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歓迎

どういうことだ。今度はアッシュの部屋に亜優が行くことを推奨しているような態度だ。

マリンだけではなく、この家の執事まで推奨しているのか。おかしいだろう。

余程モテなくて、将来が不安だとか、誰でもいいから女性を!というならわからないでもない。

しかし、アッシュは普通にイケメンだし、身分も財産も有りそうだ。

討伐隊をまとめる実力もあって、そのために努力を惜しまない、素晴らしい人だ。

何より、亜優のような正体不明の女性にまで親切にしてくれる優しい人。


――結婚相手に不自由することは無いだろう。


なのに、この怪しい女を近づけてもいいのか?

彼らがどういう価値観をしているのか、分からない。

その後も、庭だとか食事場所などの説明を受けながら、部屋に着いた。

「こちらが、亜優様が今後使っていただく部屋です」

亜優……様?

使用人としては、彼の方が上のはずなのに、つけられた敬称に亜優は慌てる。

「あの、呼び捨てでお願いします」

「おや。申し訳ありません。ですが……」

シェアは考えるように宙に視線をさまよわせてから、にっこりと笑った。

「通訳は、使用人の中でも地位が上なのです。奥様や旦那様、アッシュ様の傍近くに行かれるので、こちらは丁寧に対応しなければなりません」

今、そういうことにしようと思いつきませんでした?後付けの理由のように聞こえたのですが。

そんな疑念を抱かせる態度だ。

しかし、そんな嘘を吐かれる理由も思いつかないので、亜優は「そうなんですか」と返事をするしかなかった。

『そんなわけがない』と思っても言えない。

『普通そうでしょ?』と言われそうなのが怖くて、相手が当たり前にやっていることを否定できない。……常識がないって辛い。

「では、こちらです」

にこにこと、シェアは亜優を部屋に促す。

「はい。……こちらです?」

扉が妙に立派だなと思いしたけれど、外観は綺麗にしていないと来客時に困るからかなと考えていた。

でも、一歩部屋に入った途端、絶対使用人部屋じゃないと確信する。

仕事をしていた時の部屋よりも……というか、元の世界の一人暮らしの部屋よりも広い!

これはおかしい。

「こんな部屋……!」

「質素ですか?もう少し広い部屋を準備いたしましょうか?」

「…………」

言いかけた言葉を引っ込めた。

この数十畳はある部屋を質素と言える、この家の人。

もしかして、貴族に雇われれば、このくらいの対応になるのか?

亜優は、どれくらい自分が物を知らないのか分からない。『ご存じありませんか?』と聞かれたとして、それがどの程度常識外れなのかが分からないのだ。

だから、与えられるものを与えられるままに享受してきた。

亜優は、そっとシェアの顔色を窺う。

亜優の視線を受けて、彼はにっこりと笑う。

「必要なものがあればお持ちしますよ?」

通訳というのは、こんなに厚遇されるほど、地位が高いものなのか?

翻訳の仕事をしている時は、それなりに高位の仕事だろうと思っていた。部屋を掃除してくれる使用人などもいたし、食事だって、思ったよりも豪華だった。

だが、ここまで良い部屋を与えられるほどか?


――困った。分からない。


亜優は、仕方がないので「いいえ」と小さく首を振って

「ありがとうございます」

ふかふかの絨毯にふかふかの布団。ソファもテーブルもあって、とても居心地の良さそうな部屋を貸してもらえることに甘えた。


その後、マリンとアッシュと夕食を摂り、デザートまでいただいてしまった。

お風呂もいいと言われたので、なんと、この世界に来て初めてお湯につかれた!これには感動してしまい、アッシュに満面の笑みでお礼を言うと、彼が真っ赤になった。

「亜優。お風呂上がりの火照った顔で誘惑するなんて」

ほほほと楽しげに笑うマリンの言葉に、顔が熱くなる。

そういうつもりではなかったんだけど!

「ご、ごめんなさい」

ああ、上着をもう一枚羽織っていればよかった。

ワンピースなんて、元の世界では着慣れていたから、油断した。

なんと、様々な洋服も、彼らが準備してくれた。

捨てられたのなら、何も持っていないだろうと身の回りの品を全て準備してくれたのだ。

その代わり、数カ月は給料なしだと言われたが、住む場所があって食べるものがあって、全く困らない。

しかも、きちんと仕事もさせてくれるのだ。今後、給料がもらえるようにもなる。

「いや……喜んでくれたなら良かった」

アッシュは亜優から視線をずらしながら、微笑んで言う。

亜優も、アッシュの態度に頬を赤らめながら、もう一度お礼を言った。


そんな二人の様子を、マリンはもちろん、使用人たちも微笑ましく見守っていた。



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