妹、GETだぜ!
「会いたくない?」
ユリウス、アレクの病室で、マリアは素っ頓狂な声を出した。同じような顔をする子供たちに医者が困ったように首をかしげる。
「はい……メグアリク様は面会謝絶を希望しております。あまりの勢いに陛下やオーウェン様もどうにもならず……」
早朝、朝食を取っていたマリアたちに届いたのは、三人が目覚めたという知らせだった。すぐに案内された病室に向かったものの、アリスの姿はなかった。てっきり女の子だから病室を分けたのかと思ったのだが……
「アリスの怪我はマリアが治したはずなのですが、どうしてです?」
「それが、わからないのです。身体の方は我々の検査でもなんの異常もありませんでした。ですが肝心の目は……目覚めてすぐ悲鳴を上げて、そのあとはずっと目をお閉じになったままで」
辺境伯の娘に無体を強いるわけにも行かず、アリスの両親が到着しない今なす術はないのだと医者は言う。
何をそんなに拒むことがあるのかと、治癒したマリアもユリウスも唸る。確かに眼球は見ないことにはわからないが、それ以外は確かに治したのだ。
「うーん……」
これは困った。マリアの前世の兄弟は病気など一切しない健康体であったため、こういう時の慰め方を知らない。
「とりあえず、扉の前まで行くのはどうだ?俺たちはダメでも従兄のルークなら平気かもしれないだろう」
「そうね。あ、二人は留守番よ? お父様たちに誘拐されてからのことを話して待ってて」
悲痛な顔をするベッドの住人を置いてけぼりに、マリアたちはゾロゾロとアリスの病室へと向かう。
「アリス、起きてる?」
まずはルークがトントンと扉を叩き、中へと声をかける。声は返ってこない。
「アリス? ……入っても、いい?」
「っ来ないでくださいまし!」
今度は間髪入れずに返事が返ってきた。元気そうな声音に安堵しながらも、ルークはなお言葉を続ける。
「でもアリス、君の目がどうなっているかを見ないと、治療もできないんだ。どこか痛いところとかは──」
「痛くはありませんわ! ……お願い、ですわお兄様……入ってこないでくださいませ。こんなわたくし、見せたくないのですわ……! ……入ってきたら、お兄様を嫌いになりますわ……」
震えるような声にルークがぴしりと固まる。その肩をお義兄様とアル兄様が叩いた。お兄ちゃんは嫌われたくないらしい。
「おい、どうすんだ?これ無理じゃね?」
「うーん……あっ、そうだ」
「なにか思いついたのか?」
「一旦みんな連れて帰って。私がアリスと話すわ」
嫌いになるなら、最初から嫌われている私が行けばいいだけだ。
*****
「アリスー! 入るよー!」
「えっ!?」
スッパァン!と扉を開け放ち、〈ケース〉にしまっておいた作り置きのお粥を持ってアリスの病室へと入った。当のアリスはぽかんと口を開けて呆然としている。お嬢様だな、私ならそこで枕でも投げてるぞ。
「お粥持ってきたの。お腹空いてるでしょ?食べられる?」
「なっなっ、なんで入ってきてるんですの!? わたくし入るなと言ったはずですわ! あなたの脳みそは空っぽなんですの!?」
「ギュウギュウに詰まってるわよ。筋肉が」
「脳筋じゃないですの!!」
的確なツッコミにケラケラと笑いながら、マリアはサイドチェストにお粥を置いた。大きな声を上げた反動か、咳き込むアリスに水を出してやる。
「ほら、お水くらい飲みなさい。一日くらい何も飲んでないんだから、水分取らなくちゃ死んじゃうわ」
大量生産しておいたストローを挿して差し出すと、アリスはゆっくりと水を飲み始めた。余程喉が渇いていたのだろう、あっという間にコップはカラになる。
「お粥、食べられそう? 飲み物は何がいい?」
「……レモネード、が、いいですわ……」
前に飲ませたのが気に入っていたらしい。
お粥にレモネードかぁ、と思いながらも、希望だからと温かいものを渡せば、「温かい……」とコップを両手で握った。
「それで、なんで入られたくなかったの?」
ちびちびとレモネードを飲むアリスに問いかけると、ずっと俯いていた顔が更に伏せられた。
マリアは病室に入ってから、一度もその瞳を見ていない。
「……め、が」
辛抱強く言葉を待っていると、ぽそりとアリスが呟いた。小さな声に耳を傾ける。
「目が、変なんですわ」
「変って? 目が見えないの?」
「目は、見えるのですわ……見えすぎるから、変なのですわ」
見えすぎる。
見えすぎるとはどういうことなのか。疑問を口に出来ずにいると、アリスが躊躇いがちにマリアの袖口を引いた。
「あ、の……驚いたり、は……」
