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とにかく、放して

亜優が触った途端、アッシュは大きな悲鳴をあげた。

「――えっ?あ、えと、ご、ごめんなさい」

痛くしたはずはない。ただ、触れただけのはずなのに、アッシュは絶叫して地面に倒れ込んだ。

何故こうなったのか分からない。

「ご、ごめ……どうして?どうしたらいい?」

倒れたアッシュの傍に膝をつくけれど、触れればアッシュは苦しむし、亜優にはどうにもできない。

マリンとシェアに視線を向けても、二人とも呆然としていてどうすればいいかの答えをくれない。

それなのに、アッシュは苦しそうな中で、亜優に手を伸ばしてくる。

怖がっているような、でも縋り付くような表情。

伸ばされる手は震えているのに、真っ直ぐに亜優へと伸びている。

どうしていいか分からないながらに、亜優は伸ばされる彼の手を取る。

「くうっ……!」

途端に、アッシュは頭を押さえて呻く。

しかし、亜優の手を痛いほどに握って離さない。

「アッシュ、痛いの?」

亜優が声かけても戻ってくる声はない。

アッシュは、声も出ないほどに苦しんでいる。しかも、なぜか亜優が触れた途端に悲鳴をあげたのだ。

「この手を放した方がっ……!」

原因が自分である気がする。

どうしてそんなことになるのかさっぱり分からないが、アッシュは亜優に触れてから、苦しんでいる。

しかし、うずくまってうめくアッシュから手を握られていて、亜優は動けない。

大声を上げながら苦しそうにするアッシュを、亜優は呆然と眺めた。

「どうしよう……アッシュ、お医者さん連れてくるから」

とにかく、今は専門の人に診てもらわなければ。

亜優は立ち上がって、玄関先にいたシェアに目を向ける。

亜優の視線を受けて、ようやくそれに気が付いたシェアはすぐに家の中に踵を返す。医者と連絡を取ってくれるのだろう。

「ごめんなさい。私も、何か手伝ってくるから」

シェアにばかり任せるわけにはいかない。

しかも、どうしてか分からないけれど、亜優が触るとアッシュが苦しむようだから、離れていた方がいい。

そう言って、彼の手の中にある自分の手を取り返そうとするのに取り返せない。

アッシュが絶対に放してくれないのだ。

「アッシュ、放して」

アッシュは、荒い呼吸を繰り返しながら、小さく首を振る。

「――も……う、少し」

彼が囁くような声で言う。

多分、その声を出すこともきついのだろう。

亜優は少し考えて、そのままアッシュの隣にしゃがみこんだ。

亜優に触れると、彼は苦しむようだけれど、それでも彼がここに居て欲しいと言うのだ。


――ならば、ここにいよう。


どうしても、アッシュをいたずらに苦しめているだけのような気がして心苦しいけれど、彼がこうして欲しいと言うのならば、そうするべきだ。

亜優が腰を落ち着けることを感じ取ったのか、アッシュの視線が亜優に向けられる。

「ありがとう」

苦しくてかすれた声の中、お礼を言われる。

困って傍らに立つマリンを見上げると、彼女は非常に険しい表情をしていた。

「アッシュ、そうしていれば、正常になっていくの?」

正常?この状態が?

亜優が近寄らない時の方が正常だった。今はこんなに苦しんでいるのに。

亜優が不思議に思う中で、アッシュは荒い息を吐きながら小さく頷いた。

さらに強く手を引き寄せられ、今度は腕を掴まれる。さっきまでの悲鳴はなくなり、アッシュは浅い呼吸を繰り返している。

じわじわと抱き寄せられているのは何故だろう。

苦しんでいるアッシュが、今や亜優の腕に巻き付いてしまっている。

「落ち着いてきたの?だったら、家の中に入って、横になりなさい。亜優も一緒に」

マリンから声をかけられる。

「――ああ」

ひと際大きく息を吐き出し、アッシュの体から力が抜けた。

頭痛がなくなったのだろうか。

亜優は、力が抜けた彼の腕からじぶんの腕を抜いた

――ら、アッシュが亜優に覆いかぶさるように抱き付いてくる。

「ちょっ……!?アッシュ!」

「……頭が、ようやくクリアになってきた」

頭がクリアになったら、亜優に抱き付くのか。

そこの関連性がさっぱり分からない。

慌てて叫ぶ亜優を無視して、アッシュが満足げに頷いている気配がする。

声は、先ほどのたうち回るほどの痛みのせいか、かすれているけれど、さっきまでの……亜優を見ておびえていた時の声色ではない。


「ああ……そうだ。そう、これが俺だ。亜優……よかった。ありがとう」


何故か首筋でお礼を言われているが、ぞわぞわしてそれどころではない。

「は?よく分からないけど、放して」

抵抗しても、「今は無理なんだ」と囁くように言われるだけ。



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