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やっと出てきた女の子

前回長かったので今回は短めですー!

「お兄様と結婚するのはこのわたくしですの! 貴女なんかに渡さないのですわ!」


  高らかにそう言い放ち、人差し指を突きつける少女にマリアはぱちくりとその瞳を瞬かせた。



「ええと、この子は……?」

「メグアリク辺境伯が娘、アリス=メグアリクですわ! お兄様は幼いころ、わたくしの求婚を受けてくださいましたの! だからわたくしたちは将来結婚するんですのよ!」

「名前以外何一つとして合ってないよ、アリス」


  胸を張って主張を述べる少女に溜息をつきながら、ルークは改めて彼女の素性を告げた。


「この子は母上の妹の子供……つまり僕の従妹なんだけど、今週から王都に越して来てね。辺境伯夫妻はまだ領地にいるから、彼らが王都に着くまでうちで面倒見ることになったんだ」

「ああ、だから珍しく馬車だったの」


  直接自分の元へ来なかったから、何かあるとは思っていたが……

  納得したように頷くと、ルークが苦笑気味に言葉を返す。


「指輪の件はマリアに許可取ってからの方がいいかなって。昔からこんな感じだから、叔母上にアリスをよろしくって頼まれちゃって、仕方なく連れてきたんだけど……大丈夫かな」

「平気よ。身分もハッキリしてるし家柄も上位だもの。問題ないと思うわ」

「そっか、マリアが言うなら平気だね。ところでマリアから甘い匂いがするんだけど、また作ったの?」


  ルークがマリアの髪を一房取り、すんと鼻を鳴らす。上目遣いのルークと視線が交わって、マリアはとっさに目を泳がせてしまった。


「う、うん……さっきまでクッキー焼いてたの。今お義兄様とユリウスが包んでくれてる」

「ユリウスは当然として、ニコラスも料理以外は割と器用だよね」


  マリアの反応に満足したらしく、ルークは取った髪をくるくると弄りながらにこにこと笑う。


「っちょっと! わたくし貴女の名前聞いておりませんわよ! 何いい雰囲気になってるんですの!?」

「あら、これは失礼いたしました」


  放置されたのが相当お気に召さなかったらしい。憤慨するアリスに向かって、マリアのは柔らかな微笑みを携えながら優雅にカーテシーをする。


「お初にお目にかかります。セイントベール公爵が娘、マリア=セイントベールですわ。どうぞマリアとお呼びくださいな」

「ふんっ! お兄様を誑かした女っていうからどんな悪女かと思っておりましたが、公爵家の令嬢だけあって礼儀はまともみたいですわね!」


  ツンッとそっぽを向くアリスに、マリアはポンと自分の手を叩いた。


「あ、そうそう。ねぇアリス」

「アリス!? 今アリスって言いまして!?」

「え、アリスだよね? 名前間違ってないよね?」

「アリスですわよ!! そこじゃなくて……っ」


  必死に抗議しようとするアリスに、マリアは笑顔で迫っていく。


「可愛いお洋服、着てみない? 新作できたんだけど私じゃ似合わないタイプなのよぅ」

「はあ!? わ、私達はライバルですのよ! なんでそんな親しげにするんですの!」

「えぇ? だってアリスはルークの従妹でしょ? じゃあ結婚したら私の妹分じゃない」

「なんでですの!? 貴女の思考回路どうなってるんですの!?」

「ルーク、この子連れてっていーい?」

「……うん、好きにして!」

「お兄様!?」

「じゃっ、僕は先にニコラスたちのとこに行ってるね!」


  また後で! と言って颯爽と逃げていくルークに、アリスが愕然とした表情でその背を見送る。


「よーし、私のアトリエまでレッツゴー!」

「ひ、いやああああああ!!!!」


  悲鳴をあげるアリスを引きずって、マリアはてくてくと邸の隣へと歩いていった。


  セイントベール邸の隣にはマリアのアトリエがある。《ネバーランド》の商品を作る小さめの別邸だ。秘密裏であったが引きこもり(?)王子たちを助けた礼として王家から贈られたもので、設備は最新鋭、おまけに質のいい素材つき。まあ、すでに子供部屋に近いものになっているのだが。


 ***


「えーっと、コレとコレ、あとコレで〜。髪はどうしようかなぁ……」

「……あの、ここどこですの?」


  アリスが引きずられてきた場所には、大量の布、糸、マネキンが鎮座する工房と呼べるほどのものが鎮座していた。


「私のアトリエだよー」

「アト、リエ……?」

「あれ、ルークから聞いてない?」


  アリスはふるふると首を振る。驚いた表情のマリアはしまった、というように頭を抱えた。


「どうしよう……下手に口外しちゃダメって言われてたし……」


  ブツブツと何かを呟くマリアをアリスは怪訝そうに見つめた。


  目の前の少女は最初から理解ができなかった。白金の髪はふわふわと柔らかく揺れ、紅い瞳は宝石のよう。カーテシーをする様子は気品が溢れるもので、アリスは少しだけたじろいだのだ。

  だが、どうだ。怪力で無作法。人の話を聞かないうえ意味がわからないほど強引だ。こんな女に親愛なるルークを渡す訳にはいかない。


  アリスがそんな決意をしたとき、マリアがバッと顔を上げた。


「まあ、アリスがこっち側にくればいいよね!」


  どうやら彼女の中で決着がついたらしい。近づいてくる満面の笑みが怖い。


「アリス、ちょーっと大人しくしててね!」

「え? えっ!?」


  ストン、と体の力が抜けた。喋ることは出来るのに、体は全然動かない。戸惑うあいだにマリアがアリスの服を脱がせ始めた。


「なっ、なにするんですの!?」

「すぐ終わるからね〜」

「お、お兄様! お兄様!」

「うんうん、ルークはこっち来ないよー」


  口だけでは抵抗も何もなく、マリアはスルスルとマリアの服を脱がせていった。


「うぅ、もうお嫁に行けませんわ……!」

「貰い手はあるよー、大丈夫大丈夫〜」


  半泣きで言うと、今度は視界が布に覆われた。それからはあれよあれよという間にアリスを着替えさせていった。


「はい、でーきた」

「……っ」


  鏡の前に座らされたアリスは、先程とは全く違う装いになっていた。


  白い長袖のブラウスに、細かい金の刺繍が入った深い紺のジャンパースカート。アリスの瞳と同じ紺のブローチが胸元に輝き、腰に結ばれたリボンがアクセントになっている。正直言って好みだった。

  おろしていた長い紫紺の髪も高い位置で二つに結い上げられ、白いリボンが結ばれている。


「あ〜もうすっごい可愛い! やっぱり私の目に狂いはなかったわ〜!!」

「っは、離しなさいこのけだもの!」


  むぎゅうと抱きつかれた衝撃で、ようやく我に帰った。アリスはマリアの手を払い除け、自分の体を抱き込む。


「アリスってばひどーい! これからお出かけするんだからおめかししないとでしょ?」

「お、お出かけ……?」

「うん! あ、もう時間もないし、最短距離で行っちゃうね。はい、手繋いでー」

「な、なんですの? なんですの!?」

「〈テレポート〉!」


  ふわり、という浮遊感にアリスは思わず目を瞑った。

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