登場は派手に決まってる
二週間ぶりですね!テストは死にました!
今日は二話投稿です!こちらは一話目ですー!
また午後にお会いいたしましょう!
「あハッ、アハハハハハハ!!」
苦しみもがくようなアリスが悲鳴をあげ続け、杖を突き立てていた白髪の男が高らかに笑う。
「やめろおおお!!!」
アレクが叫び、男はさらに声をあげる。
「キヒヒヒヒ!! ああ、嗚呼! いいですねェ! ヒヒヒヒヒッ!」
ギリ、と奥歯から音がする。血の味が口に広がった。
「あ、ア、あ゛」
ガクガクと痙攣するアリスは目を見開き、喉を仰け反らせた。拘束具がガチャンッと鳴る。
「あは、はぁ……第一段階は成功ですねェ! これで壊れた子供が何人いましたかねェ?」
白髪の男が二回手を叩いた。すると先程の扉からフードの男達が現れ、魔法陣に倒れ込んだ四人の男を引きずって行った。一度、扉が閉まる。
「……ユリウス、俺の手を治して」
突然の耳打ちに、ユリウスはピクリと肩を揺らした。その抑揚のない声に思わず振り向こうとするも、アレクは急かすように囁く。
「早く」
先程と打って変わって冷静な声音に、ユリウスはアレクの手のひらに魔力を回し、指先まである火傷を治した。
「これ持ってて」
ぽい、と渡されたのはマリアがアレクにあげた封印の鎖だった。驚きに目を見張るユリウスに、アレクが背中から声をかけた。
「ユリウス、お願い。アイツの気を引いて。できるだけ話を伸ばして、俺に時間を頂戴」
そう言って、アレクは牢の隅の方へと足を引きずっていった。その鎖の音に、白髪の男がこちらを向く。
「おやァ? 彼はどうしたんですかァ?」
「……友人の姿がショックだったようで」
あとは察しろとばかりに言葉を切る。白髪の男は納得したように顎に手を当てた。
「意外と弱かったですねェ? あなたはなんの感情も抱かないんですかァ? 随分と冷静ですねェ」
「……それより、この儀式は何が目的ですか」
慎重に、言葉を選んでいく。
視線を逸らさず、男の言葉を待つ。
「フフ、いいでしょう、話して差し上げます。これは、神に捧げる子供を作るんですよォ」
「神に……?」
「そう! 唯一無二! 絶対神! 神は五感に優れた子供を欲しがるんですよォ!」
ケタケタと笑う男が再び踊り出す。
「これまで長かったんですよォ? 第一段階で片手じゃ足りない子供が死んで、第二段階でほとんどの子供が死にましたァ。さァて、今回の子供は完成できますかねェ?」
パンパンッと男が手を叩いたのを合図に扉から男たちが入ってきた。また四人、魔法陣の上に立つ。
「っ、待ってください!」
「なんですかァ? 邪魔するなら容赦しませんよォ」
そう言った男の目は本気だった。
冷や汗をかきながらも、不敵な笑みを浮かべて男を見やる。
「彼女が失敗したら、どうするんですか? 『素材』の無駄遣いじゃないんですか?」
恐らくこの儀式、人間を『素材』にして行われている。おそらく魔法陣の上に立っている男たちが生贄で、それは一度行う事に変えられる。五感と言っていたから、人間の感覚を媒体になる子供の体に収束させるものだろう。つまり、一度の儀式で必要なのは四人、それが五回となれば少なくとも二十人は必要だ。
「それにこれ、結構な魔力を使うでしょう。少し休んだくらいでは回復しないのでは? 今まで失敗したのは十分な休息を取らなかったからだと思いますが」
つらつらとその場限りの言葉を並べ、どうにか延ばそうと試みる。男がぐるりと首を回した。
「……ほぉ、ホオ? なァるほど、そういうことですかァ! 時間稼ぎ、ですねェ」
「っ!」
キヒヒ、と引き笑いをしながら、男はよたよたと鉄格子に向かってくる。咄嗟に懐に入っていた魔法石に魔力を通した。
それはマリアの結界を仕込んだ魔法具だった。発動した瞬間、簡易結界は何かを弾く。
「おやおやァ、珍しい魔道具ですねェ?」
カランカランと落ちたのは、先から液体が漏れる針だった。滴る雫は、毒だろう。
「そちらこそ、珍しい道具を使いますね。毒針ですか」
「察しがいいですねェ? 子供だと侮ってましたが、やっぱり殺すべきでしたかネ?」
ひひ、と笑って男が針を構えた。後ろにいた男達ものろりとした動きでそれぞれ魔法の構えをとる。
(不味い。さすがに五人分の攻撃を受けたら壊れる!)
