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妖精を見つけた

案の定、母からいぶかしげに見られたが、それは仕方がない。

森から帰ってきたというのに女性を伴っていたのだから。さらに言えば、アッシュが女性を連れて帰ったからだ。

アッシュは、今までは仕事人間だったので、女性と親しくするなんて有り得ない生活だった。

親しくしたいと思ったことも無い。

それなのに、いきなり女性を連れて帰った。というか、どこにいたんだって思うだろう。

興味津々の母の視線に、余計なことは言うなよと目で訴えた。

降ってわいたような話だろうが、気が付かなかったことにしてほしい。

アッシュが、亜優を好きだなんて。


ああ、改めて考えると、やはり恥ずかしい。だって、まだ出会って三日だぞ、三日!

最初に見た亜優の姿が脳裏に浮かぶ。人間に捕まってしまった哀れな妖精。ぽろぽろと綺麗な涙をまきちらしながら、アッシュに助けを求める姿。


好みど真ん中だった。


好みだから助けた訳ではない。全員をすべからく助けようと思っている。

ただ、その後の優しくて甲斐甲斐しい姿は、好みだったからだ。

とりあえず、できるだけ優しくして、好きになってもらいたかった。討伐隊メンバーにはすぐさま気付かれた。

アッシュは人生で初めて女性を口説いていたのだ。


でも、できれば母親にばれるなんて恥ずかしいことにはなりたくなかったが、成り行き上仕方がない。

母は、亜優が森に捨てられていたというと、ひどく驚いた。

当然だ。

それで、生きてここに居るなんて、奇跡に近い。

「――三か月?翻訳……」

それ以上に、亜優の様子に気がかりがあるようで、眉間にしわを寄せて考え込んでいた。


討伐から帰ってきた翌日だけは休みだ。明日は城に報告に行って、それが終われば、もう少しまとまった期間、休みをもらうことができる。

亜優は、早速、母からマナーを仕込まれていた。

アッシュの気持ちがあると分かっているからだろうが、通訳だと思っている亜優は目を白黒させている。

……さすがに可哀想で、昼食時は、マナー教室はやめてもらった。

それでも、亜優は不満げにグチグチと文句を言っている。

アッシュの花嫁候補に挙がってしまったのだ。申し訳ないが、耐えて欲しい。そして、できれば受け入れて欲しいところだが、気持ちも伝えてない状態で、亜優に教育を受けさせ始めたことに罪悪感がある。

母には、勝手なことしないでほしいと言ったのに!

アッシュが罪悪感を抱えていても、亜優は彼に微笑む。

綺麗な顔で。無邪気な顔で。

明後日からは、いろいろなところに二人で行こう。彼女に、引かれないくらいのアクセサリーをプレゼントして、美味しいものを食べて、綺麗な景色の中を歩く。

亜優にプロポーズする姿を思い浮かべて、一人でにやけていた。


次の日、後ろ髪引かれながら登城した。

着いてすぐに、最近、風邪でも流行っているのか?と思った……と、思う。

ここから、すぐに記憶があいまいになっている。

報告は、直接しろと王太子から命令が下った。

討伐隊が帰ってこない状況は、王太子も心を痛めていてくれたのかもしれない。

アッシュは、指示された部屋に入った。


そこは、一人の女性のハーレムだった。


そこは、他国の王族を通すこともある、城で最も立派な客室だった。そんな部屋を与えられた女性は、部屋の真ん中のソファーで、下着姿で寝そべっていた。

その女性の傍に、王太子を含む4人が膝をついている。

それ以外に、お茶の準備をしている男や、楽器を奏でる男、ただ突っ立っているだけの男。

全て、身分が高く、見目麗しいものばかり。

その光景を見て、アッシュは眩暈がした。

有り得ない状況に呆れたとかそういうのではない。現実に、本当にくらりと倒れそうな気分になったのだ。

「あなたが、ダグワーズ家の方?」


幼いような声が聞こえ、彼女と目が合った瞬間――アッシュは、堕ちた。


自分に何が起こっているのか分からない。

しかし、ごそっと、自分の中のものが全て持って行かれた。

「やだ。誰かに恋しているのね?うふふ。これももらっちゃおうっと」

聖女の楽しそうな声に、アッシュは微笑んだ。

自分の恋心も何もかも、彼女のものなのだから、当然だ。ああ、愛おしい。

聖女に触れられるのは、常時彼女の傍に侍る者たちだけ。

アッシュは、聖女に恋い焦がれ、あの美しい髪に一度だけでも触れたいと、ずっと彼女の傍に付き従っていた。

あの光輝くような黒髪に触れたい--。聖女を見る。彼女は金髪だ。

アッシュは首を傾げる。聖女を見る。……まあ、いいか。

ああ、彼女は、妖精のようだ。夜の闇の中捕らわれていた妖精。


アッシュはうっとりと、聖女を見上げていた。


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