姉の教えと少女の絶叫
タイトルセンス〜〜〜
「ところで、どーやって出る?」
アレクの言葉に、ユリウスは「そうですね……」と小首をかしげた。
子供の数は30人ほど。怪我人は全員治したため脱出に支障はないが、その方法が問題だ。移動する人数が多ければ多いほど脱出は難しくなる。マリアたちがいればアランの魔法で防御壁を作りマリアかルークの魔法で天井を爆破、脱出という流れになるだろうが、言っても仕方ないことである。
「あの、さっき牢を開けていたとき、廊下の奥に扉がありましたわ。きっとその先が階段になっているのだと思います」
アリスが暗闇で見えない奥の方を指さした。
「わかりました。では少し見てきますので二人はそこで──」
「だめですわ」
凛とした声が響いた。
「いいですか、アレクは第三王子、ユリウスは公爵家の跡取りですのよ? つまり、貴方方の命は何を犠牲にしてでも護られるべきものですわ」
「アリス、その考え方こそ駄目だよ。僕らは国民を、」
「守るべきですわ。そこを履き違えることはありません。ですが、貴方方は護られるべきなのですわ。この違いはお分かりですの?」
アレクがぐっと押し黙る。
「わたくしは、まあ、言ってしまえば代えがききますわ。長女とはいえ当主となるべき兄はいますし、両親もまだ若いですもの。だから私が様子を見てきます」
「それは駄目です」
咄嗟に口を開こうとしたアレクより先に、ユリウスはきっぱりと言った。
「ユリウス……貴方まで」
「いえ、アリスの言っていることは間違っていません。人権云々は置いておき貴族とはそういうものですから」
ですが、と言葉を続ける。
「僕らも代えのきく人間です。第三王子であるアレクも、養子とはいえ兄のいる僕も代えがきくんです。何より、ここであなた一人を行かせたところで僕らは無事じゃいられません」
意味がわからないと首を傾げるアリスに、ハッとしたアレクがこくこくと頷く。勢いのつけすぎてヘドバンになっているがそこはスルーし、少し含みのある微笑を向けた。
「女性を一人で敵の中に放り込んだりしたら、姉上からどんな折檻を受けるかわかりませんから」
ユリウスも所詮弟である。普段優しく大好きな姉は重度の女性びいきだ。お陰で彼女の周りにいる男達は厳重なほど女性に紳士的である。
大体の怪我が治せるユリウスにとって多少の危険は治癒魔法の練習台である。欠損までいくと流石に今のユリウスに無理だろうが、応急処置ができていればマリアが治せるはずだ。
末っ子らしい考え方を上手いことこねくり回し、なんとかアリスの説得に成功した二人はほっと息を吐いた。このまま行かせていれば間違いなくモンスターハウスに単独で放り込まれる。非戦闘職であることなどお構い無しなのだあの姉は。
「じゃあ、出来るだけ一列で行きましょう。僕、アリス、アレクの順で進みます。準備はいいですか?」
こくりと頷く二人を連れて、ゆっくりと扉を開ける。ギギ……と重い音が鳴り、扉の先は暗闇だった。
「……行きますよ」
手にトーチを灯し、足音を立てないようゆっくりと歩いていく。
「寒い、ですわ……」
アリスが小声でそう言った。
確かに、空気が冷たい。はあ、と吐く息が白く、ゾクゾクと背筋が凍るような感覚。
「地下ってだけじゃ、ないみたいだね……」
アレクの言葉に頷く。これは地下特有の肌寒さじゃない。そう、例えば、
「何かを、凍らせるような……」
シュウゥゥ
階段を上がりきった瞬間、微かにそんなに音が聞こえた。ビクリと肩を揺らし辺りを見回す。
「ッ!」
いつのまにか、白いモヤが足元を這っていた。
「吸い込むな!」
嗅いだことのある匂いに、ユリウスは自分の鼻と口を覆った。ユリウスの忠告に反応した二人も服で顔を覆う。
「く、ぅ……」
ぐわんと視界が揺れる。壁に手をつき、体を支える。
(やはり、睡眠香……!)
