地雷踏み抜く熱血少年
ちょっとリアルバタバタしてまして毎週ではなく書き上げたその日に上げるようにします。二週間はあかないようにしますので〜
「昨日は突然押しかけてすまなかったな! ところで勝負はいつにする!?」
「お帰りください」
「いつ勝負をしてくれるんだ!? 今日か!? 明日か!?」
「お帰りください」
「剣でも槍でもいいぞ! いっそ弓で打ち合うか!?」
「お帰りください」
「そうだ、俺に勝ったら褒美をやろう! ドレスか!? 宝石か!?」
「お帰りください」
「なあマリアって呼んでいいか!?」
「その口を二度と開くな裂くぞ」
ただただ「お帰りください」と返していたルークが遂にキレた。慌ててアランがその肩に手を置く。
「ルーク、ステイ。それと……バルデンといったか? 悪いことは言わないからその口を閉じておけ、死ぬぞ」
「ご心配痛み入る第二王子殿下! だがその必要はない、俺は貴公より強い!」
「おいルーク、こいつの口を封じろ。なに、少しくらい手足が取れても構わん」
「イエス、ユアハイネス。四肢をもぎとって献上しましょう」
「待って待って待ってー!!」
この二人目がガチである。しかしマリアが二人の背広を引っ張って止まるだけまだ理性的だ。これで止まらなかったら拳骨である。
「もー二人とも! 一般人に手を出しちゃダメってお父様たちと約束したでしょ!」
「昨日一般生徒をはっ倒してたのは誰だ」
「あれは試合! 今は違うでしょ! 二人とも、めっ!」
ペシッと一発ずつデコピンを打ち込むと、二人は不満そうにしながらむぐぅと黙った。
マリアはくるりと後ろを向いて、わくわくと肩を揺らす少年に向き合う。
「えっと、バルデンくんだっけ? 悪いけど私は貴方と授業以外で戦うつもりもないし、親しくなろうとも思わないのよね。そもそもルークもアランも貴方なんかより遥かに強い。そんな実力差すら見抜けない人と戦う時間なんて無駄なだけだわ」
「じゃあおまえが稽古を付けてくれればいいだろう!」
「私が貴方に指南するメリットがないわ。私は貴方のお父上じゃないもの、利点もないのにそんなことしてられない。私は忙しいの」
最大限に冷たく、氷のような視線を宿す。同時に少し周囲の気温を下げた。
「これ以上私たちに関わるなら適切な処置を取ります。これは警告ですわ、ブランドン=バルデン様」
ふわりとスカートを翻し、呆然とするバルデンに背を向ける。その後ろに出で立ちを整えた男子二人が立った。
「ここにいるのは全員、貴方より貴族位が高いということをお忘れなく」
呆然とするバルデンを置いて、コツコツとブーツを鳴らしマリアたちは悠然と廊下を歩き出した。
*****
「ってことがあったの! もーめんどくさいったらないのよ!」
「あらー、それは大変でしたね〜」
花への水やり当番として先に寮を出たエレノアに縋り付きながら、マリアは今朝の出来事を話した。
「ルークの機嫌最悪だし権力で脅迫しちゃったし本ッ当入れたのが間違い……」
「でもアラン様笑顔ですねー。穏やかに笑った表情がアル様そっくりですー」
「ああ、あれは逆よ。アランはイライラしてる時ほど笑うくせがあるの。宮廷の狸親父なんかと話してるとどうしても必要になるんでしょうけど、他人がいなくなるとすとんって表情が消えるのよ。放課後を楽しみにしてて、寮に帰った瞬間能面になるわ」
昨夜作ったパンの耳ラスクを齧りながらマリアはそう愚痴る。それぞれ寝不足だったため朝食を作る暇がなく(お義兄様は起きていたけどキッチンに立ち入り禁止なので)お腹が空いてしまった。
早番のエレノアも食べておらず、同じくラスクをもぐもぐしながら女子トークに花を咲かせる。
「ところでー、マリアはアル様の怒ったところ見たことあるんですかー?」
「えぇ? アル兄様?」
「はいー。いつも穏やかなので、怒ったりするのかと思いましてー」
「んー、私の記憶にはないかなぁ。兄弟喧嘩はアランとアレクがよくしてるけど、基本的に本気で怒ったり怒らせたりはしないの。じゃれあいの延長戦だったり、危ないことしたから叱ったりって感じ」
「そうなんですかー。じゃあやっぱり普段怒ることが多いのはー……」
「お察しの通りアランね。キレながらツッコミ入れるし周りがボケるから。でも身内の話だし、今日みたいに余所行きの顔はしないよ。とことん叫んで拗ねるの。それで次がルーク」
「意外ですー。普段温厚なのにー」
「ルークはねぇ、過保護だから、私たちが危ないことすると笑顔で怒るの。些細なことならちょっとお小言言うくらいで済むんだけど、やりすぎると正座させられて訥々とお説教してきて──」
「「マリア」」
真後ろで名前を呼ばれ、マリアはぴたりと口を閉じた。
ぎこちなく後ろを振り向くと、満面の笑みを浮かべる馴染みの顔が二つ。
「ひぇ……」
「何喋ってるの? マリア。僕たちにも教えてほしいなー?」
「ああ、ぜひ混ぜろ。何の話をしているんだ?」
「あばばばば」
