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箱庭主義者はエトランゼの首を刎ねる

箱庭主義者=身内大好き

「なんか、見られてる気がするのよね」

「マリアは美人だからね」

「ありがとうでもそういう事じゃなくてね?」


 さらりと言ってくるルークにマリアはてれてれと言葉を返す。

 ルークの隣ではアランが呆れたような半目を向けてきた。


「おまえはいつでもどこでもマリアを褒めないと気が済まないのか?」

「褒めてるんじゃなくて当然のことを言ってるだけだけど」

「本当におまえは……」

「まあまあー、見られるのは当然ですよー。皆様は王家、公爵家、侯爵家の子息子女だし三教科の首席ですよー? おまけに目立つ容姿もしていますしー」

「わかってるけどさぁ……クラスメイトにも遠巻きに見られてるんだもん。もっと友達欲しいよ」

「んー、難しいと思うな。マリアの人格どうこうじゃなくて、家の格とかで」

「逆に擦り寄ってくる奴は要注意だ。俺たちの権力にあやかろうとする者は多い」


 こつこつと靴を鳴らしながら三人揃って廊下を歩く。

 クラスの役決めなどのホームルームで一日目を終え、今日は授業初日である。実力主義のこの学校では成績の高い順にクラス分けがなされるので、当然のごとくマリアたち三人は一緒のSクラスだ。エレノアも学力で上位に入っていたらしく同じクラスに振り分けられた。


「この服も注目を集めているかもしれませんねー。とっても可愛いですからー」

「えへへ、そう言ってくれるとデザイナー冥利に尽きるよ~」

「でも宣伝できないのは残念ですねー」

「そうなの。そこなのよね」


 ブランド《ネバーランド》のデザイナー『ウェンディ』の正体は企業秘密だ。企業時マリアの名前と年齢では現実味がないため、謎のデザイナーとして売り出したのは現在でも継続している。


「あ、そこを曲がればグラウンドみたいだよ」

「この学校は広いな……地図がなければ迷いそうだ」


 二人の声に前に視線を向けて角を曲がる。そこには芝生のグラウンドが大きく広がっており、中心には数名のクラスメイトと先生が立っていた。


「迷わずに来れたわね! まだ数名到着してないからしばらく待ってなさい!」


 そう言い放ったのは我がクラスの担任教師グレイアス先生だ。”彼”は肩口まである灰色の髪を一纏めにし、腕を組んで仁王立ちで次々に到着する生徒たちを迎えた。五分も経たず、クラスメイトが全員揃う。


「全員揃ったわね! それじゃ、今日の授業内容を説明するわよ! 今日はアタシたち教師がアンタたちの実力を把握するために実践訓練を行ってもらうわ! 相手はSクラスの先輩よ! 出てきなさい!」


 いやポケ○ンかよ。

 しかし、そのその直後数名の生徒が木陰から飛び出してきた。


「出でよと呼ばれる声を聞き!」

「光の速さでやってきた!」

「風よ大地よ大空よ!」

「「「我ら無敵の二年生!!!」」」


 いやだからポ○モン大好きか? しかもロケッ○団の口上覚えるレベルって相当ファンだな?

 これは転生者いても驚かない。ていうか絶対同世代だ考えた人。


「いってぇ!」

「ぴっ!?」


 突然背後から声が聞こえて肩が跳ねる。びっくりして変な声が出てしまった。恥ずかしい。


「ル~ク~! おまえ、またマリアに変な防御魔法かけたな!」

「変な、は余計じゃない? 悪意を持って触れたらちょっと痺れるだけだし、ニコラスがマリアにちょっかいかけなければ発動しなかったけど?」

「せっかくアルに気配消してもらって近づいた苦労を無駄にすんなよ!」

「兄上になにさせてるんだおまえは!」

「まあまあ、僕も、どこまでマリアに通用するか試したかったし……ドッキリは失敗でも気配自体は消せてたみたいだから成功だね」


 僕もちょっとは成長したかな、とアル兄様が得意げに言うので、みんなの毒気が抜かれた。そこにパンパンッと手を叩く音が響く。


「アンタたち! 身内の話は寮でやんなさい! とっとと実習始めるわよ!」

「すみません」


 フンッと鼻を鳴らしたグレイアス先生が、一年と二年のSクラスをグループにして振り分けていく。こちらも成績順なので、マリアたち四人とお義兄様、アル兄様、それから二人の女子生徒を交えて四対四でやることになった。


「分かれたわね? じゃあ代表で一年はルーク=アラベスタとマリア=セイントベール、二年はニコラス=セイントベールとケイト=マモニカ、前に出てきなさい。見本よ」


 手招きをされるまま先生の側へと歩いていくと、四人の足元に魔方陣が浮かび上がった。それはそのまま頭上まで上がっていき、結界らしきものを作る。同時に身体の数箇所に的のようなものが浮かび上がった。


「それじゃあルール説明ね。二人一組で魔法、物理なんでもいいから相手の的を光らせなさい。全部光った者から結果外に放りだされるわ。ただし、首を跳ね飛ばされたら即刻退場よ。怪我の痛みはあるけど空間から放りだされた瞬間になくなるから傷跡なんかの心配はいらないわよ。まあ仮想空間とでも思えばいいわ」

