敗北者は、イジメの黒幕を知る
「んにゃぁ、う、うーん…」
この声を切っ掛けにケシャナの瞼がゆっくりと開いた。
「…あれ?ここは…何処?確か私は合宿でモンスターを…」
若干の記憶障害が起こっているようだ。こういう時は、そっとしておくのがいいらしいが気にせず声を掛ける。
「目が覚めたか?」
焦点の合わない瞳でじっと俺を見つめて数秒。段々と顔が青ざめていき、呼吸もおかしくなった。そして…
「こ、この度は!すいませんでした!!」
と言って、見事なジャンピング土下座をお見舞いした。少し驚いたが、コイツも俺をイジメていた奴らの1人。謝ってきたからと言っても、油断は禁物だ。
「…何についての謝罪だ?」
あくまで高圧的な態度で接する。弱味を見せる訳にはいかない。
ケシャナは絞り出すように声を出し…
「……い、イジメの件について…です」
…何が狙いだ?謝ったという事は罪悪感を感じているという事か?…いや、それすらも演技?
「何故、今更謝る?」
頭だけを上げ、潤んだ瞳でこちらを見つめる。
「本当に…おっしゃる通りです。今更謝った所で私の罪が償える事も消える事もありません。…それでも…自己満足と罵られても!私は…貴方に謝りたい…」
消え入りそうな、それでいて芯が通った声で自らの胸の内を明かした。それを見てカルワも(流石に演技では無い…か?演技にしてもクサすぎる。…まぁ、そこまで演技が上手いのであればこちらとしてももうお手上げか)と考えていた。
「そうか…じゃあイジメの首謀者の名前を言え」
「えっ…そ、それは…」
そう、このイジメは余りにも統率が取れすぎていた。間違いなく主犯がいる。ソイツを突き止めて、場合によっては殺す。
「…知れば、後悔する事になりますよ。…それでも良いのですか?」
…後悔?俺が予想したくない人物…まさか、オフィリア先輩か?もしくは、校長?…いや、それは違うな。…よし、覚悟は出来た。
「あぁ、言え」
「イジメの首謀者は……イブちゃんです」
気がついた時には無数のモンスターの死体と血に染まった手だけが俺の瞳に映っていた。





