敗北者は、幼馴染とデートする 中編
〈数分後〉
美の化身ですらイブの隣に立てば添え物にすらならないだろう。そんなイブと2人で並んで歩く事は、俺にこの上ない幸福感を与えてくれていた。周りにいる全ての男…いや、女でさえもが、その美貌に魅了され憧憬の念を抱かずにはいられない。羨望と嫉妬の眼差しがシャワーの様に降り注ぐ。
俺は、その事を誇らしく思った。
(イブの美しさは全人類を魅了してなお余りある。
子供の頃からの付き合いだからって俺を選んでくれるなんて…本当に良いのだろうか)
イブを見ても、勝ち誇ったかの様な表情だった。
(フフン、旦那様はやっぱり世界で一番素晴らしい人ね。それは、この世界に来ても変わらなかったわ。…周りも私に嫉妬している。
そりゃあそうでしょう、貴方達では一生を賭けてでも手に入らないお方と一時を共に出来ているのですから)
ただ、何となく嫌な感じがするんだよなぁ……危険予知にも反応があるし。
まさか、『あの店』?…いや、そんな筈は無い。地図を見た限りではあの店とは正反対の位置だ。
〈更に数分後〉
「フゥ、やっと着いたわね。…でも、旦那様と一緒だと何だかあっという間の様に感じたわ」
「……あ、あぁ。俺もだよ」
この看板の感じ、店構え、店から感じる不気味な力の奔流…いやもう絶対あの神(仮)いるじゃん。
ハァ…なんなんだこれは!デート中にはアイツのいる店に入らないといけない決まりでもあるのか!?クソが!
……まぁ、料理は美味しいからいいんだけど…いいんだけども!
「…行こうか」
「はい!」
予め聴覚保護の魔術を使っておいた。同じ轍を2度も踏むほど俺は馬鹿ではない。
カランカラーン
「ぃ、っしゃぃませぇ……」
いや、まさかの小声!?
スキンヘッドのムキムキおじさんが小声で接客って…違和感しかないんだが……
「こ、らへどぅぞ」
店には客が3.4組ほど。全組カップルで、何故か皆しんどそうにしている。
席に着くなり、
「ぉ、たせしました。[ドキドキ!!カップルドリンク(ハート)]に、ります」
いや、2秒も待ってない。あと、商品名言う時だけ普通の声出すのやめて?びっくりするから。
…写真よりもデカいな…1L有るか無いかくらい?それに、上にも何かよく分からない物が色々のってる。
「では、この商品の説明をさせていただきます」
あ、声量が普通になった。…説明ねぇ。どうせまた、面白おかしい設定なんだろうな。
「このドリンクを2人で10分以内に飲めたら、お会計が無料になり、豪華景品が贈られます」
「…豪華景品って何かしら?」
「ペアリングでございます。と、言いましても唯のペアリングではありません。
数々の特殊な能力を持った、世界に2組とない限定品なのです」
…意外にも普通だ。……ここで、裏があるのかと疑ってしまう俺は歪んでいるのだろうか。
「旦那様!絶対手に入れるわよ!」
「あぁ、勿論だ」
「…準備はよろしいですかな?」
俺はストローに口をつける。イブは、ペアリングを獲得する事にしか頭が回っていない様で、真剣にドリンクの表面を見つめていた。そんなイブに思わず見惚れていた。……韻を踏んでるんじゃねぇ。
「では、よーい始め!!」
ジューー!ゴクゴク…ジューー!ゴクゴク…
……う、美味い!肉の時は、何となく味を表現する事は出来たが、これは、無理だ。
未知の世界への扉が開いた風景が脳裏に浮かぶ。例える事すらままならない。兎に角美味い。
「……半分の時間が経過しました」
見ると、もう既に半分以上減っている。イブは目配せで(私が上にのってるものを食べるわ!)と伝えている。俺も(分かった!)と伝え、ドリンクを飲むのを再開する。
つもりだったが、もう俺の腹はチャポンチャポンで、これまでのスピードを維持する事はまず無理だろう。半分以上減っているとはいえ、あと500mL程をあと2分ちょっとで飲むと言うのは…厳しいな。水中毒になってしまう。
と、普通の奴ならなるだろうが、俺には限界超越がある。これを使えば、もう少しくらいなら入るだろう。あと、肉体超強化も使って吸引力と消化力も上げておこう。
そして……
「おめでとうございます!!!ただ今の記録9分46秒!お約束通りお会計は無料に、そして、ペアリングを贈呈させていただきます!!」
「や、やったわ!旦那様!」
「あ、あぁ。…ウプ」
…スキルを並立使用しても、限界が……
まぁ、イブが喜んでくれたのなら良しとするか…
「こちらが景品のペアリングになります。どうぞ、お確かめください」
…うっわぁ。予想はしてたけど…世に出回ったらダメなレベルのぶっ壊れ性能だわ。
名称 愛神授けし共振輪
詳細鑑定不能
〈スキル〉
愛神の寵愛
全危険排除
(恋の)障害発生率超絶上昇
念話使用可能
君愛スル故ニ我アリ
そろそろ鑑定が上位スキルにならないかなぁ。鑑定出来ない事が多過ぎる…
ってか、やっぱり神か。しかも、愛神…
あと最後のスキルなんだよ。
鑑定も出来ないし訳がわからん。
…まぁイブのはしゃいでる姿を見られたから、いっか。イブは早速指輪を左手の薬指にはめていた。
指輪がはまった左薬指を見てウットリしている。…まぁ、あと2年は結婚出来ないんだけどね。
一応、俺もイブに倣って左薬指に指輪をはめる。
それを見たイブは今までで一番良い顔してた。
俺達は店を後にして、次の目的地を地下闘技場に決めた。