「先生、マリアとルークがタッグを組むのは駄目だと思いまーす」


 せめて一人づつにしてくれ、と主張するお義兄様の言葉に反対したのは意外にも、ペアを組んだマモニカ先輩だった。


「大丈夫よニコラス君っ! 私も魔法なら得意だし、ニコラス君は剣聖だし、去年先輩に勝っちゃったほど強いんだから!」

「その自信はどっからくんだよ……」


 なるほど、どうやらマモニカ先輩はお義兄様に片想いしているらしい。ペアを組めるのが嬉しいらしく、この気を逃すまいと必死だ。


「ペアからの賛同は得られなかったみたいね。予定通りやるわよ」

「あー、初っ端から後輩に情けねぇとこ見られんのか……」


 うなだれるニコラスとは対照的に、マリアとルークは笑顔だ。


「さあお義兄様! 春休みは遊んでばかりでしたし、久々にやりあいましょう!」

「やるからには徹底的にやるよ。手加減はしないからね、ニコラス」


 マリアは〈ケース〉から愛用の双剣ディオスクロイを取り出した。ギリシャ神話のカストロとポルックスがモデルらしいこの剣は、カストロが細く長い剣、ポルックスが短く太い剣だ。それをしっかりと握りこみ、ルークの一歩前に出る。


「悪く思わないでちょうだいね、マリアちゃん。義妹になるとはいえ容赦はしないわ!」

「いや義妹にはなんねぇよ」


 お義兄様の突っ込みが入るなか、ルークのテレパシーが聞こえてくる。


『……マリア』

『ルーク……ここまで言われて、本気でいかないなんて言わないよね?』


 にぃ、とマリアの口角が上がる。今にも笑い出しそうな声に、ルークは苦笑交じりにその背を押した。


『言わないよ。僕が守るから、存分にやっておいで』

『ありがと』


 短くそれだけ言って、マリアの顔からすっと笑みが消える。その目はまっすぐと自信ありげなマモニカを見つめた。


「ようい……始めッ!」


 その号令が下った瞬間、風を切る音を残して、マリアがマモニカに肉薄した。


「はや……っ!?」

「っちぃ!」


 ガキン! という音がして、マモニカの首筋に迫っていたマリアの剣が弾かれる。


「ぼーっとすんな! 今目の前にいんのは剣も魔法もひよっこの一年生じゃねぇ!」


 ニコラスがそう叫ぶ間にも、マリアは地面を蹴りマモニカの首に刃を向ける。そこに躊躇いなどは一切ない。


「喋ってる暇、あるんですか?」


 一筋弾けば、もう一本の剣が目前にくる。そんなのを繰り返し、およそ普通の打ち合いでは出ない火花が散る。


「お義兄様どいてくださいよぅ。先に先輩を落としてからやりますから」

「おまえなっ、そー簡単に首落とそうとすんなよ……っ! いくらオーガで慣れてるからってな! 普通の令嬢はぽんぽん人の首はねようとはしねぇんだよ!」

「でも私、あの人義妹になるのはちょっと……というわけで」

「あ!?」


 ひらりとお義兄様の剣をかわすと、お義兄様の動きがぴたりと止まった。


「ナイスルーク!」

「くっそ、ルーク離せ!」

「マリアのお願いが叶ったらね」


 ルークの魔法でお義兄様の身体が固定される。障害がなくなったマリアはいっきにマモニカとの距離をつめた。最後の抵抗とばかりに打ってくる水魔法を業火で消して、至近距離で目を合わせた。


「ひっ……!」

「お義兄様のお嫁さんは私より強い人って決めてるんです……だから、ごめんなさい?」


 次の句を言わせる前に、カストロを大きく振り抜いた。次の瞬間、その身体は泡のように消えて結界の外に呆然とするマモニカが現れる。


 それを見届けてから、ルークの魔法と対峙するお義兄様の元へと舞い戻った。


「ありゃ、もう終わっちゃう?」

「ううん、まだかかるよ」


 ちょっと目を離したすきに、いくつもあった的のほとんどが光っていた。リーチの大きいカラドボルグといえど、次々と打ち込まれる魔法を避けながら攻撃を繰り出すのは至難の業だ。それでもルークの的の何箇所かは光っているのだから、さすがお義兄様としか言いようがない。


「もう戻ってきたのかよ! 早えよ!」

「お義兄様、首と的、どっちがいいですか?」

「どっちも嫌に決まってんだろ!? アホな質問してくんな!」

「マリアはアホじゃないよ」

「そうじゃねぇよ! そこじゃねぇよ! いつもの常識どこいったんだポンコツルーク!」

「お義兄様! ルークはポンコツじゃないですよ!?」

「アルぅぅぅぅぅ!!! アランんんんん!!!」


 必死に打ち合うニコラスが叫び、助けを求められた兄弟は諦めたような表情で言葉を返した。


「ニコラスー、頑張れー。せめて首だけは切られないようにね~」

「その二人が組んだ時点で詰んでるからな……ああほら」


 ルークの猛攻を凌いでいると、ふっと視界に影がさす。


「後ろだ」


 ザンッという音とともに、ニコラスの背中が袈裟懸けに切られ、最後の的が赤く光った。


いつもブクマ評価ありがとうございます!

誤字脱字報告とても助かっています!

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