敗北者は、幼馴染とデートする 後編
『地下闘技場』
凡そデートとは結び付きそうにもないこの場所を何故次の目的地にしたのか。
そう、イブに良いところを見せる為だ、戦闘面で。
倒置法。
ケシャナには、モンスターを倒した時に見せられただろうが、イブにはまだ見せれていない。
それに、飛び入りで優勝すれば100万円が貰えるとの事だ。別に金に困っているわけではないが、帝国としては搾りかす程度の金額でも無いよりはマシだろう。やらない手はない。
※カルワの世界でもこの世界でも通貨は円。全一が「いちいち通貨とか考えんのダルい」って設定した。
地下闘技場はさっきの店から歩いてすぐのところにあり、他の店と特に変わった点は無かった。
入っていくと背の低いお婆さんが
「…いらっしゃい。
観戦かい?参戦かい?」
と尋ねてきた。
「参戦で」
「…そっちのお嬢ちゃんは?」
「私は観戦で」
「…では、1名様飛び入り参戦んん!!」
驚く間も無く、俺が立っていた床が半分に割れ、真っ暗な穴へと落ちていった。
3秒くらい経つと、光が見え始めた…と思ったのも束の間、俺の体は虚空へと放り出された。眼下には円形状のリングの上でモンスターと人、或いは人と人が戦っている様子が広がっている。
…これ、俺以外の奴なら落下の衝撃で死ぬんじゃね?
と、見た事もない飛び入り参加者の不幸を不憫に思いながら、剣を抜く。
「飛翔」
瞬間、落下スピードが急激に低下していく。不可視の羽が生えたような感覚。まだまだ、不慣れだが1秒毎に扱いが上手くなっていく。…俺、才能あるかも。
フッ、とリングに降り立つと
「さぁ!命知らずの挑戦者の登場だぁあ!そんな挑戦者に地下闘技場のルール説明を…と言ってもそんなに難しい話じゃない!リング上にいる全ての生物を戦闘不能か行動不能にするだけだ!殺したり、部位破損は極力避けてくれよ?さぁ、思う存分楽しんでくれ!」
…殺さず、壊さず行動不能…うーむ……
あ、イブだ。ちゃんと見ててくれよ?
「おいおい!飛び入り!
早速ボーっとしてんじゃボヘガァ!」
…蝿か?つい反射的に手が出てしまった。
あ、今の感じですれば良いのか。なるほど。
「分裂
魔素を纏わせ殺傷力を減少
そして、自動追跡 開始」
まず、飛宝剣は2本に分かれる。そして、紫色のオーラを纏ったかのような見た目に。そして、俺が命令を出したと同時に近くの敵目掛けて飛んでいく。その速度と言ったら残像すら残さない程だ。
瞬く間にリング上には屍(生きてる)が横たわるだけとなった。
「な、なんと言う事だ!?挑戦者が瞬きすら許さない速さでリング上の全モンスター&剣闘士をねじ伏せてしまったぁああ!何て、圧倒的!何て、予想外!これだから、ここの実況は辞められないぜ!!」
あ、もう終わり?早いな…
飛宝剣戻れ
「さぁ、勝者には賞金100万円が送られるぞ!
皆さま盛大な拍手を!」
パチパチパチパチ…
…見所がなさ過ぎて観客からすれば面白くはなかっただろうな。まぁ、イブに良いところを見せるという目的は達成出来た。良しとするか。
拍手を背に受けながら、俺達は闘技場を後にした。帰る時には、イブが通ったと言う階段を上って地上に出た。去り際に受付のお婆さんから
「…ほれ、賞金じゃ。
……もう二度と来るんじゃないぞ」
と、出禁を言い渡された。
チッ、楽に稼げると思ったんだがなぁ…
「あぁ、分かった。
賞金はたしかに」
店から出ると、金髪縦ロールのtheお嬢様な女子が俺達を待ち伏せていた。…確か、学生の1人だな。
「あら、カミラじゃない。一体どうしたの?」
…知り合い?ってまあ同じ学校に通ってるんだしそりゃあ知ってるか。
「ふぇ?イブ?どうしてこの人と一緒に…
ハッ!その指輪…タイミング悪かった?ごめんね」
「そう…ね。悪いと言えば悪いけど、何か事情があるんでしょ?それに、私とカミラの仲じゃない」
「イブ…ありがとう。
カルワさん!
お、お願いがありますわ!
どうか…どうか!私の家族を救って下さいませんか!?」
…ハァ、デート中に他の女子と出会うのも確定か……
しかも、家族を救う?…面倒事の予感がするなぁ。





