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帝王は、城下を散策する


帝王としての仕事がひと段落したカルワは、自身に変化魔術を施したのち単身城下町へと繰り出した。


そこには、絶えない笑い声と途切れない笑顔ばかりだった。カルワはその光景に満足してから、本屋に向かった。今日はカルワがずっと楽しみにしていた小説の発売日なのだ。


カルワはあえて転移魔法は使わずにゆっくりと歩いて本屋に向かった。道中、屋台で肉串を食べたり、子供達と公園で遊んだりしたせいで本屋に着いたのは当初の予定より遅れていた。


カランカラーン…


店のドアに付いている鈴が軽やかな音を立てて鳴り響く。


「…いらっしゃい」


気怠げな声で客に挨拶をする店主。そんな事は御構い無しにカルワは店主が座っている所に行きカウンター越しに予約していた本を求める。予約者の名前と本の題名を言った途端に目の前に本が現れる。


そう、この店主はコミュニケーション能力が少し低い代わりに空間に対する適性が異常に高い者であった。他にもこの店主は絶対にその人が面白いと思う本を勧めることができるという能力もあり、帝都民になった。


「ありがとうございます!」


「…またこい」


カルワは予約していた本と店主に勧められた本を数冊買って店から出た。そして、宝石店に向かう。理由は勿論妃たちへのプレゼントを買う為だ。


「いらっしゃいませー!自分用ですか?プレゼントですか?」


店員に突然話しかけられて一瞬だけ脳が停止するもそこは帝王。その一瞬で切り替え、丸で熟練の客のように対応する。


「プレゼントです。2人分お願いできますか?1つは緑か黄色。もう一つは夕焼けのような赤でお願いします」


「畏まりました。失礼ですがご予算の程はおいくらぐらいを見積もっておられますか?それと、形状的には何か希望などはありますか?」


「お金には余裕があるので金額は気にしないでください。流石に1億円とかはダメですけどね。形状は…体に傷をつけるようなものはやめて欲しいですね」


「いえいえ、そんな高価な物を一般のお客様に勧める訳にはいきませんよ!

…分かりました、ではその条件でお調べさせて頂きます」


「お願いします」


数分後、彼女は2つの腕輪を持ってきた。円が少しずつずらされながら重なっているようなデザインだ。本体は緑色の宝石がついている方が銀。赤い宝石がついている方が金となっている。


「こちらは如何でしょうか?」


「…良いですね。なんだが直感的にビビッときたのでこれにします。いくらですか?」


「2つ合わせて110万ですが、今回は100万まで勉強させて頂きます」


「分かりました。ではこれで」


そう言ってカルワが取り出したのは現在で言うところのデビッドカードだ。そしてそれを店員の会計用カードと合わせ、払い終えた。


この技術は咲宵からもたらされたもので魔素を通して銀行などと繋がっている。


当然、支払った時にその口座の口座主の名前が表示されるので…


「カルワ…様?…カルワ様!?えっ?嘘、帝王陛下?」


「あ、やべ。ありがとうじゃあな!」


カルワは慌てて2つの腕輪をもらいその場から逃げるように転移した。

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