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初めての女友達

遅く!なりました!!

「え、えっ!?どうしよ、えっ、待ってどうしようどうすればいい!?」

「とっ、とりあえず風で落下速度を下げるよ! 軽量化もしとくからマリア、受け止められる!?」

「あっ、う、うんっ! 頑張る!」


 アビリティにある怪力を意識して、魔力を高ぶらせる。身体強化を使い筋力を上げた。その間にもぐんぐんと少女は地面に近づいていく。


「ふっ…!」


 和らげたとはいえ、多少の衝撃はある。足をぐっと踏ん張って彼女の身体を支えた。


「……ナイスキャッチ」

「ありがと……」


 気を失っている少女に怪我がないことを確認して、二人してほっと息を吐いた。


 *****


 消毒液の匂いが鼻腔をくすぐるなか、マリアとルークはベッド脇の椅子に腰をかけていた。

 ベッドに横たわるのは先ほど塔から落ちてきた少女。彼女をマリアたちは保健室へと運び、お義兄様たちや先生方への連絡のため不在になる保険医の代わりに留守番をしている。


「それにしても、なんであんなとこから落ちてきたんだろう……」

「あの塔って、一般の生徒は立ち入り禁止じゃなかった?」

「うん……お義兄様たちも入るなって言ってた」


 あの塔はこの学園ができたときに作られた記念碑のようなものだという。

 一応天文台になっているらしいが老朽化が進んでおり、修理の手が入るまでは規制線が張られているそうだ。


「う、ん……」

「あ、起きた」


 小さくうめきながら少女がパチパチと目を瞬かせた。


「大丈夫? あなた、塔から落ちてきたのよ」


 マリアが声をかけると、少女がゆっくりと身を起こした。


「……もしかしてー、セイントベール公爵家のマリア様とー、アラベスタ家のルーク様ですかー?」


 思ったより間延びした声が返ってきて驚いた。眠そうな相貌を携えた少女は薄桃色の三つ編みを揺らしてぺこりと頭を下げた。


「助けてくださってありがとうございますー。今度こそ死ぬかと思ったので、命拾いしました~。あはは」


 ものすごく軽い言い方に、さすがのマリアとルークも若干引いた。そんな二人の様子にも気付かずヘラヘラと笑う。


「あっ、自己紹介がまだでしたねー。私はドルジェット公爵が四女のエレノアですー。以後よろしくお願いしますー」

「え、あ、うん。よろしくね……? と、ところで、なんで塔から落ちてきたの? あそこに私たちがいなかったら本当に死んでたわよ?」

「あー、いつものいじめの延長だったんですけどねー、今回はちょっとやりすぎでしたねー」

「い、いじめ? でもその胸元の花、新入生よね?」

「はいー。まあいじめは身内から受けてるのであまり大事にはしたくないんですー。お二人にお願いをするのは心苦しいのですがー、できれば秘密にしていただければと思いますー」


 申し訳なさそうに眉を歪める彼女に、マリアはむぅ、と唸った。

 お家騒動はプライベートだし、黙っておくことに異論はない。……が、このまま放置するのも気が引ける。

 二人でこくりとうなずいて、エレノアに向き直った。


「わかった、黙ってるよ。だけど」

「二つ、交換条件があるわ。まずそのいじめの理由、教えてくれない?」


 エレノアは一瞬きょとんとして、それからまたにこりと笑った。


「それぐらいで黙っていただけるんでしたら喜んでー」


 もうひとつの交換条件は気にしていないのか、エレノアは話にそぐわぬ笑みで話し始めた。


「実はですねー、うちの家系は身体が弱い上に男児が生まれにくいので嫁をたくさん取るんですよー。それで身体を丈夫にするためにーって娶られたのがエルフである私の母なんですー。ですが正妻様の三番目のお嬢様と同じ歳に生まれてしまったのでー、彼女とそのお姉様たちに嫌がらせされてるんですー。入学するまでは年子の人魚の娘である異母妹となんとか乗り越えてたんですけどねー。やっぱり上のお姉様がいたら集中砲火くらいますねー」

「それで塔から落ちたの? 突き落とされて?」

「えとー、エルフの特性ってご存知ですかー?」

「ああ、十二歳を超えると翅が生えて飛べるという話だね」

「それですそれですー。それで私ハーフなのでまだ生えてなくてー、『死にかけたら出るんじゃない? 出してあげる!』って落とされちゃいましたー。結局気を失ったので出なかったんですけどねー」


