帝王は、風邪をひきいい思いをする
これまでが蘇ってから初日の出来事だった。その日はすぐに布団に入った。夢を見た。アイツに何度も何度も殺される夢だ。殺される度に跳ね起き、夢と認識して気分が悪くなる。
そうして迎えた朝は最悪の一言に尽きる。頭もボーッとするし、変な気分だ。しかし、一刻も早く咲宵を説得して一緒に付いてきてもらわないと…
…まさか咲宵が俺の事を好きだとは…今までそんな様子は一回も見せなかったのにな。兄がこの世界にいる事で気が動転してい…?なんか考えが纏まらないな…ま、いっか……
俺はベッドから起き上がる。すると、足に力が入らず、そのまま顔から床に倒れ伏した。…あれ?俺今どうなってるんだ?…体が熱い。目や耳もよく分からない…
「…だ……さま!?だれか!は…く!」
…イブ?何を焦ってるんだ…?意識が…
目が覚めると額が冷たかった。氷嚢が当てられている。…僕(•)は風邪を引いたのか?左手はイブが、右手はケシャナが、それぞれ握りながら眠っていた。
体を起こし、しばらく何も考えずボケーッとしていると咲宵が入ってきた。その手には水の入った桶とタオルが握られている。水をつけ絞りこちらを向いたその時目があった。
暫し無言で見つめ合う2人。
先に反応したのは咲宵だった。
「お…起きてんねやったら、なんか言えや!アホー‼︎」
そう言って手に持ったタオルを投げつける。が、少し回復したカルワは軽々とキャッチ。
「咲宵…も、看病してくれたのか?」
「イ、イブに頼まれたからや‼︎ウチが自分でやった訳ちゃうからな!勘違いせんといてや‼︎」
「…ありがとう」
「ッ!???!?」
にこやかな笑顔で放たれたその言葉は咲宵の心にクリーンヒットした。もしこの世界がマンガの世界だったら咲宵の瞳はハートになっていただろう。
普段は見せない表情と言うのはそれだけで凄まじい破壊力を持つ。更に自分の頑張りを労う言葉が付いてきたら?そんなもんコロッといってしまうに決まっている。
咲宵はカルワのベッドに上がる。その息は断続的で瞳は膨張している。そして、カルワに馬乗りになった。
そこまでされてもカルワは微動だにしない。寝起き+風邪など今が現実か夢かも分かっていない。咲宵と話した事も殆ど無意識。もう一度起きたら忘れているだろう。
それを知ってか知らずか、普段の咲宵では考えられない様な行動をとった!なんと、カルワの服を脱がし始めたのだ!カルワは抵抗するどころかむしろ脱ぎやすい様に動くだけだった。そして、剥き出しになったカルワの上半身。がっしりとした肩。綺麗に四角になり盛り上がった大胸筋。鎧の様な腹横筋。板チョコの様な腹直筋。その溝に溜まる汗。
「ハァ…カッコイイ…
ウ、ウチが吹いたるからなぁ?」
カルワの手からタオルを取り、そろーっと近づける。
「んっ」
「つ、冷たかったか?」
「…大丈夫。もっと…やって?」
お気付きの方もいるだろうが、このカルワ。思考が大分幼児退行している。自分の事を僕と呼ぶのは6歳の時以来だ。そうなれば当然、言動や考え方等もそれにつられて退行している。
若干ショタコンの気がある咲宵からしたらご褒美でしかない。汗を拭いているだけなのに何かいけない事をしている様な気持ちになる。
「ハゥッ!?た…堪らんわ〜今やったら何でもいけるんちゃうか?お、お姉ちゃんって言ってくれるか?」
「?お姉…ちゃん?」
コテンと、首を傾げながら言う限り、ケシャナの事をどうこう言える立場では無いのだが、勿論咲宵には効果抜群!失神しそうになるのをなんとか堪えて次のお願いを考える。
「じゃ、じゃあ…お姉ちゃん、大好きって言ってくれへん?」
しかし、幸せな時間と言う物はそう長くは続かない物で…
「お姉ちゃん、だいす…ヘッ、ヘックチュン!…咲宵?何故俺の上に跨っているんだ?」
クシャミの音で眠っていた2人も目を覚ます。
「ア、アワワ…ぜ、全部夢やからぁ‼︎」
すぐ様ベッドから飛び降り部屋から出て行った。
「…咲宵?一体どうしたのかしら…って旦那様!?何で上裸?」
「ま、まさかカルワ君…咲宵さんと、そう言う事を…?」
「は?え?いや、違うからな!?」
「「…怪しい」」
「そもそも咲宵が俺の事を好きだって知ったのも昨日なのに!」
「昨日の今日で、そう言う事をするのね…
旦那様の事、信じてたのに」
スッとイブはカルワの手を離す。
「正直…ドン引きです。
カルワ君はそう言う人じゃないと思ってたのに…」
同じくケシャナも手を離す。
しかし!カルワは素早く離れた手をもう一度掴み直し
「俺が!イブとケシャナを裏切る訳が無いだろ!正式に付き合っているのは2人だけなんだから、そんな不誠実な事はしない‼︎他の女は関係無い!俺だけを見ろ‼︎‼︎」
「旦那様…好き‼︎」
「私も‼︎」
今日のカルワは男気を見せたおかげでバッドエンドを免れたのであった。
世界表現システム(作者)「全一さん、あなたの作った世界…女性チョロ過ぎません?」
全一「…知るかんなもん。ってか、カルワが男前なだけだろ」
作者「いやいや…完全に成長したら魔法使いになる奴の妄想じゃ無いですか」
全一「…別に面白かったら良いだろ」
作者「まぁ…それは確かに一理ある…
あ、そうそう。最後のオチこっちにしようかめっちゃ迷ったんで、一応載せときます!」
同じくケシャナも手を離す。
そして、そのまま2人は部屋を出て行った。
「俺は無実だー‼︎」
熱にうなされながら叫んだ言葉は誰の耳にも届かぬまま虚空へと消えていった。
チャンチャン。





