悪役令嬢、強引になる
2部目です。
先程に続いて短いです。
マリアは焦っていた。しかし、それも仕方の無いことである。目の前に、前世で推しに推した推しが立ってるのだ。しかもゲームのスチルにはなかった子供姿で。
テンパるなという方が無理な話だった。
「あ、ああああの……っ」
「あっ、も、申し訳ありません! 邪魔をしてしまい……すぐ戻りますので」
「えっ、まっ……! お、お待ちください! ルーク様!」
駆け出そうとするルークを引き留めようと、思わず名前を読んでしまった。初対面、しかも名乗られてさえいないのに、だ。自分が知らないうちに人物を断定できるほど調べられているなんて不快でしかない。
ちらりとルークの方を向くと、こちらをぽかんとした表情で見つめてきていた。
一気に頭が冷えて、少し冷静になったマリアはそっと淑女の挨拶をした。
「はじめまして、ルーク=アラベスタ様。この家の娘、マリア=セイントベールと申しますわ。黒髪は珍しいと聞いていたので、あなたの事を覚えていました」
全くの嘘である。
前世で兄弟に、「二次元にカマかけてないで彼氏の一人でも作ったら?」とまで言われる(ゲーム厨の兄弟にだけは言われたくなかったが)ほどめり込んでいたフロスピの唯一無二絶対的存在である推しのお助けモブキャラルーク様がショタだったからと言って私に分からないわけがない。ガチ恋予備軍と言ってもいい。
そんなことを思いながら挨拶が返ってくるのを待っていたが、しばらくしても返事がない。
「ルーク様……?」
「あっ……はじめまして、ルーク=アラベスタと申します。ご回復、お祝い申し上げます」
子供らしからぬ口調で言って、ルークがふわりと微笑んだ。
はああああ可愛いいいい!!! ゲームじゃひねくれた冷徹キャラだったけど昔はこんな天使みたいだったなんて……!
荒ぶる心内を笑顔で隠し、ずっと思っていた疑問を投げかけた。
「ありがとうございます……それで、ルーク様は何故ここに?」
「僕、いえ私は人混みが苦手で……人酔いしてしまったので少し休もうかと」
気まずそうに、頬をかきながら言うルーク。
一挙一動が可愛い。その困った顔さえめちゃくちゃ可愛い。
「マリア嬢こそどうなさったんですか? 今日の主役がこんな所で……」
「どうぞ、マリアとお呼びください。一人称も僕で結構ですよ。私も疲れてしまって……逃げてきてしまったんです」
そう言うと、ルークが「同じですね」と苦笑した。なんだか恥ずかしくなってきて、照れ隠しにパンッと手を叩く。
「そうですわ! パーティーが終わるまで一緒に遊びませんこと?」
「え……あ、遊ぶ?」
戸惑うルークの手を引いて、さっきまで座っていたブランコの元へと導いた。ルークはブランコを不思議そうに眺め、マリアへ視線を向ける。
「これはどう遊ぶんですか?」
「こうして、座って漕ぐんですよ。ルーク様もやってみてください。隣人さんたちお願い!」
マリアが言うと、蔦がシュルシュルと伸びてきて、マリアの隣にもう一つブランコを作る。そのままルークの方に伸び、驚いて固まる彼をブランコに座らせた。
「え、え?あの、マリア嬢、今のは……」
「マリアって呼んでくださいと言いましたよね? 呼んでくれなきゃ返事しません」
ぷいっと拗ねたように横を向く。
前世では間違ってもこんな事しないけど、やっぱり元のマリアの性格も混ざっているのかもしれない。口から素直に我儘が飛び出てくる。
ルークはまた困った顔をして、諦めたようにため息をついた。
「わかりました……それじゃあ僕のこともルークとお呼びください。敬語もなくて結構ですので」
「ええ、ルーク。貴方も敬語を止めるなら」
「……わかったよ、マリア」
渋々といった様子で頷くルーク。
すごいな私。この強引っぷりは前世でも欲しかったわ。
ルークはそっと座り直して、マリアを真似してゆらゆらと漕ぎ出した。
次も短い…と思います。