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騎士見習いは踵を返し、黒猫は笑い、天使は微笑む。

無事!!卒業!!しました!!

 そろそろ日が傾いて、太陽が水平線へと消える頃。

 大きな獣の唸り声と、地面を踏み鳴らす轟音。


「さて、問題ですお義兄様」


 金髪を揺らした少女が言うと、オレンジの髪の少年が溌剌と返事をする。


「おう、なんだよ言ってみろ」

「爪から致死性の猛毒を垂れ流す毒竜を倒すにはどうしたらいいでしょうか」

「首を落とす!」

「前に他の被害を防ぐため両手足を落とす」


 オレンジ髪の少年の言葉に続けるように、水色の少年が言った。片刃の剣がきらりと光る。


「正解よアラン。じゃあ私たちのサポートよろしくねルーク!」

「了解マリア。無理しないでね」

「俺を生かすも殺すもおまえ次第だかんな! ミスんじゃねぇぞアル!」

「はいはーい。手が滑らないように気をつけるよ~」

「みなさん頑張ってください~」


 ほのぼのとした、まるで何かの試合前のエールのような会話。

 そしてジュウという何かが焼ける音と、鼻がもげるような刺激臭。

 相反する二つを前に、ブランドン=バルデンはその場に立ち尽くすことしかできなかった。



 ブランドンは王国騎士団団長・ザッハーク=バルデンの一人息子である。それゆえに幼い頃から父について剣術を学んできたし、そのへんのごろつきなら手加減しつつ勝てる自分には才能もあると思っていた。しかし、尊敬する父がブランドンを褒めることはなかった。父が褒めた人間はこの世でただ二人。王弟であり宰相、現セイントベール公爵のオーウェン=セイントベールと、伝説の剣聖、ルーカス=レグリオンだけだった。

 ブランドンだって彼らがすごいということは知っている。公爵は王子のころに婚約者を攫った奴隷商を一人で潰したという話のほかにもたくさんの逸話があるし、ルーカス=レグリオンは勇者とともにこの国を作った英雄だ。

 彼らを讃えるなんの嫉妬心も沸かないし、むしろ当然のことだとも思っている。だが、ここ数年の父は違う者の名前を出すようになった。


 公爵の娘であるマリア=セイントベールと、ルーカスの子孫であるニコラス=レグリオン改めニコラス=セイントベール。

 この両名を、父はよく褒めるようになった。

 ブランドンは精一杯の努力していた。父に褒められたくて必死だったし、母はそんなブランドンを褒めてくれた。だが、年を経るごとに彼女らの話題は増えていく。曰く、天才。曰く、剣聖。たくさんの貴族の子供が参加した剣術大会で優勝しても、騎士団の新米を倒せるようになってもそれは変わらなかった。


 ついに学園の入学式を迎え、試験でマリア=セイントベールと剣を交わしたとき、衝撃と絶望に貫かれた。自分より身長も低く、華奢で、軽いはずの彼女に手も足も出なかったのだ。準決勝までの同級生たちとは桁が違う、圧倒的な強さ。これまで築いたプライドや矜持、その全てが崩れ落ちた。彼女は欠片もブランドンを見ていなかった。ぞっとするほどの冷たい目で、つまらない事務仕事のようにたった一撃でブランドンを倒した。

 次に彼女の剣技を見たのは上級生との交流授業だった。ニコラス=セイントベールと戦えるかもしれないという希望は早々に砕けたが、マリアが義兄のニコラスに負けるところが見たかった。それなのに、女が男に負けるという当然のことすら見れなかった。剣聖の再来と言われ始めた彼は年下の女に負けた。ニコラスのこともライバル視していたはずなのに、何故か裏切られたような気持ちになった。


「あ、ああ……」


 目の前に広がる、おおよそ現実とは思えない光景に、それからずっと抱いていた当惑や、煩悶、憤懣、複雑な感情その全てが今この瞬間解放された気がした。彼女、彼は最初から、ブランドンの立つ位置とはかけ離れた場所にいたのだ。それこそ『次元が違う』というに相応しいほどに。

 目にも留まらぬ速さで動く少年少女。輝く水色の結界に毒々しい色の血飛沫が跳ねる。地面からはジュウジュウと炙るような音と、微かな煙が立ち上っていた。


「後ろ足は切断したぜ! そっちはどうだよマリア!」

「前足もすぐ切れますけど! ていうかお義兄様綺麗に切断してます!? それも貴重な素材なんですからね!?」

「おいルーク! 魔力を追加しろ! 『蝉時雨』がもたん!!」

「はいはい! 可愛い弟子に送ってあげるんだから、その毒吸収しないで残しておいてよ!」

「こっ、こんなにモンスターって集まるものなんですかー!?」

「魔力に集まってくるからね! でもエレノア嬢、初戦でこれは才能あると思うんだ!」

「演奏止めんじゃねぇよ馬鹿アルゥゥゥ!!」

「お義兄様叫ぶと毒ガス吸い込んじゃいますよ!?」


 ……ぎゃあぎゃあと怒号と悲鳴が響いているが、誰一人怪我していない。

 結界内のマリア、ニコラス、アランジール殿下の三人がどす黒いドラゴンに立ち向かい、結界の外ではルーク=アラベスタとエレノア=ドルジェット、アルヴァンス殿下が押し寄せる大量のモンスターを倒していく。別次元の戦いに、ブランドンは剣に手をかけた手が震えるのを感じた。


