そうして事件は収束へ
本日二話目です!お間違えのないよう〜!
「と、鳥?」
ぽかんとした顔でアレクが言った。
マリアが爆発させた扉から入ってきたのは深紅の鳥だった。鳥はピィピィと鳴いてマリアの方へと止まる。
「え、え? あなたさっきの……」
どうやら心当たりがあるらしい。姉に擦り寄る赤い鳥にユリウスは懐疑の視線を向けた。
「なんか、どこかで……」
じぃ、と見つめていると、鳥がふっとアリスの頭上へと降り立つ。
「っ、アリスに触るな!」
そんなアレクの声を聞こえてないかのようにスルーし、鳥はアリスの目元を嘴でつついた。途端、アリスの目元からボッと赤い炎が上がった。
「はっ!?」
「ちょっ、嘘!?」
突然のことに慌てたマリアとルークがたっぷりの水を出しているのに、火が消える気配はない。
しかし、アリスの治癒を続けたまま呆然とその光景を見ていたユリウスは微かな違和感を感じた。
「……体温が、戻ってきてる?」
いくら魔力を流しても温まらなかった、氷のように冷たいアリスの体が段々と、だが確実に温かくなってきている。咄嗟に集中して魔力を流すと今まで手応えのなかった魔法が効いているような気がする。浅かった呼吸がゆっくりと深くなっていく。
アリスの異変に気づいたマリアも治癒魔法をかけ直し始めた。
「ぅ……」
微かに声を上げてアリスが身じろぐ。
「アリス、アリス!」
ルークがアリスの頭を撫でる。うっすらと目を開いたアリスは虚空を見つめながら口を開いた。
「お兄様……?」
「うん、アリス。大丈夫? 痛いところは?」
「それより、二人は無事ですの……?」
「大丈夫、二人とも怪我はないよ」
「よかった……」
そう微笑んで、アリスはすぅと眠りの世界へ入ってしまった。場には安堵の息が漏れる。安心感で倒れそうになったユリウスをニコラスが支えた。
「……おい、おい。アリスが生きていることを確認したところで、誰も気にしないことをつっこんでいいか」
「何よアラン。ユリウスを休ませたいんだから静かにして」
「いや、静かにして、じゃないだろう! おまえたちこれを見てもなんとも思わないのか!?」
珍しく声を上げたアランが指したのは、アレクの隣に佇む白く大きな獣──フェンリルだ。フェンリルはさして興味もないようでくぁ、と一つあくびをこぼす。
「神話に出てくる神獣だぞ! なぜおまえたちはそう平然といないように扱ってるんだ!」
「まあまあ落ち着きなよアラン〜」
「兄さんはもう少し緊張感を持ってくれ! そもそもこの血溜まりは何なんだ! アレク、ユリウス! 説明しろ!」
仁王立ちをしたアランに睨まれて、、ユリウスはふいと目を逸らした。
「アレクがフェンリルを召喚して先程までいた敵を一掃しました。僕は何もしていません」
「あっ! ずるいぞユリウス! アラン兄、俺は、えと、そう! ルー兄に習った召喚式を描いて習った通りやっただけだよ!」
ユリウスもアレクも末っ子、甘やかされるのに慣れた二人は常日頃師のように慕うルークに全部丸投げた。
「ルーク! 弟に何を教えるんだ!」
「えっ、いやあれは、賢者の書がアレクに教えるべきだって」
「ああもうおまえらちょっと落ち着けって!」
ルークに詰め寄るアランをニコラスがべリッと引き剥がした。こういうとき、肉体派の兄は頼りになるなとユリウスは思う。
「で、そこにいる……フェンリル? ってのは何なんだ? アレクの従魔になんのか?」
【なるわけなかろう。我は昔も今もあの愚か者と契約している。こんな小僧につく気は無い】
「そうか。じゃあどうすんだ? 住処に戻るなら戻ってくれるとこいつが落ち着くんだけどな」
【言われずとも我は戻る。奴との約束は果たしたからな】
「ま、待って!」
ニコラスと会話していたフェンリルを、アレクが咄嗟に引き止めた。
「どうしたら、契約できる!? どうしたら君みたいに強い者を従えられる!?」
【……強い者は強い者にしか従わない。わかるだろう、それは】
フェンリルの視線がマリアへと移る。姉の頭の上には先程飛んできた赤い鳥がいた。鳥は自らの体をつついて毛づくろいをしている。
【そこの者は、フェニックスだ】
「「「「「「はあっ!?」」」」」」
アルヴァンス以外の子供の声が揃った。
マリアの頭上の鳥だけが不思議そうに首を傾げる。
【長い間眠らされていたようだが、そこの娘が封印を解いたのだろう。ずいぶんと懐いている】
フェンリルがガゥ、と鳴くと、呼応するようにフェニックスもピィと鳴いた。
