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閑話 賢者は、過去の戒めを思い出す


フム、これであの子は安全じゃろう。

だが、心配なのはカルワ君じゃ。

…何やら妙な胸騒ぎがするしのぉ。

急いだ方が良いかもしれん。


儂は、儂の出せうる最速で術式を作り上げサイドゥルス公爵領へと転移する。

が、一足遅かったようでそこには血だらけになった少年が横たわっていた。

出血量から見ても予断を許さない状況だ。

かろうじて息はしているものの、とても弱くか細い。


「これはいかん!!!」


儂はすぐさま回復魔術、治療魔法、再生魔法術をかける。

…どうにか持ち直してくれたようで、さっきまでは1桁台だったHPも最大に戻った。


フゥ、ひとまずこれで安心じゃ。

しかし…


儂は周りの惨状を見て分析する。


…英雄、それも二つ名クラスでないとこれ程の破壊跡は残らん…

…やはり、ガズールどもは英雄たる精神を備えておらんかったか…

全く、だから儂は反対したんじゃ。

実力だけ見て人格を一切考慮せん協会のクズ共のせいでこの子は…


いや、今はそんな事を考えるべきではないか…

さて、この子を家族の元に帰すとするかのぅ。


そう思った次の瞬間、向こうから1人の女性が走ってきた。その女性はカルワ君と似ておったので、母親じゃろうと儂は悟った。


「カルワ!!!」


カルワ君の母親は儂が抱えている無傷の息子を見てホッと一息ついた。

それから、


「貴方様がカルワを助けてくださったのですか?」


と聞かれたので、「…フム、そうじゃ」と返答した。

間髪いれずに、


「本っ当にありがとうございます!

一体何とお礼を申し上げれば良いか…

あれ?…どこかでお会いした事が…」


儂は「そんなに感謝される事でも無い」と言ってから、すぐに転移して校長室に戻った。


……エリザード王国女王様。

という事はカルワ君も…

…あの方たちには酷い仕打ちをしてしまった…

許して欲しいなどとは微塵も思わん。

()()()から、後悔と己が無力さを呪う事を忘れた日は1度たりとも無い。




〈35年前(エリック当時25歳)〉



ハァ、1週間に15回も会議を開くとは…俺を過労死させる気か?

しかも、深夜…アイツら頭大丈夫か?

会議の内容も、今じゃなくて良い事ばっかりベラベラベラベラと…協会には無能しかいないのか?

…着いてしまった、憂鬱ゆううつだ…


バァァン!


相変わらず大袈裟おおげさな音で開きやがる…立て付け悪すぎだろ。

……今日は13人か、いつもよりすこし少ないな…

ゲッ、アクソが居やがる…しかも、なんかこっち見てわめいてるぞ…


「おい、エリック5分しか早くないぞ!

1時間前行動だろうが!」


入った瞬間から意味がわからねぇ事を言いやがって…


「チッ、五月蝿うるせえなぁ。

遅れてねぇんだからいいだろうが」


「いや、ダメだ!

現に貴様がこの中の誰よりも遅い!

わかるか?貴様待ちだ!

そして、恐れ多くも貴様は!!

会長様の時間すら奪ったんだ!!!」


相変わらずコイツは、会長への忠誠心が強すぎる…ここまできたらもはや信仰心だ。あぁ、メンドクセぇなぁ…


「まぁ、テメェが喋る事も会長様の時間を奪う行為に他ならないけどな」


「き、貴様ァァァ!!!」


「…エリック、アクソと仲が良いのはわかったから、席に着いてくれないかい?


アクソも落ち着きなさい、みっともない姿を私に見せてくれないでいただきたい」


おうおう、やっと止めてくださったか。

遅ぇんだよ、クソババァが…


「ヘイヘイ、会長様の仰る通りに…

で、今回は何の用です?」


「エリック、会議が始まる前に資料に目を通しておけ」


「これはこれは、イガラさん。

有り難いご忠告感謝します。

だが生憎あいにく、資料は何故だか俺の手元には無いんですよ。

ねぇ、会長様?」


「えぇ、送っていませんからね」


「ほう?それは一体どう言うおつもりですか?

愚鈍ぐどんな私めにどうかその深淵のごとき考えをお教え頂きたい」


「知ったら全力で邪魔をしてくるだろうと思いましたので、伏せておいたのですよ」


「…一体、何を「エリザード王国を潰し、乗っ取ります」


「ッッ!?

…会長様……いや、会長。

アンタ自分が何を言っているのか理解しているのか?」


「エリック!

貴様、会長様に向かって何という口の利き方を!!」


「アクソ、座りなさい」


「ですが!「…私を失望させるつもりですか?」


「ッ……出過ぎた真似を」


渋々といった表情でアクソは座った。が、そんな事はどうでも良い。


エリザード王国を乗っ取るだと?

あの国がどれほど、この大陸と我々協会に発展をもたらしたと思っている?

どの国が、大陸中を巻き込んだ戦争を抑えこんだ?

あの国なき後、誰が他の大陸との貿易を行う?

それに…あの国の王と女王には随分とお世話になった。


その恩を、今返さずしていつ返す!

止めなければ…

例え、協会を敵にまわしたとしても…!

