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美少女には銃火器を、セーラー服には機関銃を!

 

「この力を使いこなしたいんですの」


 事件から二週間、アリスを含めた八人はマリアのアトリエでお茶会を開いていた。なお、今日のお菓子はアップルパイである。


「この力って、その目のこと?」

「そうですわ。わたくしは王家より国の辺境を任されたメグアリク家の長女……遠くの敵陣を目の前のように見る力があるのに使わない手はないですわ!」


 そう言ってアリスはテーブルの上に身を乗り出した。アリスの今日の服装はマリアがプレゼントした『ネバーランド』の新作、不思議の国のアリス風ワンピース。胸元と頭には黒いサテンのリボンが結ばれており、髪はツインテールである。以前マリアが結んでから固定された髪型だ。


「えーと、それよりまずこの二週間の話を聞かせてくれない?  ほら、私たちは毎日のように会ってるけど、アリスは二週間ぶりでしょ?」


 実はアリス、昨日までほぼ二週間、軟禁状態だったのだ。


 あの日あのあと、アリスの病室に飛び込んできたのは髪を振り乱したメグアリク辺境伯夫婦だった。彼らはアリスの無事を泣いて喜び、治した医者にぺこぺこと頭を下げた。この貴族社会に珍しい平身低頭の夫婦に安心したのもつかの間、アリスを辺境伯領に連れ帰ると言い出した。経過を見たいという医者を強行突破し、お父様と陛下がなんとかなだめすかして王都の家に滞在させることで落ち着いたものの、今度はアリスを外に出さないという手段に出た。

 いや、子供が誘拐されたのだから外に出したくないという心理は分かるのだが、マリアたちにとっては暴挙に等しかった。


「ルークが何を言っても聞く耳を持たなかったご両親をどう説得したんだい?  僕ら王子でもダメだったのに」

「……せて、」

「え?」

「……会わせてもらえないなら飛び降りると言いましたわ」

「大胆にもほどがあんだろ!?」


 お兄様がアップルパイを落としかけた。


「そもそもわたくし、部屋にこもって読書や刺繍とか苦手なんですわ! ちょっと体が弱かっただけで外は大好きですのに、兄が家に閉じ込めたんですわ!  家にこもるだけでは日光も浴びれず、さらに体調が悪くなると言いますのに……」


 今にも舌打ちするような表情でアリスが大きなため息を吐いた。それからパッと顔を上げ、憧憬の目でマリアを見つめる。


「でもお姉様の治療で体調かすこぶるいいのですわ。お医者様も驚くほどの健康体と仰ってましたし……ですからわたくし、もうドールハウスのお人形はやめましたの」


 にっと笑う彼女を見て、これが本当のアリスだと思った。今まで会話の端々にあったが、この子は結構勝気なタイプだ。兄の存在や自分を心配する両親に無意識下で抑制されていたのが、今回の事件で盛大に吹っ切れたらしい。


「とは言っても、独り立ちできる年齢でもありませんし、わたくしにも辺境伯家の人間という誇りはあります。ですからこの力を使いこなして兄を見返してやるのですわ!」

「よく言ったわアリス!  よーしっ、私が鍛える!  一緒にお兄さんを張り倒しましょうね!」

「はいお姉様!  わたくし、血反吐を吐くまで頑張りますわ!」

「マリア、俺もやるぞ!  あの氷をぶっ壊せるくらい強くなってやるよ!」

「リア姉俺も!  俺もやる!」


 地味に悔しかったらしいニコラスと、すぴすぴと眠る二匹のフェンリルを抱き抱えたアレクも加わり、フェンリルと一緒に眠っていたフェニックスもマリアの頭上でピイピイと泣く。穏やかなお茶会はあっという間に喧騒へと変わった。


「……アリスのお兄さんって、隣国に留学するくらい優秀じゃありませんでしたか」

「うーん、学園でもトップクラスの成績だったはずなんだけどねぇ」

「……そういえば、叔父さんって隣国で『頭狩り』って呼ばれるくらい、敵陣の将軍の首を取りまくって辺境伯までのし上がった人なんだよね……」

「結局、脳筋はどこまで行っても脳筋てことだな」


 はは、と乾いた笑いを浮かべ、ルークたちはカップの紅茶を飲み干した。




「それじゃあまずはこれ!」


 設置したのは、段々になった細長い木箱。その上に乗せる錬金した紙コップ。そして木で作った銃と輪ゴム。

 小学生の時やった人もいるだろう、なんちゃって射撃である。紙コップやダンボールで作った的を用意して、それを割り箸で作った銃に輪ゴムをセットして打ち込むあれだ。昔は兄弟と白熱したものである。


「最初は遊びがてら撃つことに慣れましょう」

「あの、お姉様……質問しても?」

「ん、なあに? 扱い方わかんない?」

「わたくし、簡単な魔法もうまく使えないんですの。ですからこれをする前に基礎くらいは扱えるようになった方が……」

「ああ、それね。それ、アリスの勘違いなんだよー」

「えっ?」

「ちょっとこれ持って。なんの属性でもいいから魔力を流すようにして引き金を引いて」


 アリスに渡したのは錬金した一丁の拳銃。

 前世の父は武器のコレクターだった。戦争時の現物だけでなく、モデルガンや模造刀など溢れるほどの武器を昔からいじっていたため、構造なんかはばっちりである。ちなみにアランの刀もこの記憶を基に作ったものだ。