「しないよ! するわけないでしょう! だってアリス、私たちのステータス知ってるでしょ? 今更何を驚くことがあるのよ」
だから見せて。と言うと、アリスはゆっくりとその瞳を開いた。
「わあ……」
アリスの濃紺の瞳には、白い線で複雑な魔法陣が描かれていた。アリスが瞬きをする度に、宵闇に星が散りばめられたように魔法陣がキラキラと輝く。
「見た目だけじゃないのですわ。窓の外を見てみたら、すごく遠くまで見えてしまって……お兄様たちが来た時なんか、扉の先に誰がどこにいるのかわかったのですわ」
なるほど、ようは千里眼のようなものらしい。
「こんな目、お父様たちに見せられませんわ……お兄様が見たら、なんて言われるか……!」
ぎゅう、と自分の体を抱きしめるアリスが震えた声で言った。彼女の中で兄とは恐怖の対象なのだろうか。悲しいような怯えるような雰囲気を纏うアリスを正面から抱きしめる。
「アリス……その力が怖い?」
マリアの肩口に顔を埋めたまま、アリスがこくりと頷いた。
今まで普通に見えていた景色が、突然全く違うものになった。それどころか何の術式を施されたのかもわからないのだ。当然怖いし、怯える。
「じゃあ、私たちと一緒にいよう」
アリスを剥がし、その目をじっと見ながら言った。
「私たちはみんな、普通の子達といたら仲間外れにされるタイプなのよ」
「仲間外れ……」
「そうよ! だって、私、特殊魔法も特殊スキルもこれでもかってほど持ってるし、ルークやお義兄様は数百年に一度の職業だし、アランは職業がなかったから私たちでこの世界初の職をあげたし、アル兄様は普通の奏楽師ができない演奏による精神操作ができるし、アレクに至っては生まれつき心が読めちゃうのよ?」
言葉にすると改めて規格外だ。それに加えて王族公爵侯爵と上から数えた方が早い貴族位に、子供らしからぬ思考回路。こんなのが普通の子供とつるめるかと言われたら、答えはNOである。
「どう? こーんな私たちと一緒にいたら、貴方の瞳のことなんて気にされないわ」
ねぇみんな?
その言葉に、病室のドアが開け放たれた。
「「アリス!」」
部屋に飛び込んできた皆にアリスが目を見開いた。アレクがマリアを押しのけてアリスを抱きしめ、ユリウスはベッドサイドへと駆け寄る。
「よかったです……! 治療しても体が冷えていくばかりで、本当に死んでしまうかと思ったんですよ!」
「そうだよ! なんなの! 目に魔法陣が入ったくらい! キラキラしてるの綺麗だし可愛いだろ! そんくらいで面会謝絶とかやめろよ! どれだけ酷い状態なのかって心配したじゃん!」
ぎゃあぎゃあと叫ぶアレクはちょっと泣いていた。抱きしめられたアリスは目を白黒させて、されるがままになっている。そんな様子を見かねたお義兄様が手を出そうとしたとき、マリアの横の影が動いた。
「アレク、ちょっと離れようか?」
ルークがアレクの首根っこを掴んで、アリスからベリッと引き離した。軽量化を使っているらしい、アレクが宙ぶらりんになる。
「なにすんのさルー兄!」
「僕はアリスの従兄だからね、変な虫が付くのを阻止する義務があるんだよ」
「王族捕まえて変な虫はないだろおまえ……」
アランの呆れた視線を躱し、ルークがぽいっとアレクを投げた。
「アリス、君が無事でよかった」
「お兄様……」
「もうすぐ叔父さんと叔母さんが到着するよ。元気な姿を見せてあげて」
「ぅ……でも、こんな目じゃ……」
「リア姉……その瞳、俺と同じようにできないの?」
「へ?」
「俺のときみたいにこのブレスレットでさ」
アレクが指さすのは自分の腕にある封印の鎖だ。
その手があったかと手を叩く。
「アリス、ちょっとこれ腕に通してみて」
「なんですの……」
疲れた様子のアリスの腕に鎖を通すと、効果はすぐに現れた。瞳に刻まれた魔法陣がアメジストに溶けていく。
「あ、視界、が……」
パチパチと瞼が上下する。煌めいていた魔法陣は形を潜め、アリスの瞳には元のハイライトが宿っていた。
「やった! アリス見て! ちゃんと君の目だよ!」
アレクかサイドチェストにある手鏡を渡すと、アリスは恐る恐る覗き込むだ。
「戻ってる……遠くまで見えないし、透視もできないですわ……!」
心底ほっとしたようにアリスが呟いた。
「まだ在庫はあるから、あとで可愛く加工したのをあげるね」
「あ、ありがとうございます……お姉様」
「うぐっ」
「マリア!?」
ふわりと柔らかくはにかんだアリスに、マリアは心臓を抑えて倒れ込んだ。
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