ったけれど、やはりサーフェスへと急ぐことにした。捜索するには人手が足りない。それに、コンラートたちもここまで来て引くわけにはいかないはず。
それならやはり、前進が正しい。
「隊長、探しましたよ! いきなり走り出すからびっくりしました!」
「そっスよ。ザラストラス隊長がいたんスか? ぜんぜん気づかなかったっス」
ケントもカクタスも半信半疑という顔だ。私は馬の手綱を受け取り、首筋を撫でてやりながらふたりに言った。
「カクタス、ザラストラスがここにいたという情報をすぐに本隊に伝えて。他の捜索はそのまま続けさせていいからこちらにも人員を」
「は、はい」
「ケント、急ぐわ。今すぐ出発よ」
「よっしゃ! じゃ〜な、カクタス」
「く……悔しいです! でもボクの役目だって重要なんですからね……!」
ライバル心を発揮して切磋琢磨するのは構わないのだけれど、できればもっと職務上の成果で競ってほしいわ……。
ともかく今はサーフェスへ急がなければ。カクタスと別れた私とケントはサーフェスへ馬を走らせた。