マリアはとっさにパンの耳ラスクを差し出した。お腹が空いているらしかった二人は一瞬の沈黙の後、ラスクに手を伸ばした。
「今回は……もぐもぐ……これで許してやるが……」
「むぐむぐ……次はないからね……もっと頂戴」
ちょろいぞこいつら。もきゅもきゅとラスクを頬張る二人にマリアはそっとほくそ笑んだ。
*****
「……ねぇ、わかるよね」
「うん、すっごい見てきたね……」
「関わるなと言ったから見るだけにしたんだな」
「視線がうざいですねー」
「「「同感」」」
授業中、最前列に座るマリアたちに、背後から痛いほど視線が突き刺さっていた。視線の主は言わずもがなブランドン少年である。騎士団長の息子は剣技で上位の成績を取っていたらしい。
「これいつまで続くと思う?」
「マリアが相手するまでじゃないか?」
「それは僕が許さないけど」
「なら卒業するまでかもな」
「圧倒的な実力差を見せるのはどうですかー? 戦意喪失しないですかねー?」
「それいいかもっ! 最近ギルド行ってないし」
「「ただいまー」」
午前授業だったマリアたちが話していると、午後まで授業していたお義兄様たちが帰ってきた。
「お帰りなさいお義兄様、アル兄様」
「おうただいま。何話してたんだ?」
「明日ギルドに行かないかって話だ」
「いいね。エレノア嬢も行くかい?」
「いえでもー、私じゃ多分足手纏いになりますしー」
「大丈夫だよぅ、私たちが守るから! ね? 一緒に行こうよぉ。エリーの分も作っちゃったんだよ、バトルコスチューム」
「最近ずっと作ってたのそれだったんだね」
「んふふ、久々に趣味に走れて楽しかったわ」
「んじゃエレノア嬢は参加決定だな」
この学校は平日には外出理由などを記入した届けを出さねばならないが、休日の外出は自由だ。普通高位貴族は子息子女の外出に護衛や送迎などをつけるため、保護者への連絡も必要ない。明日は週二日の休日初日だからキャンプも有りだ、
「でも急にどうしたんだい? アレクから連絡でもあった?」
「いえ、違います。この前来たあの騎士団長の息子が……」
三時のおやつを作っているマリアに代わり、ルークが事の顛末を説明する。話を聞き終わったアル兄様が「それは災難だったね」と笑った。
「でもなんでそんなマリアに執着するんだろうな。入試の決勝戦で叩き潰したりしたかぁ?」
「それが覚えてないらしいんです。僕の試合見たくて大して相手見ずに倒したって言ってました」
「あいつに倒された生徒が気の毒でならんな。だからあんなに早かったのか」
例年、試験の終了時間は学力が一番早く、魔法と剣術が同じくらいだ。学力試験の終わった者は帰るかどちらかの試験の観戦に向かう。だが今年はマリアが猛スピードで試合を終えたため、魔法試験が準決勝にさしかかったところで剣術試験は終了した。突然隣に現れたマリアに悲鳴のひとつも上げなかった自分は心臓に毛でも生えたのかと思ったのは秘密にしたいアランである。ちなみに婚約者の登場にテンションの上がったルークは爆速で準決勝を終え、マリアに褒めてもらいたいがために大技を連発。相手を嬲るように決勝を終えた。おまえは忠犬かと問いたい。
「パンケーキできたよ~っ! トッピングはご自由にどうぞ!」
コトンとテーブルに置かれたパンケーキはメレンゲで作ったふわもこ食感の人気おやつだ。アイスに生クリームに蜂蜜、チョコ・ブルーベリー・苺のソース、フルーツやカラースプレーが用意され、各々好き勝手に盛り付けていく。
「お兄様……そんなに食べて夕飯食べられるんですか? さっきお昼食べてきたんですよね?」
「余裕だ余裕。こんなもん腹の足しにもなんねぇよ」
「学食で三人前食べてきたのによくそんな食べるねぇ……」
アル兄様の言葉にルークやアランが引きつった笑みを浮かべた。
「なんでそんな食べられるのさ……成長期って言っても限度があるよ?」
「脳にいく栄養が全部筋肉になってるんだろうな」
「おまえらそんだけしか食わねぇのか?だから身長伸びねぇんじゃねぇ?」
ピキリ、と二人の額に血管が浮かび上がった。
「これだから脳筋はダメなんだ。もう少し記憶力を高める食材を食ったらどうだ。そもそもおまえ肉やパンばかりじゃなく野菜は食ってるのか?」
「それに食べればいいってもんじゃないんだよ。そもそもご飯は体に必要な栄養を補うのは当然のことその味、香り、食感、見た目などを五感で感じ幸福に浸るためのものであって」
「あーあーチビの僻みはうっせーなー」
「「もう一度言ってみろ」」
ぎゃあぎゃあと喧嘩し始める三人にエレノアとアル兄様が苦笑した。
「あはは、元気だねぇ」
「男の子って変なとこで競いますよねー」
「いつまで経っても子供なだけよ……」
何年経っても変わらない口喧嘩にマリアはため息をついた。この場にアリスやユリウスがいたら同じように呆れていただろう。アレクは……この中に混ざりそうだな、と寂しがりな弟たちを思い出しながらマリアは飲み干したティーカップに紅茶を注いだ。




