ユリウスと第三王子
怒涛に増える登場人物…兄弟の名前を間違えないよう注意していきたいと思います
「すー、はあー……」
ユリウスはメイドに案内された扉の前で深呼吸を繰り返していた。
同い年であるらしい第三王子──アレクセイ=エディダ=カラトリックに会って欲しいと言われここまで来たものの……やはり一人だと心細い。普段姉たちと共に行動するからか、隣に彼女らがいないだけで言いようのない不安に襲われてしまう。なんて情けない。
「いや、しっかりするんだ僕……大丈夫、この扉の先にいるのは従弟。同じ歳の従弟なんだ」
そう呟き、緊張に震える手で扉をノックする。「だれ……?」いう声が聞こえ、ユリウスは意を決してドアノブを回した。
「失礼致します。王命より遣わされました、ユリウス=セイントベールと申しまっ」
「今日は君が遊んでくれるの!?」
「は、はい……」
自己紹介の途中にも関わらず、ぬいぐるみが突進してきた。そこからひょっこりと顔を見せた子供にぎこちなくもにこりと微笑んでみせる。
アレクセイは自分と同じくらいの背丈だ。くすんだ金髪に神秘的な赤紫の瞳の彼は、嬉しそうに笑いながらユリウスの手を引いた。
「何して遊ぶ? 絵を描く? 楽器を弾く? そうだ! お菓子食べる!? 美味しいの沢山あるよ!」
「え、あ」
「ここには何でもあるよ! 本も、チェスも、今流行りのトランプだってあるんだ!」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
走り出すような勢いのアレクセイに、ユリウスは慌ててストップをかける。振り向いた顔はニコニコと笑みを浮かべたままだ。
「なに?」
「まず、自己紹介から始めましょう。先程も言いましたが僕は」
「ユリウス=セイントベール。同い年。父さんの弟の子供で俺の従弟。へー、妖精さんと契約してるんだね! 俺にも会わせてよ!」
「はっ!?」
頭の中にあった自己紹介の内容を言い当てられ、ユリウスは目を見開いた。その様子を見たアレクセイがくすくすとからかうように笑う。
「今、なんでわかったんだ? って思ったでしょ? ……俺ね、触れた人の心が読めるの。だからこの手を振り払わない限り、俺には君の心が丸見えなんだよ」
「っ!!」
その言葉を聞いた瞬間、ユリウスは反射的に自分の手を引いた。アレクセイの抵抗は全くなく、一瞬だけ、少し寂しそうな顔をしたあと、すぐまたにっこりと笑った。
「俺のこと、怖いでしょ? みーんな心読まれるのが嫌だから、俺と遊びたがらないんだ。侍女も、護衛も、気味が悪いって、気持ち悪いって思ってるし……アル兄だってアラン兄だって、全然遊んでくれない。僕だって読みたくて読んでるわけじゃないのに、理不尽だよねー……君も、俺と遊ぶの嫌になったでしょ? 帰ってもいいよ?」
そのすべてを諦めたような瞳に、出てけと言われているような気がした。
ふと部屋の中を見回せば、そこにあるのはたくさんの人形やぬいぐるみ、散らばった本、ばら撒かれたトランプ。まるで大きなおもちゃ箱のようなそこは、どこか虚しく、空っぽに思えた。
「ほら、どうしたの? 父様の命令だからって、無理しなくていいんだよ?」
「…………」
笑顔を崩さず見つめてくるロードナイトから逃れるように、ユリウスは扉へと足を向けた。
「あの子もだめかぁ」
パタンと閉まった扉をしばらく眺め、アレクセイはため息混じりに呟いた。
「……まあ、慣れてるけど」
フカフカの椅子に沈むように座り、クマのぬいぐるみをもふもふと弄る。ああ、柔らかい。癒される。
この力が目覚めたのは四歳の誕生日だった。人に触れたら、その人だけどその人じゃない声が聞こえて、囲まれたら他の人のいろんな感情が流れ込んできて気持ち悪くなったことを覚えている。それからはこの部屋に隔離され、ご飯も寝るのも全部ここ。大好きな兄たちも遊んでくれず、付けられた侍女や護衛はできるだけアレクセイに触れないよう、必要以上に距離を取る。
だから、手が誤って誰かに触れないように、勝手に心を読んでしまわないように、ぬいぐるみを抱いている癖がついた。
「……今度の子は、平気だと思ったのにな」
そんな呟きを拾う人もいない。
チェスも、トランプも、相手がいなくちゃ面白くない。お人形遊びだって一人じゃつまらない。遊び相手として連れてこられた子息たちは、みんなアレクセイを気味悪がって二度と会うことは無かった。
人と話すのさえ、久しぶりだった。
「はああ……」
そんな深いため息を吐いた瞬間、先程閉まったドアがものすごい勢いで開いた。
「は、え!?」
ポカンと見つめる先には、肩を激しく揺らしたユリウスの姿。そしてその後ろにいる知らない子供と、