まずは、王国に向かわなくては…幸いな事に協会の主力は全員ここにいる。

今ならまだ間に合うだろう。

俺は周りの奴らに探知されないように、転移術式を指でスピーディかつ丁寧に描く…が


バチィィン!!!


術式が吹っ飛んだ。

な!?馬鹿な…術式に問題は無かった筈…

と考えていると、身構える間もなく椅子からいばらが生えてきて四肢を完全に固定された。

しかも、荊は指の末端に至るまで締め付けてくる。

クソッ、とげが食い込んで集中が…


「貴方ならそうしてくれると信じていましたよ。

対策が無駄にならずに済みましたね。

あぁ、それとこの件に関して、私たちが直々に動く事はありませんよ?」


…チッ、全てお見通しってかよ。

それにこの荊…魔法を使おうと思った途端に魔素を乱してきやがる。

身体強化しても引き千切れ無い…

…八方塞がりか…クソが!


「それで良いのです。

貴方はそうやって何も出来ない自分を怨みながら、大恩ある国が潰され、乗っ取られる様を目に焼き付けるのです」


遠視の魔術でエリザード王と女王、それから……ガズールか?が映っている。

…なっ!?ガズールが王を切った…だと?

あり得ん、かの王はこの世界で5本の指に入る程の実力者。

あんな新参者に…例え、油断していたとしても攻撃をくらう事など…

…ま、まさか!?

いや、そんな筈は…だが、それくらいしか考えられない…


ババァはニッタァァと粘着質な笑いを隠そうともせず、自慢気にネタをバラした。


「その顔…気づいたようですね?

そう!私たちは、聖精神と契約を結んだのです。


彼が提示した条件は、聖精神王国にこれまでの10倍の支援をする事。

私たちが提示した条件は、エリザード王国潰しと乗っ取りを手伝う事。


10倍の支援など、エリザード王国を手に入れた時に生まれ出る利益からすれば屁でも無い!」


遠視魔術では、ガズールが、駆けつけた大臣に虚偽の報告をしている様子が映っている。

いや…あの大臣はあの国でも1番有能な大臣!彼ならきっとガズールがやったと分かってくれる筈!

…クソッ、何故信じる!?

王への忠誠心はどうした!?

これが…これが、聖精神の力なのか?


…どうでも良いが、ババァは気分が上がったようで、聞いてもいない事をペラペラと喋ってくれる。


「そもそも、あの国の存在が私は気に入らなかったんだよ!

他大陸との貿易を独占して手に入れた経済力!

私たちが、英雄の必要性を感じさせる為に引き起こした大陸中を巻き込ませた戦争も、1国で終わらせられる軍事力と行動力!

どれをとっても鬱陶うっとおしい!


…ハァ、ですがそれも今日で終わりですね。

御覧なさい、エリザードの国王は死に、女王は夫殺し…

フッ、どれだけ栄えていても、終わりとは呆気ないモノですね」


「流石は会長様!

これで、協会こそが全てのトップ!

そして、そのトップオブトップが会長様!

正に、パーフェクトッッッ!!

これこそが世界のあるべき姿だ!!!」


…チッ、狂信者が…


「…フフ、お止しなさいアクソ。

それは事実ですが、おおっぴらに言うような事ではありませんよ。

何故なら、それが常識なのですから。

わざわざ言う必要性がありません」


「ハッ!確かに…

至らぬ考えで御耳を汚してしまい、誠に申し訳ございません」


「良いのです。

これからも期待していますよ、アクソ」


「私は?「我は?「僕は?「某は?…


「もちろん、皆んなにも期待していますよ。

…エリック、貴方にもね?」


…は?コイツは、俺にここまでの仕打ちをしておきながら、俺が協会に残ると思っているのか?

…一体どんな思考回路をしているんだ?


「エリック、私の眼を見なさい」


ゾクっ!!


直感が、本能が、理性が、細胞の一つ一つがありったけの警告を放つ、

「見てはいけない!」と。

俺は必死に目を瞑ろうとするも、俺の意思に反して、瞼は一切動かず、妖しく光る…ババァの眼から目を逸らせない…





…その後の記憶は曖昧で、頭がボーっとしていて夢を見ているようだった。

覚えている事は、俺はババァに契約を結ばされた事。

その内容は…《協会に逆らうな》



※補足すると、ババァは聖精神と個人的に契約して、寿命の半分を引き換えに魅了の魔眼と支配の魔眼 (ユニークスキル)を手に入れた。

そして、エリックとの契約は、エリックが敗北しない限り、協会に絶対の忠誠を誓うと言うもの。

その見返りとして、加護の様な成長強化の効果が付与された。

(忠誠だけを条件にすると、契約が出来なかったので、見返りをつけ均衡を保たざるを得なかった。)



「フフ、私たちに逆らわない賢い貴方には『賢者』の二つ名も与えましょう。

これからも、協会に尽くすのですよ?」


「…ああ、もちろんだ」


それから、協会の最高戦力として他大陸の戦争に駆り出されたり、暗殺されそうになって、復讐しに行ったら何故か暗殺ギルドのギルマスになったり…


そんなこんなで、ババァが気ぃ抜いて若干洗脳が解けて、正気に戻って、協会が求める力だけの英雄ではなく、人格も備えた英雄を教育する為の学校を建て、校長に就任した。

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