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箱庭作りには魔力が重要

自室にテントって憧れません?

 寮のシステムは、基本的には魔石と設計図で成り立っている。

 寮形成のための大きな魔石に魔力を込めると、それが人数分の鍵になる。寮を新たに設計する時は鍵を纏めて魔力を抜く必要がある。魔力補給は鍵を通して行われ、魔力の多いものから順に持っていかれるのだ。

 部屋の一室一室には魔石が置かれ、それに魔力を通しながら頭のなかで願うとお手軽に模様替えができるのだ。現実世界に質量を持って存在する家具の持ち込みも可能で、ニコラスなんかは筋トレ用品を持ち込んだりしている。そんな魔力で何でもできる空間に、マリアとルークがその膨大な魔力をつぎ込んだらどうなるか。



 アルヴァンスが開けた扉の向こうには、キラキラとシャンデリア輝く洋館の内装があった。感嘆の声をあげながら扉を開け放っていくと、そこにはマリアが想像した通りの空間が広がっていた。

 綺麗な大浴場にドレッシングルーム、執務室にアトリエ、そして大きなキッチンカウンターとダイニング。リビングはフローリングと一段上がって畳が敷かれている。その向こうには縁側があり、一部日本家屋風になっているのがミソだ。


「ふあああああ!!!! なにこれ理想! これぞ私のユートピア!」

「マリア! コタツだ! コタツを出せ!」

「ピアノを出して、と。あとは楽譜を入れる棚が欲しいな……」

「あ、僕本棚持って来てますよ。アル様も入れますか?」

「本当かい? じゃあちょっと借りようかな」

「俺は自分の部屋に行ってくる。本気でぬいぐるみだらけになってたらかなわん」

「あらー……」


 きゃっきゃとはしゃぐセイントベール兄妹と、それぞれ自由に動き出す幼馴染たち。そんななかで耐性のないエレノアだけが呆然とリビングを眺めていた。


「ん? エリー、ぼぅっとしてどうしたの?」

「いえー、ちょっと怒涛の展開についていけてないと言いますかー、自分の常識を再確認していると言いますかー」

「ああそれ、無駄な作業だからやめたほうがいいぞ。こいつら……特にマリアの友人として関わっていくなら今まで培ってきた常識は溝にでも捨てておけ。一生使わん」

「どういう意味よ! 言っとくけどその非常識にアランも入ってるんだからね!?」


 マリアの抗議を鼻で笑い、アランは自室がある二階へと階段を上がっていってしまった。


「まったく……エリー、自分の部屋を見に行きましょ! 魔力が足りなければ私があげるからお部屋カスタムしよう!」

「は、はいー。わかりましたー」


 きゅっとその手を握って、マリアは意気揚々と階段を登った。

 冷静を装っているマリアであるが、その実めちゃくちゃ喜んでいるのである。

 なにせ初めてのお友達だ。幼馴染たちは友人というより家族に近いから、自分の幼少期を知らない友人は前世以来始めてだ。今にも鼻歌を歌いだすレベルのご機嫌っぷりで二人の女子寮を進んでいく。


「むふふー、マイルーム!」


 バーンッとドアを開けて入れば、程よい大きさの部屋に基礎的な家具が置いてあった。

 勉強机とアンティークなランプ、クローゼットにアクセサリースタンド、二段ベッドの下には本棚がありたくさんの本を仕舞えそうだ。そこにぽんぽんと〈ケース〉から荷物を取り出し、手早く部屋を作っていく。

 布団と枕をセットして、枕元にはライトとアロマを置いた。ベッド脇にぬいぐるみや可愛いクッションを放り込み、本棚には薬草学と料理本、目立たない表紙を被せた前世の記憶帳を入れ、お気に入りの小説なんかも並べる。アクセサリースタンドにはネバーランドで作ったネックレスなどをかけて、余ったスペースにはラグとミニテーブルを完備。クローゼットにお気に入りの洋服を突っ込んだら、お城の完成だ。


「できたー! ありがとうエリー、手伝ってくれて! すごく早く終わったわ!」

「いえー、私はできることをしただけですからー」

「次はエリーの部屋だね! 私も頑張って手伝うね!」


 そう言ってマリアは自室を飛び出して隣の部屋のドアノブを回した。


「……あれ?」


 そこにあったのはなんともシンプルな部屋だった。

 ベッドがひとつとテーブルが置いてあるだけの、前世でいうミニマリスト的な部屋に、マリアはこてりと首をかしげた。


「私失敗しちゃったかな? 一応みんなの希望通りの部屋になるように設計図を使ったはずなんだけど……」

「これであってますよー」


 のほほんとした口調のエレノアが、マリアの後ろで微笑みながら言った。


「私ー、今まで妹と二人部屋でしてー、部屋の中身は用意されたまま使っていたのでー、何をどうしたらいいかわからないんですよねー。ベッドなんかは姉たちのいる寮に送られてしまったのでこちらに移動しないといけないんですがー、それ以外に何か必要なものと言われてもぱっと思い浮かばなくてですねー」