 セーフティーを外してあるそれを両手に持たせ、魔力を込めさせる。


 パァンッ


「……ほら、できた」


 へなへなと座り込んだアリスをアレクに任せ、マリアはアリスが打ち抜いた紙コップを持ってくる。込めた魔力は水属性だったのか、穴のふちが微かに湿っていた。


「やっぱり筋がいいよ。アリスは体幹がしっかりしてるから的を外しにくいみたい。これなら訓練を重ねれば百発百中も夢じゃないよ」

「わ、わたくし、魔力あったんですの……?」

「いやだから勘違いなんだってば。アリスは魔道具を媒介しないと魔法が使えない体質みたいなの。だからこういうのを通しちゃえば使えるのよ」


 くるくると銃を回しながら言うと、王子二人がそっと距離を取った。

 誤射なんかしないぞ失礼な。


「でもよ、それなら杖とかでもいいんじゃねぇの? 何でじゅう? とかいう魔道具使うんだ?」


 野生の勘なのかなんなのか、お義兄様がそんなことを言った。勘のいいお義兄様は嫌いです。

 マリアはコホンと咳払いをする。


「それは……」

「それは?」


 すぅと息をひとつ吸った。


「私の趣味です!」


 ハァ? という気の抜けた声が幾重にも重なって響くのと同時、ピィ! という鳴き声が聞こえ、ついで荒い息と地面を蹴る音と羽音が聞こえた。

 振り向くと、赤い鳥がパタパタとマリアの肩に止まる。


「クコ、起きたの? あ、銃声で起こしちゃったのか」


 クコと呼ばれた鳥──フェニックスは返事をするようにもう一度鳴く。アリスを立たせたアレクのそばにはブンブンと尻尾を振り回す二匹の狼が周回していた。


「リクとカイも……うーん、次からは消音魔法を組み込むべきかしら……音が出ていいことないしなぁ」


 銃をいじくりながら、マリアは唸る。

 リクとカイは、アレクが召喚したフェンリルから預けられた生まれたてのフェンリルだ。契約には名づけが必要なのだが、あまりにもアレクにネーミングセンスがなさ過ぎたのでそのミントグリーンとマリンブルーからマリアが提案した。最初はわくわくとしていた二匹の耳と尻尾が、名前の候補を聞くたびに垂れ下がっていくのを見ていられなかったのである。

 そのときマリアが契約したのが、この肩に乗るフェニックスである。先にリクとカイが契約するのを見てたからか、なんかもう契約して当然、みたいな顔してた。いやまあしましたけども。

 ちなみにクコという名前は枸杞の実から取った。


「えーっとマリア、趣味って何だ?」

「えっ、お義兄様、女の子に銃火器って萌えません? 美少女が大きくてごつい銃器振り回してたらめちゃくちゃときめきませんか?」

「おいルーク、何を言ってるんだこいつは」

「僕にもわかんないことくらいあるよアラン」

「あはは、楽しそうで何よりだねぇ」


 セーラー服プラス機関銃は日本人の憧れだと思うのだが、ここは異世界。同意はのちのちもらえばいいやとそれ以上の説明は放棄する。


「それで皆に相談なんですけど、私とルーク、お義兄様以外の五人が強くなり次第冒険者をやりたいと思うんですよ」

「ぼ、冒険者?」


 アリスが戸惑いの声をあげる。今まで普通のお嬢様だったのに突然冒険者になると言われたら、どんな肝の据わった令嬢でも倒れるだろう。


「一応お面をして顔は隠すし、装備は私が作るから身バレすることはないと思うよ。そもそもそれが目的でモンスターハウスに篭ったりしてたんだし」

「姉上、僕とアル様は攻撃職じゃないのですが……」

「あっ、ユリウスはね、魔道具いっぱい練習するよ! アリスのやつ作る過程で色々増えたから」

「色々……」


 そこはかとないどころかとんでもなく危険な臭いがする『色々』である。逃げ出したくなるユリウスの頭を咎めるようにクコがつついた。今日は癒し要員のシラタマはお休みだ。ユリウス救出で神経を使ったらしく、一週間ほどユリウスにべったりとくっついて回復し、今はほったらかしにしてしまっていた薬草園の世話をしている。シラタマの不在時は普段ふらふらしているリンが世話をしていたみたいだけど。


「それでアル兄様は精神作用のある魔法を使うとき、私たちに影響がないよう範囲指定を習得してほしいんです。その、出てくるのは魔物だけとは限らないので……」

「ああ……うん、わかったよ。そういうときに対応する術を考えておくね」


 暗に含めた意味に気づいてくれたらしく、アル兄様はにっこりと笑った。


「ありがとうございます。で、アランはひたすらお義兄様との打ち合いね!」

「俺だけ雑じゃないか!?」

「それでー、ルークにはアリスに魔力コントロールを教えてほしいの。下手に力込めちゃうとすぐ魔力枯渇になっちゃうから」

「それはいいけど、僕これの扱い方わからないよ?」


 ルークがマリアの手元を指差す。


「うん、だから最初はみんなで遊びながら覚えるわ。これは仕込み武器として丁度いいからいざというとき使えるかもしれないし、一番扱いやすい拳銃の扱い方は教えとこうと思うの」

「リア姉、俺は?」

「アレクは私と、従魔とのコンビネーションを特訓しましょう。ただ私もこれはわかんないから、ルークに賢者の書で調べてもらいながらやる。近くでやれば私もアリスに教えられるしね」


 ポカンとするアリスの頭をよしよしと撫で、マリアは新しい紙コップを出しながら、


「ただ今より、第一回射的大会を始めます!」


 と高らかに宣言した。

いつもブクマ、評価ありがとうございます!

今回でこの章は終わりです!次章は来週から始まります!

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