敗北者は、また敗北する
さっき殴られた腹が痛む。クソ!あの爺…肉体強化(MPを使って肉体の能力を上げる。上昇率は、賢さと消費するMPに依存する)していやがる。それに加え元々のステータスも高い。…だが、勝つ必要が無いと言うのはラッキーだ。それならば、合格できる!
次は、魔術で雷球を放ってきた。しかし、さっきは不意をつかれたのに対し今回は間合いも取れているし、警戒もしている。俺は軽々と避け、雷球は俺のちょうど後ろに着弾する。…後ろ?ッ!マズイ‼︎そう思った刹那、雷球が弾けて辺りに雷を撒き散らした。俺はそれをモロに食らってしまい、相当なダメージを負う。
「さあ、そろそろ面接を始めようか。
君がこの学校を希望した理由はなんじゃ?」
喋っている間も攻撃は止まない。基本的には、魔術や魔法が多いが、時々接近してきて近接戦闘に持ち込まれる。俺は、頭と体を必死に動かし最適解を求める。
「…ここなら、クッ…確実に強くなれ、我望む‼︎我が敵を射殺す氷の矢を‼︎…ると思ったからです」
こちらも答えるからと言って攻撃の手を休めたりはしない。そんな事をしたら、一瞬で負けるのが目に見えている。
「フム。強く…のぅ。儂とこうやって戦えている時点でもう十分強いと思うが?力だけを追い求めて何になる?過ぎた力は、身を滅ぼすぞ?」
「…かの破壊神にそう言って貰えるとありがたいですが…まだまだこんなもんじゃ足りないんですよ。もっと…もっと圧倒的な力が!全ての英雄を相手に俺一人で戦っても、傷1つ付かないくらいの強さが‼︎俺は…欲しい‼︎‼︎その為ならこの身の破滅なんて、受け入れてやる!そのくらいの覚悟で‼︎俺はここに来たんです!」
爺は、俺の言葉を噛み締めるように頷いた。そして、惜しいとポツリともらした。
「なるほど、よく分かった。いや、君が何故そこまで強さを求めるのかは分からないが…君の覚悟や努力は、この戦いで十二分に理解できた。面接は、合格じゃ」
たった一問だけで?一体何を考えているんだ…
「じゃが!まだ、戦いは終わっておらぬぞ?まだ、一撃を貰ってないからのぅ。しかしこのまま戦い続けるのは老体には厳しいしのぅ。久しく、血肉湧き踊る戦いが出来て昂ぶっておるのじゃが…年はとりたくないものじゃ。…では、制限時間を設けよう。1分じゃ、その間に儂に攻撃が当たらなければ君の入学は許可しな----」
言い終わる前に、俺は剣で切りかかった。が、あっさり躱されてしまう。チッ!化け物が…俺は間髪入れずに、脇腹を狙う。これも、躱される。すかさず魔術を放つが、ただの魔力波でかき消される。
「ほーれ、どうした?あと20秒しか無いぞ?残念じゃのう、折角筆記と面接は、満点だったのに」
俺は意識を落ち着ける為に深呼吸をする。
体を巡る全てのものの流れを均一にし、
意識を深く深く沈ませる。
そこには、自分と相手だけが存在して、他には何も無く、時間はゆっくりと流れる。自然と浮かんでくる動きをそのままトレースする。その動きは、一切の無駄を省いた自分の最速最適の動き。
そして…
………ブシュッ
ニヤリと笑って、爺はその傷を治す。
「…勝負ありじゃな。儂の勝ちじゃ。
…これからもちょくちょく儂と戦ってくれよ?」
澄み切った空が見える。
…あぁ、負けた。
俺が、爺に剣を当てた瞬間爺は時間を取り戻し目にも止まらぬ速さで突きを繰り出してきた。俺はピクリとも動かない自分の体に回復魔術をかけて、なんとか起き上がる。まぁ、勝負には負けたが試験には受かった。…悔しいがよしとするか。
こうして、俺の学校生活が始まろうとしていた。