悪役令嬢、撫でる
3部目です。
「それで、さっきのはいったい何? マリアのスキル?」
「その説明はぼくがさせてもらうよ!」
「わぁ!? よ、妖精!?」
放っとかれていたリンが登場しました。
「あらリン、どこに行ってたの?」
「ずっといたよ!? もう! マリアとルークのばーかばーかっ!」
「えぇっ!? 僕も!?」
「きみだってぼくに気づかずマリアと話し込んでたじゃないか!」
拗ねたリンがルークの方へと噛みつく。面白いので黙って見てれば、助けを求めるようにルークがマリアを呼んだ。
「マリア! この妖精はマリアと契約してるの!?」
「契約?」
「名前あげた!?」
「うん」
「じゃあ助けて! ちょっ、痛い痛い! 枝でつつかないで!」
精神年齢が同じくらいらしかったリンと話して、段々と砕けた口調になってきた。ゲームじゃ無口で愛想がなくて、重要なアドバイス以外なにも喋らないキャラだったのに昔はこんなに可愛かったのか。
ニマニマする口を必死に堪えながらリンの枝を取って、その額をコツンと小突く。
「リーン、ルークいじめちゃめっだよ?」
「何さ何さ! そっちこそ、ぼくを放置して二人きりの世界作っちゃってさ!」
「やだリン、二人きりの世界だなんてっ! 照れちゃうじゃない」
「マリア!?」
きゃー! と声を上げながら頬を押さえると、ルークが勢いよく振り向いた。恥じらうように、上目遣いでルークを見つめる。
「えへへ……私、ルークに一目惚れしてます。ルークのその髪も目も大好きです」
「え……」
突然の告白に紺碧の瞳が大きく見開かれ、揺れる。
いや私もびっくりしてる。なんの脈絡もなくぽろっと気持ちが出てきたよ。マリア素直すぎない?
セルフツッコミが止まらない。どうしよう、と慌てるマリアの心情には気づかないルークが震える口で言葉を紡いだ。
「気持ち悪くないの……?」
「へ?」
あれ? 私告白したよね? なんでそうなった?
頭の上にはてなマークが並ぶ。こてんと首をかしげて続きを促せばルークが視線を落とした。
「この髪も、目も……僕の家系にしかない色だから……黒髪は不吉だって、言われてるから」
悲しそうに言うルークに庇護欲が刺激される。いや、母性か?まぁどっちでもいいや。
私は視線を下げたままのルークの頭に手を伸ばして呟いた。
「こんなに綺麗なのにね」
「えっ」
ルークが短く声を上げる。
自分が持ってる美しさって、自覚してない人が一番タチ悪いと思うんだよね、私。
「ツヤツヤで、天使の輪っかができるようなこの髪も、深海のようなその瞳の色も綺麗。不吉だなんて、そんな迷信で忌み嫌うなんて勿体ないわ」
ゆっくりとその髪に触れて撫でる。一瞬その身体がビクリと震えるが、大した抵抗もないのでそのまま撫で続けた。
「もちろん、大人っぽい口調も、案外テンションが高いところも好きですよ。まだ少しの時間しか過ごしていないけど、私はルークのことが大好きになってます」
……だから、私の婚約者になってください。
そう告げた瞬間、バシッという音を響かせて、マリアの手が勢いよく振り払われた。
感想、評価、ブクマをよろしくお願い致します!