一斉に放たれた魔法が勢いよくが当たり、すべて防ぎきったものの結界は砕け散る。
「ユリウス伏せて!」
アレクの声が響き、ユリウスは反射的に横に転がった。アレクは指を噛んで、滲み出た血を床に塗りつけた。
「血の契約よ、古の誓いを今ここに果たせ!」
次の瞬間、地下に吹くはずのない突風が吹き荒れた。
【まったく……あの無法者の血縁がどんなものかと思えば、まだまだ子供ではないか】
耳に一枚の膜がかかったような威厳のある声が聞こえた。鼓膜が震え、ビリビリと身体が震える。
目の前にはバラバラに切断された鉄格子と、肉塊と化した男達が落ちていた。
「……え」
断末魔さえなかった。血飛沫が飛び、壁もズタズタになったなかで、アリスの乗る台だけが無傷だった。
「ユリウス、治療を」
「あ、ああ」
男達の死体を跨ぎながらアリスへと駆け寄る。あまりにも現実感のない光景に吐き気すら沸かない。
気を失っているアリスに治癒魔法をかけながら、ユリウスは静かに呟いた。
「アレク、説明をしてください。その獣……いえ、フェンリルはなんですか」
アレクの横に立つ、神秘的で圧倒的な存在感を持つ獣。神話に記された神獣、フェンリルが、今、ここに存在している。
「……今の王家は初代国王の二人目の息子の血族なのは知ってるだろ。戦乱の時代、兄を支えた第二王子は神獣さえも従える召喚士であり従魔士だった。そのとき、彼の相棒だったのが──」
【我だ。貴様もあの者の血縁だな】
フェンリルがずっしりとした声音で言葉を発する。一瞬だけ背筋がぞわりと粟立った。
「彼は死ぬ間際、契約していた従魔たちに契約の更新をした。『自分と同じ力を持つ子孫が現れたら、一度でいい、その者を助けてやってくれ』と」
「……何代か前の戦争で兄の血筋が絶え、弟の血筋が王家となったのは知っています。それで適合したのがアレクだったというわけですか」
【我らにとって契約者の言うことは絶対であり、何より尊守するものだ。この時代に血縁の従魔士は二人いるようだが、召喚士はこの者だけだった】
もう一人とは姉のことだろう。彼女は確かに召喚士の職は持っていない。
【ああ、迎えが来たようだぞ】
ふっとフェンリルが上を見上げた。
「ユリウスー!! みんなー!! どこおおお!!」
「うるさいぞマリア!! 反響して耳が痛い!」
「つかここ寒くねぇ!? 極寒じゃねーか!!」
「マリアの作った服着てないのかい? これ暖かいよ」
「シラタマ、気にせず匂いを辿ってね」
「ふぇぇ、主様ぁ〜!」
そんな声が聞こえてきたと思ったら、扉が爆発音と共に吹っ飛んだ。呆然とそちらを見やると、白金色の髪をポニーテールにしたマリアと目が合う。
「ユリウスいたぁ!!」
「姉上っ!」
ドンッという勢いでタックルされたと思ったら、次の瞬間優しい匂いの中にいた。力強く抱きしめられて、思わず咳き込む。
「あああもおお心配したんだよぉー! 無事でよかったぁ……ッ!」
「ちょ、あね、げほっ! は、はなし……」
「おいマリア離してやれ。ユリウスが苦しそうだ」
「えっやだ、どこか怪我してるの!? 大丈夫!?」
パシンとマリアの頭を叩いたニコラスが、腕から解放されたユリウスの頭をポンポンと撫でた。
「よくがんばったな。おまえが無事よかった」
その優しい声音にほっとしたのか、涙腺が緩む。しかしそんな涙はすぐに引っ込んだ。
「姉上、アリスが!」
「アリスがどうし──え」
ユリウスの後ろに横たわっていたアリスを見て、マリアの顔から表情が抜け落ちた。
「っ、お兄様、ルークを!」
「あ、おう!」
マリアは着ていたローブを脱いで、アリスの体に被せた。
「体温が低い。呼吸も浅くなってる。脈はあるけど……!」
「アリス!」
アリスを探していたルークが駆け寄ってきて、従妹の姿に顔を青くする。喉からひゅっと空気の音がした。
「ルーク、部屋の温度を上げて。凄く弱ってる今は暑いくらいにしなくちゃいけない」
治癒魔法をかける姉の向かいでユリウスもさらに魔法を重ねる。正直魔力は枯渇寸前だが、数日の倦怠感など友人が死ぬよりマシだった。
ピィ────!
どれくらいたった頃だろう。一向に良くならないアリスの顔色に焦り始めたとき、笛の音のような音が聞こえてきた。それからバサバサという羽音も聞こえ、まさか魔獣かと身構える。
「ピィッ!」
部屋に入ってきたのは、一羽の赤い鳥だった。




