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討伐隊

震える足で立っていたけれど、何の音もしなくなると、へなへなと力が抜けていく。

つながれた腕だけが、木の枝を揺らして上へ引っ張られている。

ぼろぼろと涙が頬を伝い、自分の運命を呪いそうになった時――

「あ、やっぱ人間がいる。おい。マジか」

声がした方を見ると、ひとりの男性が立っていた。

もう、何を考えるよりも叫んでいた。

「助けてくださいっ」

大声で言った亜優に、ぎょっと目を見開いて、彼は急いで近づいてきて彼女の口を押えた。

「魔物は近づいてこない方がいい。それは分かるか?」

低い声で怒られた。

亜優がこくこくと頷くと口から手を外され、枝と手をつないでいたロープを切ってくれた。

「馬車がこっちに近づいてきたって聞いたから、まさかと思って来てみたら、女の子が一人捨てられてるって……何したの、お前?」

呆れたような声とともに差し出された手を取ると、そのまま引き上げてくれた。

腰が抜けているわけじゃないから、意外とすんなり立ち上がれる。

「何もしてない……です」

強いて言えば、聖女と王太子の不興をかっただけ。

それにしても、殺すほどだろうか。

亜優の返事に、疑わしげな視線を投げて彼はくいっと後ろを示す。

「とりあえず、危険だから他と合流する。来い」

訝しげな顔をしながらも、彼は亜優を野営地まで案内してくれた。

彼が向かった先には、テントが張ってあり、亜優の記憶の中にあるキャンプ場のような形になっていた。

「町の外に住んでいるんですか……!?」

そんなことができる人間がいるのか。

亜優が目を見開いて聞くと、少し前を歩いていた彼は、振り返って笑う。

「そんなわけない。俺たちは、魔物の討伐隊だ」

それを聞いて納得する。

彼らは武装して、見張りも何人か立っている。

人間に近づいて来る魔物を追い払うために、討伐隊を組織して町から送り出していると聞いていた。

彼らがそうなのか。

彼らは魔物を倒すために魔物を探して歩き、数か月町の外にいるらしい。

夜寝るときや休息のために高級品である魔物除けの護符が渡されていると聞いた。

亜優を迎えに来てくれた彼は、そんな護符で守られた野営地から出て助けにきてくれたのだ。

「おい、アッシュ。見つかってないだろうな?」

野営地に入ろうとすると、見張りの男が心配そうに聞いてくる。

護符があろうとなかろうと、やはり野営地の周りには魔物がいない方がいい。

「おう。大丈夫だ」

護符の守りの中の空間へと入る。

「大丈夫じゃねえよ。もう、不審な馬車がいるって報告しただけだってのに」

その言いぶりから、亜優が連れて来られた馬車を見つけたのは、目の前のこの人なのだろう。

「ありがとうございます」

ぺこりと頭を下げると、ぶつぶつ文句を言っていた人はしまったという顔をして「悪い」と謝った。

アッシュと呼ばれた彼が来てくれなかったら亜優は確実に死んでいた。

亜優を助けない方が良いといっているも同然の言葉だった。

でも、魔物がいるかもしれない場所へ仲間が行くのを引き留めるのは当然だ。下手をすれば、ここに居る全員が命の危険にさらされる。

彼らは、討伐隊として魔物の恐ろしさを、誰よりも知っている。

こんなところで誰かを助けている場合ではないのだろう。

それでも、彼は亜優を見捨てろと言ってしまったことに対して謝ってくれたのだ。

危険を承知で助けてくれた人も、謝ってくれるこの人も、いい人だ。


この世界に来て、ようやく本当に良い人に出会えた気がして、ほっと息を吐いた。


彼らは、十人で魔物の討伐隊を組み、動いている。

魔物の力が強くなる夜は避けて、昼間に魔物を狩るらしい。

「まあ、狩るといっても、王都に近づかないように追い払っているといった方がいいか」

アッシュ・ダグワーズが苦笑いで言う。

弱い魔物なら倒せることもあるが、逃げる魔物を追いかけたりはしないという。

それよりも、何故か人間に近づこうとする魔物たちを追い返すことに力を注いでいる。

小さなものを一匹倒すために戦闘員を失うわけにはいかないのだ。

彼は、若いながらにこの討伐隊のリーダーなのだそうだ。

「身分が一番高いだけ」

長い茶色の髪を揺らして、彼は何でもないことだという。

「親のおかげで貴族って身分を貰っているからね。こんな精鋭の討伐隊でもリーダーを名乗れる」

アッシュの言葉に皮肉を感じ取って首を傾げる。

「またそういうことを言う」

呆れたようにため息を吐くのは、先ほど見張りをしていた男性――リキト・アサレだ。

アッシュがやんちゃさを残す見た目だとしたら、こちらは渋いおじさんだ。

金色の短髪をくしゃくしゃっとかき混ぜながら苦い顔をする。

「何度も言っているだろ。適材適所だ。俺じゃついてこない奴らもいる」

リキトの言葉に、アッシュは苦く笑うだけ。全く信じていない顔だ。


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