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部屋へご案内

「なるほど。分かったわ。では、この家の通訳として働いてくれるのね?」

さっきの視線でどういうやり取りになったか分からなかったが、突然雇ってもらえるようになったようだ。

「は、はい……!亜優と申します。よろしくお願いします」

あまりにもあっさりと雇ってくれるので、嬉しさよりも戸惑いが勝ってしまう。

アッシュを見たり、周りの人たちの表情を見るが、慌てている様子はない。

こんな怪しさ満点な女を、いきなり雇い入れるのですか!?と、誰かツッコミを入れて欲しい。

「大丈夫。私は、息子の見る目を信頼しているわ」

亜優の表情を見て、彼女は軽やかな笑い声をあげる。

「さあ、自己紹介をしなくては。私はアッシュの母親。マリン・ダグワーズよ」

マリンと名乗った女性は、華やかに笑って亜優に向き直る。

「夫――アッシュの父ね。彼も、別の壁の扉から外に出ているの。だから、挨拶ができなくてごめんなさいね」

アッシュの父親も外にいるのか。

どうやら、ダグワーズ家は代々伝わる軍人の家系で、こうやって魔物から人々を救ってきているらしい。

「あの人も、今回はちょっと長いけれど」

マリンは寂しそうに笑って、今度は執事を示して言う。

「彼は、この家を取り仕切ってくれている執事のシェア。彼に仕事のことを聞いて。あなたが必要だと思うことを手配してくれるわ」

シェアは、目尻にある皺をさらに増やしながら笑みを浮かべる。

「よろしくお願いします。では、早速お部屋のご準備などしなくては」

亜優が、準備など自分で!というより前に、マリンが返事をしてしまう。

「ええ。お願い」

急に進み始めた会話に、何から聞けばいいのか、頭の中に言いたいことがひしめき合う。

「部屋の場所は、後から教えてくれ」

「あ、はい」

アッシュから声をかけられて、亜優は返事をしたものの、どう教えるのかと思って、シェアを見上げる。

シェアは亜優の気になるところとは別のところが気になったようだ。

「アッシュ様、知って、どうなさるおつもりですか?」

シェアは眉間にしわを寄せて、不可解だといわんばかりにアッシュを見つめている。

「は?いや、知っておいた方が後々……」

ぼそぼそと説明するが、アッシュはマリンとシェアから冷たい視線を浴びてしまう。

「女性の部屋に行くつもりじゃないでしょうね?」

そんな大層なものなのだろうか。

まあ、使用人の部屋に主人の息子が行くのは目立つのだろうが。

「部屋を訪れるにはまだ早いと思わない?」

……まだってなんだ。まだって。

使用人になったら手を付けられるのは確定みたいな言い方に、亜優は少し眉を顰める。

アッシュは、そういう人だったのか。若い使用人には、とりあえず手を付けてみるような?

亜優がアッシュを見ると、彼もこちらを見ていて、目が合う。

「……なんか、誤解を受けている気がする」

亜優の表情に、アッシュがショックを受けたような顔をした。

アッシュが慌ててマリンに弁解をする。

「母さん、俺はそう言うつもりで部屋の場所を聞いたんじゃなくて、亜優がどこにいるかしっておきたいというか……」

アッシュを無視して、マリンは亜優の方を見る。

そして、亜優の誤解を理解して、ゆるく首を振りながら安心させるような笑みを浮かべた。

「あら。誤解を与えてしまったのかしら。大丈夫よ。息子は手あたり次第使用人に手を出しているのではなくて、あなたに手を出したいのだから」

「母さん!?」

アッシュの大声を聞きながら、自分の頬が熱を持ったのを感じた。

「は、はあ……」

手を出したがられていると聞いて、『そうですか』と返事をできるわけがない。

一応、亜優に話しかけられたので返事はしたが、何とも言いようがない。

マリンは、亜優からアッシュに視線を移し、小さな子を諭すように言う。

「アッシュ。そうがっつくものではないわ。とりあえず、彼女が落ち着くのを待ちなさい」

なんというか、身もふたもない。

それは、この家に亜優が慣れれば、良いと言っているようなものだ。

彼は、もう二の句が継げなくて、口を開いたり閉じたりしている。

そんな、どうしようもない雰囲気の中、シェアがニコニコと笑う。

「では、ご案内いたします」

シェアが亜優を促す。

妙に丁寧な態度に違和感を覚えながらも、亜優もこの場にはもういられなくて、足早に彼について行った。



部屋に案内されている間に、シェアはあちこちの部屋の場所について教えてくれる。

「こちらがアッシュ様のお部屋ですが、訪問されるときは、教えてくださると助かります」

特に、アッシュの部屋は一番に教わった。

メイドならまだしも、通訳という仕事で、ご子息のお部屋に伺うことは無いような気がする。


「い……行くときは、ですね」


ただ、折角ご案内をしていただいたので、亜優は引きつりながらも頷いた。


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