「そっかあ……」


 ただシンプルなのが好きと言われれば何もしないつもりだったが、さすがにこれはと思う。


「うーん……エレノアは何か好きなものとかこととかないの? どんな些細なことでもいいから」

「そうですねー……しいていうなら眠ることが好きですかねー」

「よし、じゃあそれをコンセプトに部屋を作ろう」


 マリアは〈ケース〉からハンモック、寝袋、テント、抱き枕などなど、睡眠に必要そうなものを片っ端から取り出した。テントをベッドにくくりつけ、抱き枕を寝かす。ハンモックを組み立てて、そばにサイドチェストを置いて小物が取れるようにした。寝袋は壁の隅に立てかけ、おまけにアイマスクとアロマを置いたら完璧に寝ることが主目的の部屋になった。寝たい。


「こんな感じかなー。どう? 結構勝手にやっちゃったけど、気に入らないとこがあればいじるよ」

「……すごいですー」


 ポカンと口を開けたエレノアが恐る恐るといった様子でハンモックを触った。ラベンダーの香りが部屋を満たしていく。


「こんな部屋、私だけじゃ絶対作れなかったですー……ありがとうございますー」

「えへへ、そんなエリーにこちらをプレゼントです」


 ジャジャーン! と効果音付きで取り出したのは、マリアとお揃いのワンピースだった。


 実はこの学園、制服がないのである。自由な校風を大事にしているためか服装に関する規制などはまったくと言っていいほどない。だがしかし、マリアの中で学校といえば制服なのである。そこでマリアが制作したのはブレザータイプのワンピースとスーツだった。今日幼馴染は全員それを纏い入学式に参加していたのである。ちなみに夏はセーラータイプだし、冬になったらパーカー付きローブも作る予定だ。


 予備として作ってあったワンピースをエレノアに渡すと、しばし驚いたようにそれを見つめた後、突然その瞳からぼたぼたと涙が零れ落ちた。


「えっ、エリー!? 大丈夫!?」

「う、うぅ……」

「ご、ごめんね? 服やだった? 別に無理して着なくていいのよ?」


 そう言うと、エレノアはふるふると首を振った。その間も泣きじゃくるものだから、マリアはどうしたらいいかわからない。ひたすらその背を撫で続ける。

 少し経つと、まだ鼻を啜るエレノアがぎゅうとマリアの服のすそを掴んだ。


「ごめ、なさ……今まで、ひ、人に気にかけてもら、もらったことなんてなかったからっ、嬉しくてぇ……っ!」


 間延びした口調が抜け、普通の子供のようにエレノアが訴えるように言った。

 頭を撫でてやると、わんわんと声が大きくなる。


「よしよし、大丈夫だよ……ここには怖いものはないのよ。私たちがそばにいて、貴女を守ってあげるから」


 きっと今まで姉妹に虐げられ、母親とも引き離され、唯一同じ境遇の異母妹とギリギリのラインで保ってきたのだろう。守るべき妹がいるのならなおさら泣けない環境だったはずだ。姉として孤独に戦ってきたエレノアの涙腺は決壊したようにとめどなく雫を流す。


 しばらく声をかけて頭を撫でていたら、すぅすぅと規則的な寝息が聞こえてきた。

 慣れないことをしたから身体が限界を迎えたらしい。エレノアを抱きかかえてハンモックに乗せる。夕食前に起こそうと決め、部屋に灯る明かりを消した。


 *****


「おかえりマリア。エレノア嬢は大丈夫そうかい?」

「はい、とりあえずは。泣き疲れて眠っちゃったので晩御飯の前には起こすつもりです」

「今日の飯はなんだ? 俺はオムライスが食いたい」

「そうだね……じゃあデミグラスソースオムライスにしようか」

「じゃあ私は久々にアップルパイでも作ろうかなぁ。お義兄様はお風呂の準備とリビングの家具の設置をお願いします。司令塔は執務室で仕事やってる馬鹿ランを引っ張ってきてやらせてください」

「僕はなにしたらいいかな?」

「アル兄様は二人が揉めないよう間に入る仲裁役をお願いしたいです」

「了解、それじゃ夕飯楽しみにしているよ」


 ひらひらと手を振ってお義兄様たちが執務室へと向かうのを見送って、マリアたちは持参のエプロンを取り出した。キッチン用具はある程度揃っているらしく、オーブンも冷蔵庫も大きい。まあその分多く魔力を使うが、マリアたちには無問題だ。


 冷蔵庫にちょっと魔法をかけて、マリアの〈ケース〉に入った食品を取り出せるようにしておく。魔法ってつくづく便利だ。


「まずはサラダだけど……何を使おうか」

「コーンを使ったサラダがいいなー。ああでもポテトサラダも食べたい」

「うーん……アップルパイでリンゴ使うから、リンゴ入れなくて良いならポテトサラダにするけど」

「あっ、それはダメ。ポテトサラダにリンゴは必須」

「だよね」


 もう長い付き合いだ。互いの好みは把握している。

 ルークは苦笑しながらジャガイモの皮を剥いていく。

 マリアも隣でスルスルとリンゴを剥き始めた。


 真新しいカウンターキッチンに、二人分の鼻歌が響いた。

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