敗神は、決意を固める
前回勝神が死ななかったのは追撃される前に別空間に逃げ込んだからです。
「クソっ......がぁぁぁぁあああ!!」
油断による負傷。これほどまでに自尊心を抉る言葉があるだろうか。
しっかりと死を確認していれば、神域を解除していなければ。
いくら嘆いた所で神力を用いてなされた事実は、時を遡っても変えられない。
血は既に止まっているが腕が生えてくる気配は一向にない。
『右腕を失った』という事実は確定してしまったのだ。
取り返すことが出来れば繋げる事は出来るが、この広大な宇宙で一柱の神を探し出すことなど不可能。
よしんば勝神を探し出せたところで右腕を所持していない可能性もある。
よって普通に考えれば右腕を取り返す事は出来ない。
そう、普通ならば――
「久しぶりだな、敗神」
背後から突然声をかけられ、最大限の警戒をしながら振り返る。
そこにいたのは......
「煉獄......王」
「煉獄神だ、二度と間違えるな」
かつての戦争で刀神を殺した張本神。
刀神の仇。
歯を食いしばり憤怒を顕わに殺意を放つ。
「貴様......よくもおめおめと俺の前に顔を出せたな......! 」
「......あぁ、刀神のことか?仕方がないことだ、弱い奴が悪い」
心底どうでもいいことのような(実際そう思っているが)その態度が敗神の堪忍袋の緒を切った。
「ッ!!殺すっっ!!!!! 」
何の策も無く突っ込む。そうせざるを得ないほど怒っており、冷静さを欠いていた。
それに対して煉獄神が取った行動は実にシンプル。
「止まれ」
一言呟くだけ。
しかしその効果は絶大。
敗神は眉1つ、心臓1つもぴくりとも動かせずにいる。
それは体だけに限った話ではない。思考すら止まっている。
まさに完全なる『停止』の具現。
そのからくりは単純にして明快。
「煉獄の全領土は俺様の神域だ。それすらわかんねえから足元すくわれるんだよ馬鹿が」
煉獄の神に煉獄で歯向かうなど愚の骨頂。
ちなみに、辛辣な言葉を投げかけているも敗神の耳には届いていない。
「チッ!話だけ聞け」
停止の一部が解除される。
敗神は状況が全くもって理解できていないが、煉獄神は構わずに話す。
「お前の右腕は俺様が所持している」
そう言って敗神の右腕を高々と示す。
「そして、これをこうする」
右腕は、間接ごとに区切られ3つにされた。
「もうすぐ湧くモンスターの3体にこいつらをそれぞれチートとして付与する。
お前がそのモンスターどもを殺せたら右腕を取り返すことができる。
簡単だろう?話は以上だ、とっとと煉獄から出ていけ」
質問も口を挟むことも許されない一方的な話が終わると、
まるで用済みだと言わんばかりに転移させられる。
仇を前に何も出来ない自分の弱さを憎みながら、
右腕を取り返す決意を固める。
紡がれる物語は視点を新たに再び始まる。
世界という舞台はまだ始まったばかり――
というわけで暫く更新停止します。
パンケーキは次話になります。
それでは、いつかまたお会いしましょう!