敗北者は、過去と敗北を噛み締める
「あれは、我がまだ英雄としての頭角を現わし始めている時、英雄協会から1つの依頼が舞い込んできた。それは、『エリザード王国を壊滅させる』こと。
我は、その時まであまり大きな依頼を受けたことが無く、初めての大仕事に胸を躍らせていた。そして、我がその国についた時、我は驚きのあまり一瞬気を失ってしまった。それほどまでに、その国は他のどの国よりも優っていた。
建築は、現在の全ての国の基盤となるほど進んでいた。国民は、お互いを助け合い、どの国にもあるはずのスラムも無い。そこには、笑顔と喜びのみが存在していた。だが、平和ボケしているというわけではなく、軍事面にもしっかりと力が注がれていて、兵士5人で並みの英雄なら圧倒できるほどだった。
我は直感で感じた。この国は我の為に生まれたのだと。そして、しばらくその国で英雄として活動し、国民からの信頼を得た。それも十分だと思った時これ以上ない程の幸運が訪れた。それは、国王と王妃が我と謁見したいという申し込みであった。殺すなら今しかないと思った。だが、問題は国王を殺した後だ。国王と王妃は、清廉潔白で人情に厚く、国民から大いに慕われていた」
ガズールは、一旦話を切り、アイテムボックスから水を出して飲み。少し休憩してからまた話し出した。ちなみに、サピールは魔法術の研究に打ち込み、サラーマは寝ていた。
「ふぅ、続けるぞ。我は悩んだ末に最高の計画を思いついた。王妃に夫殺しの罪を着せると言うものだ。筋書きはこうだ。
我は、謁見に行き、国王と王妃に面会した。その時既に王妃の様子がおかしく怪しんでいたものの「一晩泊まっていけ」と言う国王のご好意に甘えて就寝した。すると、夜中に物音がして行ってみると王妃が国王を殺そうとしていた。慌ててその場に割って入り王妃を止め、国王の手当てをするもそのかい虚しく国王は、死んでしまった。我は英雄として王妃を捕まえ、死罪にしようと思ったがお前を宿していたので、情け深い我は拷問だけで王妃を逃してやった。
王を助けたという功績とでっち上げた国王の遺言「ガズールを次の王にする」
この2つの口実で我はめでたく王になったと言う訳だ」
「…終わったのか?」
「フワァァ、よく寝たぁ…ってかそんな話しても良かったの?」
サピールとサラーマも、現実世界に戻って来た。
「ああ、全く問題は無い。こんな話を一体誰が信じると言うのだ?
第一、コイツはここで叩き潰––ヌ!?」
言い終わる前に、僕は持っていた剣で切りかかった。その剣先は、いつもとは比べ物にならないほどの速さと力を誇っていたが、少し驚いただけで呆気なくガードされてしまった。次の手を考えていると、横から魔法術による炎球が飛んできた。僕はすんでのところで炎球を躱し、自らに誓う様に、言葉を発する。
「クッ…殺してやる‼︎お前ら全員だ‼︎‼︎」
正直言って、僕だけでコイツらに勝てるとは思わない。でも、それでも決意を表したかった。自分に対する誓いとして。…特に、ガズール‼︎アイツだけは、僕の人生をかけてでも必ず復讐してやる‼︎
「大口叩くなら、まず強くなってから言いな坊主。
あと、俺たちを巻き込むな」
その後の記憶は、曖昧だけど英雄達にボコボコにされた事は覚えている。
僕は、アイツらに…敗北した。