閑話 公爵は、有意義な議論に挑む
『帝国から宣戦布告された。至急王城会議室に来たれよ』という王命が下され、私は王都に向かっている。
全く…今日はイブが合宿から帰って来る日なのに…えぇい、カルワ君め!今度あったらタダじゃおかんぞー!そもそも、合宿から帰ったその日に普通宣戦布告なんてするか!?しかも、開戦明日って!準備期間ねぇじゃん!!
〈移動中…〉
※流し読み推奨!(公爵は近衛転移師による短距離転移で移動している。魔法は猿でも使えると言ったが、時間・空間系は別。
しっかりとした情報がないと言霊は働いてくれないので、今の場合『王城の会議室に転移!』と言っても言霊にとって人族の建造物の名称などいちいち覚えている筈もなく転移は起きない。世界に設定されている座標(絶対座標)を使うか自分を原点とした相対座標を設定すれば良い。
が、そもそも絶対座標を知るすべも無いし、相対座標は少しのズレで命を失うかも知れないので訓練されていない者には非推奨である。
また、走るのと同じで距離が長くなればなるほど、転移する対象が多ければ多いほど体力やMPの消耗が激しくなるので、短距離転移を複数回使用する者が多い。〉
〜〜〜
「では、私はこれにて」
…ハァ、着いてしまった。どうせ方針すらも決まらずただ馬鹿共が喚いているだけだろうに……それでも王の手前、私は気を引き締めて扉を叩く。
「シュランク・サイドゥルス、
ただ今参りました」
「…入れ」
「失礼します」
中には、王とその側近。軍務卿に数十人の貴族達が。全員爵位持ちの大貴族ばかりだ。私は自分の席に座る。あと2、3人程来ていない者がいるが王は一刻も早く会議をしたいようで、全員が揃わぬまま始めてしまった。
「これより緊急会議を行う。
以降私語は慎め、発言は挙手制とする。
軍務卿、説明を」
おっ、これなら馬鹿が騒ぐ事も無いな。
さすがは王。
「ハッ!今日の午後4時頃(因みにこの世界の1日は40時間)、今から約一時間前に帝国の使者が王の前に現れこの文書を送りつけてきました。
文書の内容を要約しますと、
『貴国を帝国の属国にしたいと思う。
我らが軍門に降れ。降らないのであればこちらとしては武力行使も厭わない。
返事は明日の午前10時に聞く。
答えが否の場合、同日12時に開戦する』
との事です」
一応転移の際に聞いていたとはいえ…これは余りにも酷すぎる。同じように感じた者も多く怒りに肩を震わせながら
「こんな横暴があるか!
宣戦布告の明日に開戦だと!?
ふざけるなぁ!!」
「全くですな!こんな物が正式な文書として認められる筈がありません!無視するのが最善かと…」
…まぁ、気持ちは分からんでも無いが…さっき私語慎めって言われた舌の根も乾かないうちにどんだけ喋るんだよ。ちゃんと挙手しろよ。あ、王の額に青筋が…
「…貴様ら、私語は慎めと言った筈だが?言葉が通じないのか?…そんな者はこの会議に出席する資格は無い!…もう帰って良いぞ」
「「も、申し訳ありません!!!」」
ハァ…本当に馬鹿ばっかりだな…
私は手をあげ、王を見つめる。
「…サイドゥルス、発言を許可する」
「はい。2つ質問があります。
1つ目は、降伏するという選択肢は無いのでしょうか?帝国の属国になった国は1つ残らず経済は潤い住みやすい国になったと聞きます。
2つ目は、戦争になった場合どれ程の戦力を実際に投入でき、勝率はどれ程なのかと言う事です。帝国の軍事力は強大です。イタズラに兵士を死なせる訳にはいきませんので」
言い終わる頃には場は静まりかえっていた。
「き…貴様……王に何と言う事をっ!「ガリウス!何度も同じことを言わせるな!即刻退室しろ!」っ!?…………か、畏まりました……」
バタァン!
「…降伏か。
…皆に問おう、降伏に賛成する者は手を挙げてくれ」
出席している者の、およそ7割程が手を挙げた。王は静かに目を閉じ今の光景を噛み締めていた。そして、
「軍務卿、正直に話せ。
もし、我が国と帝国が戦った場合の勝率は?」
「フム…甘く見積もっても5%を切るでしょうなぁ。それに、あの帝王が出てきた場合は100%勝てないでしょう」
「……そんな無謀な戦いに無辜の民を犠牲にする訳にはいかんな…
分かった。帝国に降ろう」
「仰せのままに!」×大勢
この事実は歴代の国王の中でも最も賢い選択として後世に語り継がれている…





