ニコラスと第一王子
タイトルほど絡んでない
トントンと扉が叩かれ、メイドが入ってきた。
「マリア様、ルーク様。ニコラス様がお呼びです。至急、アルヴァンス殿下の部屋まで来るようにとのことです」
「お義兄様が?」
アランとアレクを部屋に残し、メイドに案内されて部屋へ行く。ドアを開けて飛び込んできたのはたくさんの楽器。ピアノ、ヴァイオリン、フルートなど多種多様な楽器が並ぶ中央に、無表情で椅子に腰掛ける少年と、困り果てたような顔で椅子に座るお義兄様がいた。こちらに気づいたお義兄様が椅子を鳴らして立ち上がる。
「やっと来たかおまえら! 助けてくれ!」
「た、助けろと言われても」
「俺に回復魔法は使えないからな!」
「……はい?」
この人はもう少し文脈を重視した話し方をしてくれないだろうか。意味わからん。
「ニコラス、もう少し細かく説明してくれない?」
ルークが溜息をつきながら告げる。
「いや、あのよぉ……」
そう言って、お兄様は事の顛末を話し始めた。
メイドに案内されたニコラスは、ぼぅっと虚空を見つめる少年と会った。
挨拶するも無反応、握手の手を出しても無反応、肩を叩いても無反応……その他諸々試したものの、視線一つすら向けられない。途方にくれたニコラスは部屋に並んだたくさんの楽器に目を止めた。
ピアノの鍵盤を一つ押すと、ポロンと透き通った音が鳴る。少年がピクリと反応したのをニコラスは見逃さなかった。
椅子に腰をかけ、以前マリアが弾いていた曲を演奏する。難しいのは弾けないが、『カエルの歌』というのなら指の動きが簡単だったため覚えていた。
「……そこ、違くないかい」
「あ?」
「レじゃなくて、ドのほうが自然だ」
「あー、確かに。マリアが引いてたのもこんなだったな」
「マリア?」
「妹だ。おまえにも弟いるんだろ?」
「いる、けど」
「話せよ。俺はおまえと会話するためにここに来た」
ニッと笑って椅子を少年の向かいに置いた。
「んで、まず俺がマリアとユリウスのことを話してなー」
「うんちょっと待ってニコラス。いつになったら本編になるの?」
「詳細を省いてわかりやすく簡潔に説明していただけませんか」
ルークとユリウスに言われて、ニコラスが少し考えて、アルヴァンスの手を掴んでマリアたちに投げ出した。
「動かない指を治してくれ!」
「……あ、はい。わかりましたもういいです。ユリウス」
「はい、姉上」
お兄様に説明を求めたのが間違いだった。
とりあえず、アルヴァンスを回復させなくては話も聞けないと判断し、ユリウスに指示をして〈カルテ〉を出してもらう。それを見て、マリアは「あれ?」と首を傾げた。
「ねぇルーク」
「ん?……あー、これは……」
〈カルテ〉にある“呪受中”の文字。
「ルークのお母様と同じだよね?」
「うん。おかしいと思ったんだ。ただ回復魔法かければ治るなら宮廷魔導師が治してたはずだから……これはまず呪いを消さなくちゃだよ」
アルヴァンスの闇ってこれかぁ……確かに音楽は好きって言ってたけど弾いてるスチルなかったもんな……ていうか『フロスピ』の制作陣、毒もだけど呪いも好きすぎだろ。
執念に近いそれにドン引きながらも、さっさと聖魔法を展開する。すると部屋の隅にあったヴァイオリンがふよふよとマリアの元へ飛んできた。
これピアノ飛んできたら潰れてたよね……
「これだね」
ルークの同意が得られたので、聖魔法を流し込む。プツン、と音がしてヴァイオリンとアルヴァンスの指から解けるように黒いモヤが出ていった。それはくるくると渦巻いてひとつになり、窓を通り抜けて外へと出ていった。
「解けたのか?」
「多分ね」
「一応、治癒魔法をかけておきます」
ユリウスが両手の指に治癒魔法をかけると、死んだ魚の目をしていたアルヴァンスの瞳に、キラキラと光が入った。
「指が……魔力が、通ってる……!」
「え、魔力?」
先程の〈カルテ〉を確認すると、
魔力切断 部位:指
と書いてあった。
感覚を確かめるように手をグーパーしたアルヴァンスが、先程の廃人スタンスはどこへと言いたくなるほど俊敏な動きでピアノの元へと走っていった。
椅子に座り、鍵盤を叩く。
「わぁ……」
「すごい……」
形容できない音楽が、城中に響いた。音楽に明るくないマリアが肌で感じるほどの迫力。音楽で創りあげられたアルヴァンスの世界。幸福感に包まれるような感覚に浸っていれば、激しい足音と勢いよくドアを開ける音が聞こえた。
「に、兄さん……っ?」
「アル兄……!」
アレクの部屋から走ってきたらしいアランとアレクが息を切らしながら、二人の乱入を意に介さず演奏を続けるアルを見つめた。
その表情は、驚愕と歓喜。
ふわり、と羽が落ちるように演奏を終え、アルヴァンスがゆっくりと立ち上がった。
つかつかとこちらへ歩いてくるかと思えば、ガシッと物凄い力でマリアとユリウスの手を掴んだ。
「ありがとう!! 君たちのお陰で私は力を取り戻せたよ!」
おいどっかの野獣王子みたいなこと言ってるぞこの人。
さっきまでの病んだ瞳にはハイライトが入り、タンザナイトのように煌めいてマリアたちを見つめていた。
「随分前から指先に魔力が通らなくなって、楽器が弾けなかったんだ! 僕の存在意義を取り戻してくれてありがとう!」
「は、はい……」
存在意義て。仮にも王子が言っていいのそれ。
目を瞬かせながらも脊髄で言葉を返すと、今度はその首がニコラスへと向いた。
「君も!! 彼らを呼んでくれてありがとう!!」
「お、おう」
「アルって呼んで! 君たちも! アル兄様と呼んでほしい!」
『フロスピ』とかけ離れたテンションのアルヴァンスにたじたじになっていると、マリアの横をすり抜けて二つの影が飛んでいった。
「兄さん!」
「アル兄!」
ドスッとアルヴァンスに追突した弟たちを見たアルヴァンスが、ぎゅうっと二人を抱きしめた。
「アラン、アレク! 久々だね!」
「兄さん、なっ、治って、よかったっ……!」
「心配かけたね、アラン」
「アル兄! 俺、心読めなくなったよ! 手だって繋げるんだ!」
「本当かい! やったねアレク」
そんな兄弟の再会は、スライディングで駆けつけた陛下が部屋に飛び込んでくるまで続いた。
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