【そこの娘はこの中で一等強いだろう。強い者は弱い者に従わない。今のお前では誰も従わない】
「っ、それでも俺は強くなりたい。みんなみたいな強さはないけど、大切な人を守れる強さが欲しいんだ!」
それは切実な叫びだった。赤紫の瞳が燃えるように煌めき、アレクとフェンリルの視線が交わる。
ふとフェンリルが一歩、足を前に踏み出した。
「えっ?」
フェンリルの踏みしめた場所を中心に大きな魔法陣が現れた。それはすぐそばにいたアレクを巻き込みきらきらと光を増す。
その光が解けた瞬間、アレクとフェンリルの真ん中に二匹の小さいフェンリルが現れた。
【こやつらは、我の分け御魂だ。力のある神獣は時に魔力を切り離す。それは紛れもなくフェンリルという種族だが、まだ弱い】
また一歩、フェンリルが足を踏み出す。
【よいか、我が契約者の末裔よ。おまえはまだ弱い。弱い者に強い者は従わない。だが……】
ふわりと浮かんだ二匹のフェンリルが、アレクの元へと吸い寄せられる。
【共に強くなることはできる】
アレクは眠る二匹をゆっくりと抱きしめた。
【最初から強いものなどほんのひと握りだ。おまえもそやつらもそれではない。与えられていないのなら自分で強くなるしかないのだ】
そこまで言って、フェンリルは淡く輝きだした。
【あとはおまえの努力次第だ……アレクセイ】
初めてアレクの名前を呼び、フェンリルは光の粒子に包まれて消えた。
*****
「殿下! ご無事ですか!!」
全員我に帰れず立ち尽くしていると、騎士団の団員たちがドタドタとなだれ込んできた。それにハッとなったのはアル兄様とアランだ。
「そこの血溜まりとすみに追いやられた肉塊が犯人だ。事情は後で説明するからひとまず回収してくれ」
「向こうの部屋に共犯の男達を眠らせて閉じ込めてるから、縛って持って帰ってくれるかい?」
「それからメグアリク辺境伯令嬢が重症だ。王都にいる医師と神官、それと秘密結社や教団に詳しい学者を呼び、自領にいる辺境伯と夫人に鳥を飛ばせ!」
幼い二人の王子の指示に、鍛えられた騎士団はスムーズに従う。マリアたちもそれぞれ動き出す。
「この下に、誘拐された子供たちがいます……うちの国だけじゃなく、他の国の子も……」
限界を迎えたらしい、息絶え絶えのユリウスの言葉に、アランが騎士団に声を飛ばした。
「この下の階に誘拐の被害者がいるそうだ! 俺たちは自分で帰れる、至急救出に向かってくれ!」
『ハッ!』
騎士団はマリアたちの能力を知らない。が、王命として彼らは独立した機関であり、彼らの指示や言動が国に害をなすものでない限り何も聞くなと言われている。なにより騎士団員は子供たちの強さを、賢さを感じとっていた。
騎士団員が救出と捕縛に分かれて動き始め、この部屋にマリアたち以外はいなくなる。
「マリア、〈テレポート〉は使える?」
「もちろん」
「城に戻るぞ。報告が必要だ」
召喚に魔力を使い果たしいつの間にか眠っていたアレクをニコラスが担ぎ、二匹のフェンリルをアルヴァンスが抱える。力尽きて気を失ったユリウスをルークとアランが二人がかりで持ち上げ、幼くも女の子であるアリスはマリアが持ち上げる。
ピィッ! という鳴き声と共に、羽音がマリアの肩に止まった。
「あら、あなたも一緒に来たいの?」
そう問いかけると赤い鳥は返事をするようにピィと鳴いて、マリアの頬に擦り寄った。
「さあ、帰ろう」
次に目を開いた時は、陛下とお父様のいる会議室だった。
「アレク!」
「ユリウス!」
駆け寄ってきた父親たちが、自分の子供を抱き上げた。それからマリアが抱えているアリスを見て、陛下が扉を開ける。
「全員医療室に行くぞ。誘拐事件については三人が目が覚めた時に聞くが、合流してからと……」
「合流する前の君たちが何をやったのかも聞かせてほしいからね。特に、」
陛下のあとに続くお父様は前を向いたまま、にっこりと穏やかな笑顔を作る。
「その鳥と狼についても詳しく聞くからね?」
このあとに起こるであろう説明地獄に、子供たちはため息を吐いて項垂れた。
いつもブクマ、評価ありがとうございます!
先日ついに700ブクマ超えましたー!王道ジャンルでここまでいくと思っていなかったので、本当に嬉しいです!これからも頑張っていこうと思いますので、応援よろしくお願いいたします!
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