「っ!?」


 ガサッ! と後ろで音がし、茂みから緑色の肌をした巨躯が飛び出してきた。


「っく……!」


 振り下ろされた棍棒を咄嗟に避け、腰の剣を抜く。そのまま躊躇いなくその首を刎ねた。

 力をなくした身体が沈む。血のついた刃を払った瞬間だった。


「はっ!?」


 先ほどより大きなオークがわらわらと奥から出てきた。ざっと二十はいる群れに、ブランドンの背に嫌な汗が伝う。ブランドンは実戦経験がほとんどない。確定した劣勢にじり……と後ずさる。


「はぁ……馬鹿らしい」


 そんな声が背後で聞こえた瞬間、目の前にいたオークが全て串刺しにされた。わずかな木漏れ日に無色透明の氷柱が反射する。

 勢いよく後ろを振り向くと、深い青を基調とした猫の面をつけた少年が立っていた。


「おまえは……」

「言っとくけど、別に僕は君が死んだって良かったんだ。自業自得だし、助けても何のメリットもないんだから」


 オークの死体からドロップ品を拾いながら、黒いローブのフードを被った少年が言う。


「だけど、それじゃ僕の宝物が悲しむから。天使みたいに慈悲深いあの子は人の死を忌み嫌うから。特に、君みたいな子供の死は」


 ローブについた砂埃を払って、少年がパチンと指を鳴らす。すると、ブランドンの体がここまで来た道のほうへと向いた。自分の意思に反して足が勝手に動く。


「それじゃ、さっさと帰ったほうがいいよ。僕らは二度と君を助けないし。それと──」


 ひゅうと吹いた冷たい風が、少年のフードを外す。宵闇のような漆黒がさらりと揺れた。


「次にマリアに近づいたら、オークの群れに放りこむからね」


 仮面の下で、少年が小さく笑ったのがわかった。


 *****


「ふぃぃ、一仕事終わったぁ……お風呂入りたい」

「久々にいい運動になったな! あー、腹減った。さっさと飯にしよーぜ」


 昼食を食べ終わって一息ついたマリアたちのもとに聞こえてきたのは、小型のモンスターとは思えない咆哮。急いで駆けつけてみれば、紫と黒の中間みたいな色をしたドラゴンがぐるぐると唸り声を上げていた。周りの植物は腐食しきり、滴る唾液が地面を焦がしていた。

 それから即時戦闘に入り、結局日は完全に落ちて辺りは暗い。


「はぁ……まだ結界の長期継続は難しいな。もっと魔力を増やさないと、範囲がどんどん縮んでいく」

「でも前より大分マシになったよ。 今日はマリアもほとんど魔法使ってなかったからアラン自身の魔力が大半だっただろ?」

「ルークの言う通りよ。やっぱり魔力を限界まで使い続けるって大事よね……私もまたやろうかしら」

「おまえまたあれやんのか? 昔やってたけどよ、あの時うっかりおまえの部屋に入ったメイドが当てられてぶっ倒れたの覚えてねぇの?」

「だってうちの寮幼馴染しかいないじゃないですかー」

「いや、同じ女子寮のエレノア嬢に配慮しろよ……」

「そういえばエレノア嬢はどこ行ったの? アル様も見えないんだけど」

「マリア!」


 ルークが言った途端、エレノアを抱えたアル兄様が茂みから飛び出してきた。


「アル兄様!? エリー!?」

「え、エレノア嬢が……!」

「兄上、落ち着いてください。ひとまずエレノア嬢をシートに横たえて」

「アル様、ここに。大丈夫です、息さえあればマリアが治せますから」


 横たえられたエレノアが荒い呼吸をしながら苦しそうに身を捩った。


「……治療をするわ。視線防御の結界をかけるから男性陣は大人しく待っててください」


 カーテンを閉めるように結界を張り、戸惑いうろたえる四人が半透明の先に見える。


「エリー、エリー」

「っあ、ま、リア……」

「エリー、症状を言って。痛い? 苦しい?」

「い、たくはないです……けど、くるし……」


 ハァハァと息を吐く彼女にマリアは治癒魔法をかけ続ける。が、まったくその症状は変わらない。しかし過呼吸ではなく、解毒も出来ているから命に別状はないはずなのに、エレノアの頬は紅潮し苦しげな呼吸を繰り返していた。

 マリアはふっと短く息を吐いて結界の一部を解除した。途端に外で話す声が聞こえるようになる。


「アル兄様」

「マリア! エレノア嬢の容態は……!」

「一応、命に別状はないと思います。それよりどういう状況でかかりました?」

「あ、えっと……一通り魔物を片付け終わって、君たちの所まで戻るつもりで。そしたら突然背後から何かが飛び出してきたんだ。次の瞬間にはエレノア嬢が倒れて……」

「わかりました。現状、私にはエリーの症状がわかりません。治癒魔法は効かない、解毒はしてあるのに回復しない。何の攻撃をされたかもわからない今、私に打つ手はありません」


 そういうと、アル兄様が愕然とした表情になった。アランとお義兄様は顔を顰めながら青白い顔のアル兄様を支えている。ルークだけはこの後続くマリアの言葉を悟ったように笑った。


「ですから」


 安心させるように、それでいて悪戯っ子のように微笑む。


「今から迎えに行ってきます。私なんかより遥かに優秀な、あの子を」

いつもブクマと評価ありがとうございます!たまには感想なんかもくださると嬉しいです!


皆さん世間は色々と大変ですが、デマなんかに騙されず、必要な分の生活用品を買い、牛乳を大量消費して大人しく家に閉じこもってましょうね!!

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