閑話 勝利者は、過去を振り返る
私は…罪を犯してしまった。
私の持つ全てを差し出したとしても償いきれないほどの大罪だ…
それでも……
それでも私は、あなたの事が…
《9年前(イブ 6歳)》
ヒック…グスン…ヒック
私は、王都に向かう馬車の中で1人寂しく泣いていた。
私の心を埋め尽くすのはカルワ君への〈ごめんなさい〉ばかりだ。
カルワ君…プイッてしちゃって…ごめんなさい…
〈また明日ね〉の約束、破っちゃってごめんなさい…
離れたく…ないよぉ…
※この時は、ちょうど英雄達がカルワをボコしている。
イブとは後から合流する予定だった。
馬車が森に入りしばらくすると、馬車が動かなくなった。
どうしたんだろう?と思ったその時、馬車の布の部分が壊された。
ビックリしていると、汚い身なりの男が上に乗ってきて私の口を塞いできた。
「!!??んー!!んー!!!」
「グヘヘへ、お嬢ちゃん可愛いねぇ。
全く、お嬢ちゃんのせいでおじさんの…
いや、おじさん達の聖剣が覚醒しちゃったじゃあないか。
どうしてくれるんだい?」
周りを見るとその男と同じような見た目の男たちが10人ぐらいいて、気持ち悪い笑顔でこっちを見ている。
私は頑張って助けを求め、暴れもした。
でも、ダメだった。
私の服は全て取られ、手足を抑えられた。
男たちも服を脱ぎだした。
もうダメだ!と思ったけどカルワ君の事を思い出すと、力が湧いてきた。
勇気を出してもう一度暴れてみた。
すると、私の事を抑えつけていた男たちは油断していたようですんなりと外れた。
それに、暴れた時に足が運良く男の顎に当たって、他の男たちが
「お、お頭ぁぁぁああ!?」
とアタフタしていた。
私は裸のまま走って逃げた。
けど、この森には怖い熊さんが出る事を思い出して震えて動けなくなった。
ガササッッ
ヒッ!こ、怖い熊さん?
そう思って恐る恐る音がした方を見てみると…
おじいさんがいた…
また怖い人かと思ったけど…このおじいさんは悪い感じがしない?
「おやおや、お嬢さん。
こんな所でそんな格好をしていたら風邪をひいてしまうぞよ?
…ほれ」
おじさんが手をサッと振ると私は服を着ていた。
今のは…魔術?
「クソがぁああ!!あんのメスガキィ!絶対にぶっ殺す!!!」
ヒッ!怖い、嫌だ、誰か…助けて…!
「フゥム、状況から鑑みるに…
お嬢さんは狙われているのかな?」
「…は、はい。
あの…見ず知らずの方に、こんな事をお願いするのは失礼と承知ですが…私を助けてくれませんか?」
お父さんに教えてもらった、貴族流の助けを求める時に言う言葉。
忘れて無くて良かったぁ…
「あい、わかった。
なぁに、そんなに心配する事は無い。
儂を誰と心得る、戦狂いの破壊神じゃぞ?」
えっ!?このおじいさんが、あの伝説の?
そんな風には見えないけど…
ドゴォォォォォンンン!!!
…え?今、何が?
気づいたら悪いおじさんが木にぶつかってたけど…
「おいおい、どうした雑魚どもぉお?
こんなんじゃ…肩慣らしにもならねぇじゃあねぇか!!!」
「ヒ、ヒイィィイ!!!
ば、化け物だぁ!!!」
「逃すわけが…ねぇだろうが!!」
飛び交う血しぶき、あちこちで起きる悲鳴、高らかな笑い声。
《暴力》とはこれを表す為にあるのだと思った。
その様子は、激しく、荒々しく、そしてとてもとても美しかった。
悪いおじさんたちを全員殺した後、
「怖いものを見せてすまんかったのぅ。大丈夫じゃったか?」
「ううん!!
とっっ…ても、きれいだった!」
「…そうか、ならいいのじゃが…
ところでお嬢さんはどこに向かっていたのかね?
良かったら儂が転移で送り届けるが…」
「あ、私…王都に行くの…」
「フム、王都か。
分かっ「待って!」
「私、行きたくないの!!」
「…詳しく聞かせて貰えるかのう?」
私は、どうして王都に行くのか、どうして行きたくないのかを説明した。
「それならば、儂の学校に来るといいじゃろう。これも何かの縁に違いない」
「でも、カルワ君と、はなればなれになっちゃう…」
「それは…儂にはどうしようも出来ないからのお」
例え公爵領に戻ったとしても、ガズール達はまだいるだろうし…
今は諦めてくれんかのぅ。
いつか必ずカルワ君にはチャンスを与える事を約束しよう」
「………………分かった」
「すまんのう、儂ら大人の勝手な都合でこんなことに巻き込んでしまって…」
「それは…いいの。
私は、公爵の娘だから…」
こうして私は学校に入学した。





