深窓令嬢は負けたくない。
年下トリオの語り合い
初めて会ったその少女は、思わず見蕩れるほど綺麗な人だった。
透き通るような白い肌。錦糸のように細く柔らかそうな髪、薔薇を思わせる深紅の瞳。たたえた微笑みは気品溢れる優雅なもので、アリスは思わず息をのんだ。
ああ、これが、公爵令嬢というもの。
辺境の地で屋敷に篭もり、病弱な体を癒すことに日々を費やしてきたアリスにはない圧倒的なオーラ。
そのオーラに気圧されながらも、アリスは勇気を振り絞って少女に挑戦状を叩きつけた。
「お兄様と結婚するのはこのわたくしですの! 貴女なんかに渡さないのですわ!」
***
少女は不思議な人だった。
不敬罪とされても仕方ないアリスの振る舞いを咎めず、にこにこと人懐こい笑みを浮かべながらアリスを振り回した。周囲の大人になかった対応にアリスは混乱しながらも、心のどこかで楽しんでいたのかもしれない。だが……
「さすがにコレはないですわ!!」
「なにがないの?」
悲鳴と共に飛び起きたアリスに、間髪入れずツッコミが入った。聞きなれないその声にアリスはぎこちなく発生源へと首を回す。
「あ、アレクセイ殿下……!」
キラキラと輝く金髪のアレクセイは不思議そうな顔でアリスを見つめた。
「ねー、何がないの?」
「い、いえ、なんでもありませんわ! そ、それよりここはどこなんですの、なんでしょうか……?」
赤紫の瞳に射抜かれ、アリスは緊張のあまりどもってしまう。アリスはずっと辺境にいたのだ。同年代の子供、ましてや自分より高貴な身分の方と話すことなんてない。マリアたちのときはルークがそばに居たからまだマシな対応が出来ていたのだが、ルークは近くにいない。
「ここは王宮の庭だよ。ルー兄から聞いたんだけど君、体弱いんでしょ? 無理しちゃダメだろ」
「ご、ごめんなさい……?」
正確に言うなら体調不良というより情報過多によるキャパオーバーなのだが、真剣なアレクセイの視線に素直に頷く。アリスの様子に満足気なアレクセイは、硬い表情を崩してへらっと笑った。
「まあわかるけどね。リア姉といると意味わかんないことばっか起こるから」
「あ、あの……他の方々は……?」
「ああ、ルー兄とアラン兄は二人で手合わせしてるよ」
「て、手合わせ!? 大丈夫ですの!?」
「平気平気、いつものことだから。で、リア姉はそのストッパー」
「すとっぱー」
「アル兄はニコ兄にヴァイオリン弾かせたいらしくて二人で特訓中」
「ばいおりん……」
王子自ら教鞭とはどういうことだ。ぽかんとするアリスだったが、その中に一人名前がないことに気づく。
「ユリウスは……?」
「あいつは今飲み物作ってくるって。もうすぐ戻ってくるよ」
「そうですの……」
よかった。このまま王子と二人きりなど耐えられない。早く来てくれと願っていると、アレクセイが静かに口を開いた。
「ねぇ」
「は、はいっ」
「ユリウスは呼び捨てなの?」
「え? あ、はい……そうしてくれと言われましたので……」
「じゃあ俺のことも名前で呼んで?」
「ええ!?」
突然の申し出にアリスは思わず声を上げた。
「ユリウスばっかずるい。俺とも友達になるんだから名前で呼んで」
むす、と頬を膨らませるアレクセイにアリスはぶんぶんとツインテールを揺らす。
「そ、そんな、恐れ多いですわ! わたくしのようなものが殿下を呼び捨てにするなんて……!」
「アル兄とアラン兄はお兄様って呼んでほしいって言ってたなー」
「えっ!?」
「でもアリスが俺を呼び捨てにしてくれたら様付けで許してくれるよう言ってあげるよ?」
「うぅ」
アレクセイとて、マリアたちと出会ってから成長しているのだ。心を読む力が戻った時、怖がらず人と接することができるよう、ルークの賢者の書から人心掌握術や交渉術を学んでいるのである。まだまだ拙いものの、起きたばかりで頭の回らないアリスには十分だった。
