敗北者は、復讐心を滾らせる
気がつくと僕はベッドの上にいた。体を起こすと、身体中に痛みが走った。横を見るとお母さんがスヤスヤと眠っていた。
「お母さん」
僕は小声で、でも力強くもう一度言う。
「父さんの仇は、僕がとるよ」
〈9年後(カルワ15歳)〉
俺は、この9年間必死に努力した。まず剣術の方は家庭教師を雇うのをやめ。図書館の剣に関する本を片っ端から読み漁り、自己流の剣術を編み出しそれを極めた。恐らく、今の俺ならガズールにも勝てるだろう。
…勝つ…か。俺は今までの人生で勝利と言うものを味わったことがない。いじめられていた時もそうだ、反撃しようとしても出来ない。体が動かないんだ、ビビってるとかそういうのじゃ無い。何らかの力で強制的に攻撃が出来なくなる。
… 絶対的な敗北者 のせいだろう。クソが‼︎俺の‼︎人生を‼︎めちゃくちゃに…しやがって‼︎‼︎
…話が脱線したな、戻そう。俺は英雄共に負けてから何故か 魔法術 が使えるようになっていた。 魔法術 とは魔法で魔術を強化してから、魔術を使う技術の事だ。その相乗効果により、それぞれを別々に使う時とは、威力も速度も段違いに強くなる。こちらも本を読んで理解を深めて実戦で十分使えるくらいにはなった。
それでも、万全を期す為に鍛錬は続けるつもりだ。
何故今こんな事を考えているのか。それは、こんな物が届いたからだ。
『協立英雄学校 推薦状』
※英雄とは英雄協会が1年に1回行う試験に合格した者の総称である。二つ名が付いている者は、全体の5%程で他の英雄とは一線を画す強さである。
また、学校に通わなくても試験は受けられるが、通った方が合格率が高いのと、英雄になった後に、学校から色々と支援を受けたり出来るので普通は入る。
学校に関してのお金や持ち物は一切要らず、身分が低いからといって入学を拒否される事は無い。それは最初の英雄が、『才能さえあればどんな者にも教育を受ける権利がある』と言う言葉を理念に掲げて英雄学校を創設したからである。
協立の英雄学校は、1つの国に1つしか無くそこに入れれば英雄になる事とその後の人生は、完全に保証される。と言われるくらい。
「お母さん、こんな物が届いたんだけど…俺は行きたいと思う」
お母さんは、推薦状を受け取ると最初に驚き、次に喜びを表した。そして、真剣な表情になり、席につきなさいと言った。
「貴方は過去に英雄にあんな目にあわされた。もう少し発見が遅かったら…命を落としていたかも知れない。…まだそんな存在になりたいの?」
お母さんは、何か誤解しているようだ。
「俺は英雄になりたいんじゃ無いよ。もっと強くなって絶対に復讐を成功させる為に行くんだ。その為に仕方なくアイツらと同じ存在になったとしても俺はかまわない。アイツらに復讐する為なら俺は何だって受け入れる」
お母さんは、しばらく俯いていたが顔を上げると物置の方に行き一本の剣を取ってきた。
「貴方のお父さんの剣よ。…どうか無事に帰って来てね」
「お母さん…ありがとう。絶対に帰って来るよ…行ってきます」
そして、僕は王都に向けて踏み出した。