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フライパン卓球

作者: 氷水悠斗
掲載日:2021/06/16

勉強の合間にストレス発散しようとSNSでお題募集したらこんなのが来ました。


案外描いてて楽しかったです。

「フライパン卓球しようぜ!」



そう親友―――――だと思っていた人間から、

地球温暖化に貢献するかのような熱気と、

冷蔵庫から取ったばかりのサイダーのような爽やかな笑顔を添えて、あまりにも奇天烈な妄言を放ってきた時、なんて反応すればいいだろう。


特支の教師なんぞ志してない俺にはあやし方が分からない。



死んでしまった目に、無理矢理作った微笑を添えてこう返した。

「疲れているのだろう?寝ろ。」



ここから話を続けてしまうと面倒なことに確実に巻き込まれるに違いない。


そもそも人間の脳から創造された言葉なのか、()()()()()()()というのは。



馬鹿馬鹿しい。関わりたくない。


そういう想いを何とか抑えての発言だった。



「おい、軽蔑した目で俺を見るな。」


おっと、お見通しだったらしい。

顔に書いてあったのかもしれないな。


俺は嫌々話を合わせる。


「そもそも、フライパン卓球ってなんだよ。」


その問いにどう反応するかと思ったら、彼はみるみる顔を輝かせていく。

よく聞いたとかの言葉が続きそうだ。


「よくぞ聞いてくれた!」


ほらね。長そうな独演会なんぞ聞きとうないと思った俺は


「今日塾あるしまた今度にするよ」


苦笑を浮かべ立ち去ろうとする。



が、



「おい、今日は休みだろう。部活もないしよ。」


怖っ!何コイツ!ストーカーか!!


などと普通は思ってしまうが、運の悪いことに目の前のこいつとは、同じ塾で同じ曜日、同じ時間に授業を受けており、おまけに部活までも一緒なため、知られていて当然なのである。


これならば抵抗のしようがない。


仮に話の中で祖父母を殺そうにも、数少ない手段をここで使うべきでないと心がブレーキをかけてくる。


俺は諦め、手を挙げ投降し、先を促す。


膨れた面から満足気な顔に変えた彼は、お元気よく話し出す。



「フライパン卓球は奥深ァい競技でな、だからといってルールはだいたい卓球と変わりやしない。だが、大きく違うのは…」

「ラケットがフライパンなんでろう?」

「その通りだ!よく分かったな!!」


やつは嬉しそうに驚くが、誰だって字面から想像できる。こいつはこの後、ルール云々マシンガントーカーのように説明してくる。


今気付いたがいつもの下校ルートじゃあない。


『今からお前を巻き込みます』


そう宣言しているようなものだ。




奥深さについて熱弁されること数十分、卓球場についに着いてしまった。


代金は俺が払うからと強引に入れされられたが、そこは貸し切り状態であった。


誰も居ないから羞恥心で苦しむことは無い。

舞台は整った。



しかし、ここは極々普通の卓球場だ。

当然、フライパンの貸し出しなど、料理教室じゃあるまいし、行っているはずがない。



俺の親友はニヤリと笑い、

ここぞとばかりにカバンから、何を出すのかと思えば()()()()()()()



2つも入っており、用意周到準備万端。


学校にそいつらを持ってくる度胸に尊敬するわ。


オーナーも慣れているのか、気にする素振りを見せない。


否、こいつ寝てやがる。起きて今すぐこの不審者を止めろ!



と、言ってる俺も物好きで、実物を見せられるとやってみたくなり、近くの椅子に荷物を投げた。


そこからの俺らに言葉はいらない。


渡されたフライパンを持ってみると、不思議と罪悪感とスリルが湧いてくる。


それに、俺はあまり料理をしないからか、フライパンが意外と重く感じてくる。

サイズ小さめでもここまでするのか。


相手は卓球台横にあるボールを手にした。


こうして見ると、ピンポン玉がいつにも増して小さく見える。



謎の緊張からフライパンを握る手が強くなる。


俺は本来ペンホルダー派閥の人間なのだが、ラケットのようにフライパンが持てるはずもなく、今回ばかりはシェイクハンド側へと鞍替えしている。


ふと、彼は俺の目を見てくる。

開始の合図を求めているようだ。


俺は小さく頷き、合図を送る。




いつにもなく小さく見える白い玉は、しっかりと広げられた手の平からひょいと飛び出した。


規定通りの高さへと達したそれは、フライパンの裏、底の部分と意外に高い音をあげて衝突した。


力学の法則に従い、俺の方向へと動き出す。

相手コートに丁寧にワンバウンドした後、俺のコートへネットを越えてやってくる。


俺は右手に持つフライパンでその白いものを迎えに行く。


同じく底に接したそれは、俺の狙い通りバック側、すなわち俺から見て相手コート右側へと飛んでいく。

強めに打ったため、球速は以前より速い。


利き手関係なく、サーブ後バック側へと打たれると反応が鈍くなりがちだが、どう出るか。



なんと、彼はそれを予知していたらしく、ぐるりと手を回し、胸の前へ持ってくる。


そして、フライパンの表の端―――――持ち手12時とすると6時方向―――――へと白き球を当てさせる。


少しカーブ状になっている部位から放たれたそれは、歪な軌道を進み俺のバック前、すなわちコート左前へと送られていく。

先程の勢いは衰えていない。



俺は無理矢理フライパンを胸の前に動かし、裏・底の部分で返すが、焦っていたのか高く浮き上がってしまう。


それを見て待ってましたと言わんばかりに、攻撃態勢をとる彼のフォア側、彼の右側へと白い球は飛んでいく。



そこで空振る彼ではなく、フライパンの裏へとしっかり当たった球は、とてつもない速さで俺の右側へと送られてくる。


俺は一か八か裏を相手に向け、右へそっと待ち構えた。くっ…当たればいいのだが。



すると、球は俺のコートで一つ跳ねたあと、高い音をあげ、運良く衝突した。

それはまたも相手のフォア側、利き手側へ飛んでいく。


決めた、そう思っていた彼は慌てて構え再度打つ。


しかし、甘かったのかそれは俺のフォア側、右側に高く返ってくる。



俺はフライパンを強く握り時を待った。

そして、最高点に達したベストタイミングに白い球に襲いかかる。


それはまっすぐ彼のバック側へと飛んでいき、1回はねた後、彼の脇を通り抜け、卓球場の壁に叩きつけられた。


球は彼のコートに返って、数回はねた後ネットに包まれ、コロコロと転がる。




俺たちは顔を見合せた。この一瞬の時でも、笑わせるには十分であった。


2人して弾けるように笑い合う。地面に落ちたボールも弾ける。


あれは反則だなんだと口々に言い合い、ケラケラ笑う。


一球限りで俺はこの競技の奥深さを知り、虜になってしまったようだ。



もう一度やろう、そう思った矢先、別客がきた。


俺はフェンスにぶつを隠しつつ、彼へと渡す。

彼は笑みが残ったままそれを受け取る。




余った時間を元々置いてあった質の悪いラバーの卓球ラケットで辞めた部活のように適当に打ち合ったが、あの時の快感に勝ることなく、結局早めにお暇することになった。



その後の帰り道にあの一瞬の出来事について友と語り合った。


その流れでお年玉からフライパンを買った。2つもだ。



我ながら馬鹿だと思うが、布教用とかそういう類いにしようか。



よし、また来週別の奴とここに来よう。

俺は心の中で決めたのだった。




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※彼らは特別な訓練を積んでおります。

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