帝王は、ケシャナの親へと挨拶に参る
「いや、その…2人ともまだ嫁入り前な訳だし、男に肌を見せるのは如何なものかと…」
「えっ…結婚してくれるんですよね?」
「それはまぁ…はい」
「じゃあ何か問題があるんですか?」
「う、うーん…あ、ほら親御さんに何か言われたりとかするかもしれないから」
「その件に関しては私の家は全く問題ないわ。『自分の伴侶として決めたのならその相手に一生添い遂げなさい』と言われているから」
「私の家も放任主義なんで大丈夫です!
なんなら、今から確認に行ってきても良いですが…はっ!結婚の挨拶もそこで一緒に…?カルワさん!行きましょう!」
「な!?ちょ、ちょっと!何抜け駆けしようとしてるのよ!それだったら私の家にも行くわよね?旦那様」
有無を言わさぬ視線に俺は
「…はい」
と返事する他無かった。
〈転移中…〉
まずは、最初に言ったケシャナの家に御挨拶させて頂く事になった。サリーに持たせてもらった手土産を片手に転移する。とそこには巨大な道場があった。(ちなみに、ガルムピト王国の領域内)
「…立派な道場だな…」
「あぁ…まぁ両親の唯一の宝らしいですから。私にとってはあまり良い思い出は無いですけど…
あ、家はコッチです」
と言われ案内されたのは、かろうじて家と呼ぶ事が出来るかなぁ…無理かなぁと言った感想しか出てこないような、その辺の板を適当に組んだだけのあばら家だった。
「…道場との格差が…」
「私の両親はどっちも剣馬鹿なので、何も考えずにポーンと全財産つぎ込んであの道場を建てたんです。その結果がコレです…」
…親と仲が悪いのか?と、思っていると後ろから2つの影が俺目掛けて猛スピードで近づいてくる。明確な敵意を感じ取った俺は飛宝剣を抜く。
刹那、3本の剣が交錯し鋭い音をたてた…かと思うと、影達が持つ剣が鈍い音をたてて折れた。
「クッ、やはりこの程度では仕留める事は出来んか……
自分の無力さをこれ程痛感した日は無い」
「無念…いや、死ぬ間際にあれ程の剣技を見れたと思えばむしろ幸せか…
フッ、良い人生だった……」
「ハァ…父さん、母さん…落ち着いて。
この人は敵じゃ無いし…そうやって家に来た人全員に斬りかからないでっていつも言ってるでしょ!
この前もそうやって郵便屋さんに怪我させて捕まりかけたの覚えて無いの!?」
ケシャナがそう言うと、お義父さんは胸を張って自慢気に
「もちろん覚えているとも!
私はあの時学んだのだよ。この世界には弱い者もいるのだという事が」
……え?今まで知らなかったのか?
剣馬鹿と聞いてはいたがここ迄とは…
ってか、学ぶべきとこそこじゃ無い…
「じゃあこの人…いえ、あれ程の剣技を扱える人に失礼ね。この方は誰なの?」
「あ、ご挨拶が遅れてしまい申し訳ございません。私は娘さん…ケシャナさんとお付き合いさせて頂いている者です。また、ゆくゆくは結婚を…とも、考えておりそちらの挨拶も…」
「ほう!結婚!…それは、うちに婿養子として来てくれるという事かな?」
「やったわね!これで、道場は安泰よ」
…なんか話がどんどん明後日の方向に進んでるぞ?
「父さん!母さん!
勝手に話を進めないで!
いい?この人は帝王なの!
こんな道場なんて継ぐ訳無いでしょ!」
「なん…だと…?」
お義父さんはこの世の終わりの様な顔で声を絞り出した。
「じゃあ…私たち亡き後…
一体誰が!この道場を継ぐんだ!?」
「…知らないわよ。そんな事」
「ケシャナそれは流石に言い過ぎじゃ…
というより、門下生の中の誰かに継がせる事は出来ないんですか?」
「「全員弱い」」
「あ、はい…
…なら、私の国にいる兵士を何人か送りますので鍛えて頂く事は出来ないでしょうか?
それで、良さそうな者がいれば継ぐ事を相談してみる…とか」
「「…てん…さい?」」
「じゃあそういう感じで。
その件に関しては後日改めてお伺いさせて頂きます。
では、本題に入りますが…
ケシャナとの結婚を許して頂けるでしょうか?」
ドクンドクンと心臓が早鐘を撞くように高鳴る。…………口を開いた!
「「こちらこそよろしくお願いします」」
こうして、俺とケシャナの仲は親公認のものとなった。





