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親方!空から女の子が!

新章スタート!

 セイントベール家の正門前に、少女の咽び泣きが木霊する。


「お兄様ぁぁあ!! お姉様ぁぁあ!!! 行かないでくださいませぇぇぇ!!!」

「姉上……本当に行くんですか? 行ってしまうんですか? 僕たちを置いて? 本気ですか?」

「アラン兄ルー兄リア姉、優秀なんだから一年くらい遅れたっていいじゃん! 俺らと一緒に入学しようよ!」


 おいおいと縋るアリスを抱きとめ、マリアはよしよしとその頭を撫でる。横ではユリウスがギリギリと袖を掴んでるし、周囲をぐるぐるリクとカイが延々と回っている。ねぇそれ目ぇ回らない?


「そんなことできるわけないだろうが。駄々をこねるな」

「アリスー、大丈夫だよー。一年なんてすぐだからね〜」

「本気も何もユリウス、そういう決まりなんだから……御者さんが困ってるから離して? ね?」


 このカオス、一言で説明するなら今日は、


「「「入学式遅れるから!!」」」


 乙女ゲーム『フロンティアスピリット』の舞台、メルトリア魔法学園の入学式の日だ。


 *****


 ガタゴト揺れる馬車の中で、ルークに治癒魔法をかけながらマリアはため息をついた。


 メルトリア魔法学園は、十三歳から十八歳までの六年間通う全寮制の学校だ。日本で言う中高一貫校と考えればいい。と言っても平民が通うのは十六からなので、中学の間は貴族だけだ。マリアたちは現在十三歳。つまり、平民であるヒロインの入学まであと三年、恐怖である。



 ……え? 十歳で発動するアルマゲドン計画はどうしたかって? そんなのお父様たちにバレて叩き潰されたよ王家はとても優秀でした!!


 言い訳させてもらえば最初は私たちで解決しようとしてたんだよ。私やルークが動いたら怪しまれるからみんなに協力してもらって何年も情報集めまくったよ! でもね、それ書類に纏めるでしょ?提出するでしょ?三日後には全員お縄だったよ!! なんかもっとバーン! でドーン! な感じのバトル漫画やるかと思ったら粛々と粛清されてましたお陰で貴族の六分の一が空席ですこっわ!!!


 そんなテンションで語りたくなるほど、あの時の拍子抜けっぷりは凄かった。ちょっと協力を頼むつもりだったのに、数日後お父様から書類の束を渡されて、「何ですかこれ?」「アルマゲドン計画の加担者とその処罰リストだよ」『……はい!?』って叫んだあと、みんなして数日使い物にならなかった。あのアランやアル兄様でさえポカンとしていた。


 もちろん抗議しに行ったけど全く取り合ってもらえずむしろ、「こんな危ないこといったい何年隠してたのかな? こと細かく確認してもいいんだよ?」とそれはそれはいい笑顔で返されたのでそれ以上の追求を諦めた。陛下の方もしかりである。


 そんなこんなで、せっかく嫌味な貴族達をボコれると思っていた計画は頓挫し、ストレスが溜まりまくったマリアたちはめちゃくちゃ依頼をクリアした。そりゃもう毎日毎日ギルドに通って割に合わない誰もしない依頼を大量に受けてきっちりばっちりこなした。ついでに適正料金にまで叩き上げ、依頼主からちゃんと全額貰っている。


「マリア、ミントの飴あるか?」

「あるけど……ってアラン、馬車の中で下向いてたら気持ち悪くなっちゃうわよ」

「仕方ないだろう。俺はルークみたいに完全記憶能力を持ってないんだから、ギリギリまで確認しないと不安なんだ」


 そう言ってアランは手元の紙に視線を落とした。

 アランは学力テストで首位だったため、新入生代表として挨拶をしなくてはならない。

 メルトリア魔法学園には入試はないが、クラス分けテストはある。学力、魔法、武闘の三科目のうち自分が一番結果を出せるという教科を選ぶのだ。ちなみにマリアは武闘、ルークは魔法の試験を受け、それぞれトップを取っている。上位貴族のメンツは保たれた。


「もう、そんなこと言ったって人並み以上の記憶力はあるくせに……」


 渋々飴を渡すと、アランは口に放り込んだ瞬間ガリッと噛んだ。そのまま噛み砕いていくものだから、マリアは次いで甘い飴を取り出して渡しておく。


「それにしてもユリウスたち、大丈夫かしら……」

「平気だろう。一人で取り残されるわけでもないしな」

「でも昨日から今日にかけてのグズりようすごかったでしょ? いや、一週間前くらいから落ち込んでたけど……」


 なぜ正門前であんな混沌が起こってたかと言えば、その前日に全員がうちに泊まったからだ。

 昨年、お義兄様たちが入学したとき、来年には私たちが入学してしまうことに気づいた三人は陛下に進言したらしい。曰く、『寮生活は不安だから、兄姉と共に入学し一年早く慣れたい』だそうだ。当然即日却下され、それでも一年粘ったが先週ついに一刀両断。それが、割とどんな願いもチートな兄姉が叶えてくれていた末っ子たちには堪えたらしい。