 あはは、とエレノアはどこまでも軽く笑った。その笑みからは、なんの感情も汲み取れない。


「……ねぇ、あなた寮は決まってるの?」

「ええ一応ー。まあ異母姉たちがいるところですがねー」

「じゃあ、私たちの寮に入らない?」

「…………はい?」


 ぱちくりと瞳が瞬いた。


「これが二つ目の交換条件。私は同じ年で位の高い女の子を探していたし、あなたも寮で毎日いじめられたくないでしょう」

「あっ、もしハーフとかそういうの気にしてるならなおさらうちがいいよ。寮生は全員人の常識から外れてるからさ。ねえマリア」

「物申したいけど否定できない……ッ! でもそれ自分も人外って言ってるからねルーク……!」

「で、でもですねー、来年入ってくる妹を一人にするわけにはいかないですしー」

「あらもちろん妹さんもよ。私たちの弟たちも来年入ってくるの。女の子は一人だから、入ってくれると嬉しいわ」


 ずっと笑顔だったエレノアの表情に戸惑いが混じる。マリアはその手を握って渾身のぶりっこをする。甘やかされた妹フェイスだ。


「私ね、女の子のお友達がいないのよ。だからうちの寮に入って一緒に学園生活を送りましょうよ」


 お願い、と小首を傾げて上目遣いで見つめる。

 数秒の沈黙の後、エレノアがこくりと首を振った。


 *****


「よっマリア。おまえにもやっと同性の友達ができたんだな! 可愛い妹が進化してくれて兄ちゃんは嬉しいぞ」

「お義兄様……その言い方はものすごく癪に障るんですが……」

「ちょっと目を離せばこれか……」

「まあまあ、彼女が入ってくれればマリアに向く悪意も多少は和らぐだろうから、今回は多めに見てよ」

「はいこれ、みんなの入寮届けだよ。そちらの子は初めましてだね。マリアは僕の妹みたいなものだから、友達の君を歓迎するよ」

「は、はいー……」


 笑顔ではあるが、声から緊張しているのがわかる。そりゃあそうだろう、連れてこられた先には王子が二人。ルークの髪色から私たちを判断したらしいエレノアは、さすがに王子と仲がいいことは知らなかったようだ。


「寮って作り変えられるんですよね?」

「うん、魔力があれば好きにね。外には持ち出せないけど家具なんかも作れるよ。作るかい?」

「先に寮を作っちゃいます。男子寮と女子寮でいいですか? あとなんかリクエストあります?」

「マリア、リビング作ってくれ、コタツを置こう!」

「じゃあそこにグランドピアノいれて欲しいね。あと防音の音楽室。楽器はマリアが作ってくれた簡易〈ケース〉に入れるから大丈夫」

「俺は書斎が欲しい。自分の部屋に仕事を運びたくない」

「キッチンがいいな。マリアのお菓子が食べたいし、ご飯を作ってあげたい」

「ルーク……毎日作るからね!」

「俺も作るぞ!」

「「ニコラスは出入り禁止!」」


 アランとルークの声が重なった。お義兄様はどうあがいてもダークマターを作り出すから、一度それを食べさせられた二人には相当なトラウマらしい。


「私は作業場かな~。エリーは? なにか希望ない?」

「えっとー……私、趣味とかなくてー」


 そう言って、エレノアは気まずげに顔をうつむかせた。そんな彼女の肩をアル兄様がぽんと叩いた。


「いつでもリフォームできるから、なにか欲しくなったときに言えばいいよ。言い出しにくければ来年弟たちが入ってくるときに言ってくれれば作れるから」

「アルヴァンス様……」


 ね? とマリアにウインクしてくるアル兄様に頷くと、お義兄様がばしばしとエレノアの背を叩いた。


「そうだぞ! うちには魔力の化けモンが二人もいるからな! 遠慮なんてしねぇでどんどんねだれ!」

「ちょっとニコラス、レディをそう強く叩いてはだめだよ。マリアじゃないんだからね」

「おっとわりぃ。うちの妹は頑丈すぎて手加減なれてねぇんだ」

「お義兄様もアル兄様もひどすぎません!? もっと女の子扱いしてくださいよ!」


 さっきから発言が失礼すぎる。私だってレディ扱いしてほしい。

 そう地団駄を踏むマリアの手がすっと取られ、つられて顔を上げると柔らかく目を細めたルークがその指先に口付けした。


「大丈夫だよマリア、マリアがか弱い女の子ってことは僕がわかってるから」

「ルーク……!」


 なんて気障なことするんだこの婚約者は。十三歳から出るとは思えないほどの色気に顔がぼっと熱くなる。


「……この怪力捕まえてか弱いはないだろう」

「ちょっとアラン! 聞こえてるわよ!」


 後ろでぽそりと聞こえたそれにマリアが噛み付けば、ルークは苦笑いを浮かべアランはべ、と舌を出した。


「ふんだ。そういうこと言っちゃう悪い子の書斎はめちゃくちゃピンクでぬいぐるみ溢れる超ファンシーな部屋にしてやるんだから!」

「なっ! それはやめろ、洒落にならん!」


 慌てるアランにあっかんべをお返しして、マリアは寮形成のための設計図に魔力を込める。それと同時、ルークが寮を維持する魔石に魔力を注ぎ始めた。


「『我らの箱庭よ、今その姿形を変えよ。すべてを我が思いのままに、コンストラクション』!」


 唱えると、地図と石がちかちかと光った。やがて石はぐにゃりと形を変え、するすると収縮していく。光が収まり、魔石があった場所には六つの鍵が並んでいた。


「それをどの鍵穴でもいいから、差し込んで一回回すんだ。こんな風に、」


 アル兄様はそう言ってかちゃりと扉に鍵を挿して回し、なんの変哲もない扉をゆっくりと開いた。

やっと学園ぽくなってきた…ここまで長かった…


いつもブクマ評価ありがとうございます!感想一つでとても救われます!本当にありがとうございます!!これからもよろしくお願いします!

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