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日常系エッセイ

まさか、そうくるとは

作者: 丸井竹

最近、うちの娘は台所仕事を手伝ってくれるようになった。


料理初心者の子供と台所に立つのは少し大変かと思ったが、これがとても頼もしい。


使い終わった調理器具を洗ってくれたり、お鍋を焦げ付かないようにかき回してくれたり、材料を切ってくれたりと、失敗してもたいしたことにならないような仕事を率先して引き受けてくれる。


そろそろ手伝いではなく、一人で何か作れるようになってもよいのではないかと思い、私も洗い物や片付けばかりではなく、火を扱うところまで任せるようになっていた。


そんなある日、シラスを使った超簡単ふりかけを作ることにした。


作り方はいたってシンプルで、とにかく適当。


覚えたらなんにでも応用がきくし便利だろうと娘と一緒に作ってみた。


フライパンにごま油を敷き、冷凍の塊シラスを入れる。


さらに青菜を刻み、鰹節や出汁やら、酒やしょうゆと、なんとなくご飯にかけたら美味しそうな感じに味付けをする。


娘にやり方を見せながら、時々火の前を交代する。


全ての材料がフライパンに収まって、あとは煮詰めるだけの段階にきて娘が私に質問した。


「これで終わり?」


「そうだよ。あとは水分が無くなったらおわり」


そう答えた私はフライパンを娘に任せて、他の作業にとりかかった。

ひと段落して、ふと、フライパンに目を向けると、その中央で煮汁がぶくぶく沸騰していた。


そして中央の煮汁を囲み、具材がきれいにフライパンの端に寄せられていたのだ。



まるでもんじゃ焼きの土手のように。


「え?!」


どういうことかと娘を見ると、娘は真剣な顔でヘラを使い、具材を縁にきれいに寄せて、煮汁をせっせと蒸発させている。

丁寧なヘラさばきと、慎重な眼差し、最後までしっかり料理を完成させようという娘の意欲を感じる姿だ。


この状況に一瞬唖然とした私だが、なるほどと思いついた。


娘は水分が無くなったら完成だと聞き、煮汁を蒸発させたら完成だと思ったのだ。


しかし、目的は水分を蒸発させることではない。


とても真剣に頑張ってくれている娘には大変言いにくいが、この最後の工程の意図を正確に伝えることにした。


「あのね、水分がなくなるまでっていうのは、だし汁が具材に全部染みこんだら終わりっていうことだから、具材を煮汁につけておいて欲しいのだけど……」


途端に、娘の顔がムンクになった。そう、あのムンクの叫び。


「えっ!」


口を縦に大きく開けて、娘はただ煮汁を沸騰させているだけだというこの状況の奇妙さに気が付いた。


「おおおおおっっっ!」


羞恥のあまり雄叫びを上げる娘。そして、もう堪えきれず爆笑する私。


ひたすら味が染みこんだら終わりの煮汁を具材から引き離し、ぐつぐつ蒸発させていた娘の、真剣な姿は、親目線ではあるが、本当に可愛かった。



夫に是非とも聞いてもらいたい話だったが、娘が鋭く私を睨んだ。


「絶対、誰にも言わないで!」


言いたい。すごく言いたい。


だって、そんなフライパン見た事ある?煮汁を中央にして味を染みこませたい具材が周りを囲んでいるって。


どうしても家族に話したくて私も必死に頼んだ。


「パパにだけ話していい?私の言い方が悪かったことだし、娘は水分が無くなったら終わりだと聞いたのだから、その通りにしただけのことだし、何も恥ずかしいことじゃないよ!料理初心者にはあるあるだよ!」


(いや、でも、まさかそうくるとは思いもしなかったけれども……)


寝る寸前まで頼んでみたが、どうしても許してもらえなかったので、どうしても言いたい私はここにこっそり書くことにした。

これを読んだ方は、絶対に誰にも言わないで欲しい。



挿絵(By みてみん)



これからも料理初心者の娘と料理をするのがとても楽しみだ。





注)絵が下手なのは仕様です。


拙い文章を読んで頂きありがとうございました。

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