 昨日泊まったのも嘆く末っ子たちのご機嫌取りのためにみんなで雑魚寝するためだ。アル兄様とお義兄様が演奏し、マリアが歌い、宥め透かしてなんとか寝かせたはいいものの、出発直前に駄々をこねにこねまくった。一緒に行くはずだったお兄様二人は痺れを切らして先に出発してしまい、もう一人御者を用意してもらって遅ればせながら出発したのである。最後にはリンに蔦で縛ってもらったよ……長期休みの度に繰り返すのかなこれ……


 馬車の窓を流れる風景を眺めながら、マリアはこれから始まる学校生活に思いを馳せた。


 *****


 コツコツと靴を鳴らし、アランが壇上に上がると同時にあちこちから微かな悲鳴が上がる。そりゃターコイズブルーの瞳と目と同色の派手な髪色のイケメン、しかも王子様が現れたら悲鳴もあげるわな。


『──色とりどりの花が咲き乱れるこの春の陽気のなか、今日という日を迎えられたことを大変嬉しく思います』


 あっ、女の子が数人ふらりとした。うんうんわかるよー、声変わり前の声でもイケボなのよね。乙女ゲーの攻略対象は中身はどうあれ外見と声だけは完璧に作られているのだ。いやルークの方がかっこいいし声も可愛いイケボなんだけど。何言ってんだ私。


 隣に座るルークをちらりと見る。成長し、少し大人びた雰囲気を纏う我が愛しの婚約者様は、壇上をまっすぐと見据えて背筋をピンと伸ばしている。膝の上できゅっと握られた手を握りしめたい。やらないけど。指を絡めて驚いて照れた顔を見たい。我慢するけど!!


(どうしたの?)


 突然声が聞こえてぴゃっと飛び上がりかけた。ルークの伝達魔法だ。


(ううん、やっぱりアランは人気だなーって思って)

(そうだね。でもアル様もニコラスも結構人気みたいだよ。ファンクラブまであるみたい)

(えっ、そんなのあるの!?)


 驚いたものの、二人のステータスを思い浮かべて納得する。

 お義兄様は剣聖の職持ちだし養子とはいえ公爵家の長男だし、おまけにあの顔で兄貴肌だ。なるほど男からも女からも慕われる性格である。

 アル兄様も第一王子だし天才音楽家って言われてるし老若男女問わず優しく親切だ。柔らかく癒される雰囲気に安心感を覚える人も少なくないだろう。


(普段の様子見たら夢を壊しちゃうわね……)

(うーん……否定出来ない)


 私たちの知るお義兄様はやんちゃでテンションが高く察しは悪いが割とツッコミに回る不憫キャラであり、少なくともここで思われているであろう、いつも男らしく強く頼れる兄貴!という感じではない。

 アル兄様も同じく、おっとりゆるゆるで天然ドジっ子な放っておけないタイプのお兄ちゃんだ。本質的にはちゃんと兄なのだが、普段は年中組がしっかりしすぎる環境にいるためかどこか抜けている。ここでは優しく穏やかなまさに王子様という人格で通っているのだろうか。


『──以上をもって、新入生代表の挨拶とさせていただきます』


 マイク越しの声が響き、アランが礼をして壇上から降りる。このあとは寮分けだ。まあ、マリアたちには関係ないのだが。


 この学園の寮システムは特殊だ。

 一学期、二学期、三学期と行われる期初めテストで先ほどの学力、魔法、武闘のどれかで一位を取った生徒には一人一本鍵が与えられる。二人以上の寮生が集まれば、その鍵で寮を作ることができる。それは後輩に受け継ぐこともできるし、気に入ったなら自分たちの秘密基地として学園と乖離し卒業後も使うことができる。一位が寮を作る気がなければ二位に、三位にと下賜されていく。寮は魔石で成り立っており、そこに込められる魔力の量で寮の大きさが変わってくる。

 寮に入るためには入りたい寮に届出を出さねばならない。それが在校寮生全員の許可を得て受理されれば晴れて入寮となる。ツテがなければ学校の用意した寮に入るが、入寮届けさえ出せばいつでも転寮ができるシステムだ。

 マリアたちは去年アルヴァンスが獲得した寮に入ることが決まっている。


「でもお義兄様たちのファンクラブとさっきのアランへの反応を考えると、ちょっと不安になってきちゃったなぁ」


 てくてくと学園の裏庭を歩きながら、マリアはそんなことを呟いた。今は寮決めの時間で各寮が勧誘を行う中、関係ないマリアたちは学園内を見学していた。本当はお義兄様たちに案内してほしかったんだけど、新入生から逃げ回るために隠れてないといけないらしい。モテる人間は大変だ。

 マリアの言葉にルークが苦笑いを浮かべる。アランはまだ代表としての用事があるらしく、合流できていない。


「マリアにそんな気がなくても、周りはどう勘繰るかわからないもんね……」

「もう一人くらい女の子入れたほうがいいかな……でも男に囲まれて平気で、王家と並んでも遜色ない家柄で、下手にミーハーで関係壊すほど寮の誰かに恋をしない同じ歳の女の子って、そんな都合よく……」


 ふっ、と頭上に影が射した。


「えっ?」


 空高くそびえる時計塔から、何かが舞う。


「お、お、女の子~~~~~!?」


 重力に従って抵抗なく落ちてくる人影は、紛れもなく一人の少女だった。

いつもブクマ評価ありがとうございます!

最近誤字多すぎて…( ´ ཫ ` )皆様のご指摘、とても助かります!

来週はテスト期間なのでお休みです。

また再来週ー!

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