「あ、アレクセイ……様」
「惜しい」
「アレク、セイ」
「もう一声」
「〜〜〜っ、アレク!」
「よく出来ました」
「おや、随分仲良くなったんですね」
タイミングを見計らったように物陰からユリウスが出てきた。アリスたちが座る木陰へと腰を下ろし、持ってきていたコップを二人に渡す。
「やった、レモネードだ」
「レモネード?」
「姉上が作ったドリンクです。飲んでみてください」
アリスは勧められるままコップに入った液体をこくりと飲んだ。
「す、酸っぱいですわ!」
「レモンと蜂蜜を水で割ってるんです。少し塩も入ってますから、水分補給に最適ですよ」
確かに酸っぱいが、程よい甘さがクセになる。思わず半分ほど飲み干してしまった。
「美味しいですわ」
「よかったです」
「……ところで、お二人は皆さんに混ざりませんの?」
「……」
「……いや、僕らは……」
「ちょっと無理だな……」
言い淀んだような返事にアリスはこてんと首を傾げた。二人は微妙な顔をしたまま言葉を紡ぐ。
「ここに連れてきたってことは、多分そのうち話すつもりなんだと思うけど……」
「姉上はちょっと変なんです」
「それはこの短時間で理解してますわ」
アリスにとっては服は脱がせられるわ訳の分からない魔法で酔わせられるわ王宮に連れてこられるわと散々である。悟ったような顔のアリスを見て、ユリウスとアレクセイは苦笑した。
「察しの通り、リア姉はちょっと規格外なんだよね」
「古代魔法使いますし複数の職業は全部レベルマックスですし魔力量は異常なんです。まあルークも負けてないんですけど」
「ルー兄は〈賢者の書〉を持ってるし魔力量も多いしリア姉の魔法を古代魔法以外なら初見でコピーするし頭もずば抜けて良いよね」
「かと思えば兄上もおかしいですね。毒で殺されかけたのに後遺症もなく剣を振ってますし職業は剣聖ですし。まだ姉上には勝てていませんが」
ユリウスとアレクセイはレモネードを飲みながら、客観的事実だけを淡々と述べる。
「それで言ったらうちの兄たちもちょっとねー……アラン兄とか、リア姉たちからもらった職業だからって戦闘狂っていうくらい魔物狩りまくって自分のモノにしようとする王子ってなんだろうね? 常識人自称するのやめた方がいいと思うんだけど」
「アル様もひどいですね。人間にも魔物にも精神作用する音楽って何なんでしょう。人の力を引き出したり弱めたりって、勝負事絶対勝てるじゃないですか」
回復要員のユリウスは言わずもがな、未だ従魔のいないアレクセイも非戦闘要員だ。アルヴァンスも物理的な面では戦闘に向かないが、恐怖や威圧などを与えられてはたまったものではない。
「てわけで、周りが凄すぎて僕らじゃ歯が立たないんだよね〜」
「……皆様、すごいんですのね……」
アリスはぼそりと呟いた。遠い目をする少女に、アレクセイは伺うように声をかける。
「アリス……?」
「わたくし、役立たずなんですわ」
「え?」
「簡単な魔法も使えませんし、辺境伯の娘なのに剣もうまく扱えません。体も弱いので跡継ぎを産むどころか結婚だって出来ないかもしれない、伝統ある辺境伯の面汚しなのですわ」
令嬢の使い道は、女伯か婿への貢物。それさえ満たせない自分の価値は何だろうか。アラベスタ家に預けられたことを、両親に見放されたのかもしれないと思ってしまう自分が嫌だった。
いつもブクマ、評価ありがとうございます!未評価の方はぜひぜひ下のボタンをポチッてくださるとうれしいです!
来週はテストがあるので土日どちらかに連投します!
ところで作者は感想に飢えています!!禁断症状出ています!!!もう好き☆の短文でいいです感想ください!燃料補給をよろしくお願いします!!
@sabineko_280にてTwitterやってます!よろしければフォローお願いしますm(_ _)m




