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街へ

やばいのはこっちの方だ!


頬を染めてイケメンに可愛いだのなんだと言われて。さらにその人は命の恩人の上、優しくその後の面倒も見てくれるとかっ……!

どれだけ惚れさせようとしているのか。

普段の生活で、こんな人がいたらイチコロだったに違いない。

絶対に目をハートにして彼を見上げることになっていた自信がある。


亜優は駄目だ駄目だと自分に言い聞かせながら大きく息を吸い込んだ。

亜優の立場は、微妙なのだ。

どうしてこの世界に来たのか、はっきりしない。

何かの役割のためか、聖女様の付き人として呼ばれたのかも、分からない。しかも、何故か、ものすごく聖女に嫌われているようだ。

聖女様に嫌われたせいで、高位の男性だと思われる人たち全員から反感を持たれている。

ゆっくりと、自分の立場を反芻しながら、もう一度心の中で「駄目」だと唱える。

アッシュは貴族だと言っていた。

亜優を受け入れることで、彼に被害が及ぶようなことがあってはならない。

ようやく、熟れたような顔色が戻ったように感じた。


陽が高くなって、街の門が開いた。

そこから、数台の馬車が走り出て行く。夜になる前に隣の町に着かないといけないので、どの馬車も急いで出発していく。

そんな中、亜優たちはゆっくりと門に近づく。

彼らは、背筋を伸ばして、行進のように歩いている。

「緊張していますか?」

さっきまでの荷物を片付けていた陽気さがすっかりなくなって、みんな表情が硬い。

アッシュが亜優を見て困ったように笑う。

「ああ……三か月も、毎日、魔物と戦っていたからね。一日で、魔物の匂いが取れたか、分からないんだ」

彼の言葉に、同意するような沈黙が落ちる。

唇を引き結んで、荷物を強く握っている。

「お、俺っ……!魔物と会わない日がこんなにすぐ来るなんて、思わなくて、毎日きれいにするの、怠っていました!もっ……もしかしたら、俺だけ、街に入れないかもしれないっ……!」

ライトが、突然、震える声で呟いた。

街に貼られた護符で、入れる人間と入れない人間に振り分けられる。

もしも、たった一人、森に残されたらと、恐怖で彼は泣いていた。

亜優は、朗らかに笑っていた彼が、こんなふうに泣く姿に、何て言葉をかければいいのか分からない。

「大丈夫だ」

ため息のような声で、アッシュが応える。

「この中の、誰か一人でも入れなかったら、俺が残る。全員が入れるかは分からない。誰も入れないかもしれない。だが、一人残されるかもしれないって恐怖だけは、取り除いておいてやる」

ライトが目を見開いて、さらに涙を流した。

「アッシュだけじゃ頼りないだろ。最年長として、俺も残ってやるよ」

リキトが言いながら、ライトの肩を抱いた。

「ありがとうございますっ」

もう、号泣だ。

入れないのが確実だとでも思っていたのだろうか。

「たーだーし、今、お前が言った清潔保持を怠ったってのは問題だからな?しっかりと説教はさせてもらう」

ピタリと、ライトの動きが止まって、そうっとリキトを見る。

リキトは、笑いながらも怒っていたようだ。

「清潔にするのは基本だって言っていたよな?そこのところ、後からきっちりと聞かせてもらうからな」

「はいぃ」

情けない返事に、小さな笑みがこぼれた。


――亜優は願う。

この優しい彼らが、家族のもとに帰れることを。

魔物の匂いなど感じさせず、無事に門を通り抜けたい。全員で。


門が目の前に近づいてきている。

周りの緊張感はさらに高まっていた。

門には一応衛兵が配置されているが、出入りは基本的に自由だ。

魔物の気配がする者は、結界に阻まれてはいることができない。

そうやって結界に跳ねのけられたときに、衛兵は対応するだけ。

討伐隊は、静かに歩く。

弾かれるとき、どの時点ではじかれるのか分からないため、全員が全身に力を入れてゆっくりと歩く。

そして、何の抵抗もなく、あっさりと街の中に入った。

「入れた……」

信じられないという声が聞こえた。

ライトは、折角止まった涙が、またぶり返して大泣きしている。


亜優も、ほっとしていた。

誰かが弾かれて、そこに注目が集まった時、亜優も一緒に目立ってしまうかもしれない。

まだ午前中だということもあり、門は出発する人や迎える人でごった返している。

それでも、女一人が外からやってくると目立つ。

どうやってここまで来たか聞かれるかもしれない。亜優には嘘を吐けるほど知識が多くない。変なことを言って、さらに注目を集めれば、聖女に知られてしまうだろう。

目立つことはできない。

どうにかして収入を得て、そっと暮らせる仕事を見つけようと思う。



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