「アラン、兄……?」
「アレク……」
予想外の人物に唖然としていると、ツカツカと早足で歩いてきたユリウスがアレクセイの肩を強く掴んだ。痛いほどの力に目を瞬かせるアレクセイに、ユリウスがその目を捉えて言い切った。
「っ、それ! 治せます!!」
「……え?」
気の抜けた声を出すアレクセイを、ユリウスのトパーズが射抜いた。
*****
「姉上! ルーク! 力を貸してください!」
「え、ユリウス!?」
じゃれ合うルークとアランを眺めていると、息を切らしたユリウスが駆け込んできた。崩れるようにへたり込むユリウスに、魔法で冷やした紅茶を持っていく。
「誰だ?」
「マリアの弟のユリウスだよ。どうしたの?」
ルークの疑問に顔を上げたユリウスが、かつてないほどの大きな声で叫んだ。
「触れた人の心を読んでしまう力をっ……封印することはできますか!?」
その言葉に、アランの表情が変わる。
「おい、それはまさか、アレクのことか……?」
「っア、アランジール様! 失礼いたしました! マリアの弟、ユリウス=セイントベールと申します」
「ああ、挨拶はいい。第二王子のアランジールだ。アランと呼べ。それより、アレクに何かあったのか?」
「特別何かあったわけではありません。ですが……」
そう言って、ユリウスはここに来た経緯を話し始めた。完全記憶を持つユリウスは、アレクセイと出会ってからの会話を正確に語っていく。
「……というわけで、姉上とルークなら何とか出来るかもしれないと思って走ってきました」
「話はわかったよ。調べてみる」
「ありがとルーク」
話を聞き終えたルークが即座に行動を始める。そういうとこ、めちゃくちゃ格好いい。いやいつも格好いいんだけど。
調べものはルークに任せ、マリアは乾いた喉を紅茶で潤すユリウスに向き直った。
「あのねー、ユリウス。確かに私とルークを頼ったのは大正解なんだけど、アレクセイ殿下に何も言わず部屋を出てきたのはよくなかったわ」
「はい……すみません、先程気づきました。気持ちが先走ってしまって……」
「そうね。目的のためにすぐ動くのはユリウスの素敵なとこだけど、その前に相手への報告、連絡、相談は怠らないようにしようね。残された方はものすごく不安になっちゃうから」
「ごめんなさい……」
「よし、いいこいいこー。……で、アランはなんでそんな顔してんの?」
くりくりとユリウスの頭を撫でたマリアは、途中から椅子に脱力して座るアランに声をかけた。なんか某燃え尽きたボクサーみたいになってるよ、それ。
「いや……すまない。ちょっと罪悪感に呑まれててな……まさかアレクがそんな誤解をしてるとは思っていなかったんだ」
「どういうこと?」
「アレクが心を読む力に目覚めたあと、兄さんの方に少し問題が起きてな……俺も、俺には職業がないのに何故アレクばかりと、特別な力を持つ弟に嫉妬していて、とてもじゃないが読ませられるような心情ではなかったんだ。だから父上がそれぞれ隔離したんだろうが……」
「ああ、うん……ケアが行き届かなかったのね……」
同時に問題が起こっててんてこ舞いだったらしく、物を与えるだけになってしまったのだろう。
……うちの引きこもりをよろしくって言ってたけど、さらに引きこもらせてんの王様じゃん……
アランに哀れみの目を向けると、予想外に真剣な視線が返ってきた。ああこれは、兄の顔だ。
「俺からも頼むマリア。俺の弟を助けてやってくれ」
「うん、頑張るつもりではいるよ。まあ手段がわからないとどうにも出来ないんだけど……」
「その点は大丈夫だよ。もう見つかったから」
「さっすがルーク! 仕事が早いわ」
ルークに見せてもらったページを読み、使えるかどうかを確かめる。
「姉上、できますか? アレクセイ殿下、助けられますか?」
「ええ! 方法にも問題はないみたいだし、しっかり助けてみせるわ!」
「僕も一応サポートに入るよ。マリアが安心してできるように、ちゃんとこの〈眼〉で見ててあげるから」
「ルークがいるなら百人力ねっ! それじゃ、早速アレクセイ殿下のもとへ行きましょうか!」
そう言うと、苦い顔をしたアランが不満気に呟いた。
「アレクのことは殿下って呼ぶのか」
「だってまだ本人に許可とってないんだもの。お好みならあなたも殿下ってお呼びいたしましょうか? アランジール殿下」
「やめろ鳥肌が立つ」
「さっきも言ったよねそれ……」
「どっちなのよ?」
そんな会話をしながら、私達はアレクセイ殿下の部屋へと走っていった。
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