ふらりとアリスが床に倒れた。それを支えたアレクもそのまま体勢を崩す。立っていられなくなったユリウスもその場に膝をついた。
(治癒が、集中ができない……)
解毒が間に合わず、手足から力が抜ける。限界が来たユリウスは、横たわる二人に折り重なるように倒れ込んだ。
*****
「アリスを離せ!」
そんな言葉にユリウスはハッと目を開けた。だるい身体を必死に起こし、声のした方を見る。
「アリス……!」
声の元はアレク。格子を挟んだ向こうには、魔法陣の中心にある石台に横たえられたアリスが四人の大人に拘束されていた。
「ユリウス! どうしよう、アリスがっ」
ユリウスの方を向いたアレクからジャリ、と鈍い音がした。視線をやり、目を見開く。
アレクの足に嵌められていたのは、少し大きめの足枷だった。ユリウスの足にも同様に鎖がついている。
「むぅぅー! んん!!」
「あの方が来るまで大人しくしていろ! お前は名誉ある人柱に選ばれたのだ」
「アリス!!」
暴れるアリスに黒ずくめの男が怒鳴る。手足を拘束されたアリスが体をねじるたび、ガチャガチャと耳障りな金属音が響いた。
(どうする、どうすれば……)
ぐるぐると頭を回す。額や背筋を汗が伝う。
されど、この状況を打開する策は思い浮かばない。姉のように奇抜な発想など出てこない。握りしめた拳が痛む。友人の危機を、格子越しに見ていることしか出来ないなどあんまりだ。
「っ! ユリウス!」
アレクの呼びかけに弾かれたように顔を上げる。
ギィィ……と嫌な音を立てて扉が開き、黒く大きい男が、ゆっくりと部屋へと入ってきた。男が一歩歩くたびシャラシャラとガラスが触れ合うような音が鳴る。
「ほぅ……この少女が……?」
男がすっとアリスに手を伸ばした。ガタガタと震えるアリスの頬を長い爪でなぞる。
「その子に触るな!!」
空気を叩くようにアレクが叫んだ。男を怯むことなく睨み、鉄格子に手をかける。
「ふ、ふふふふ」
不気味な笑い声をあげながら、男がゆったりとした動作でこちらへと近づいてくる。
ユリウスはアレクの襟元を引っ張り、思いっきり後ろに引き倒した。そのままアレクを庇うように前に出る。
「ヒッヒヒヒヒヒ!」
牢のすぐ目の前まで来た男が、狂ったように笑った。男が被っていたフードが外れ、真っ白な髪と、右の眼球を隠すようなゴーグルが現れた。
ひとしきり笑った男の左目が、ギョロリとアレクを捉える。
「アァ、はは、キミ、いいですねェ? んぅふふ、なにか、特別な力を持っていますねェ?」
にたぁ、と口角を上げる男がくるくるとその場で踊る。
「今日はなんていい日なのでしょう! 適合者がいたどころか! 先天性の力を持つ者までいるなど! これは神が私に与えてくれたに違いない!」
まるで劇を演じるように、男は恍惚と唱える。
ずっと黙っていたユリウスは、殺気を込めた目で男に問うた。
「……彼女に、何をする気ですか」
ピタリと男の動きが止まる。それからぐりんとユリウスに首を向け、感情を削ぎ落としたような表情で言う。
「我が神への供物になっていただくんですよォ? ウフ、その為には儀式をしなくては行けませんけどねェ? あなたがたはそこで見ていてくださいよォ、大切なお姫様がど、う、な、る、かァ?」
「ふざけるな!! 今すぐアリスを離せ!」
「アレクッ!」
飛びかかろうとするアレクを制するも、遅い。
バチンッという音と一瞬の閃光に、ユリウスはアレクを蹴っ飛ばした。
「ひひ、ひひ! そこの坊ちゃんは気づいた様ですねぇェ?」
「っアレク、大丈夫ですか」
こちらを煽るような先程の会話の最中、男が何かの札を貼っていたのにユリウスは気づいていた。
「し、びれる……!」
「アレに触ると感電するようです。鉄格子から離れてください」
今すぐ治したいところだが、こちらの能力がバレるとまずい。格子を握った手を掴み、再度アレクを背に隠して男を見上げる。男は心底楽しそうに笑いながらこちらを見ていた。
「観客席のお子様方、どうかお静かにィ。これから神子を作るんですからねェ?」
アリスを拘束していた男たちが、魔法陣の対角線に立っていた。ガツン、と白髪の男が杖を突き立てた。
「さァ、まずは……その瞳を!!」
ブゥン、と音を鳴らし、杖から流れるように魔法陣が光った。それは外側から中心へと収束していき、アリスの目に光が集中する。
「あ、ァ、ああアアアアア゛ア゛ア゛ッ!!!」
絶叫が、響いた。
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