マリアとルークと第二王子
前話の第三王子の名前をアレクサンダー→アレクセイに変更いたしました!
メイドに案内され、王子のいる部屋へと向かう。豪奢な扉にたどり着けば、中から何かが割れる音が聞こえてきた。慌てて扉を開けると、ヒュンッという音とともにティーカップが飛んでくる。
「きゃあ!?」
咄嗟に防御魔法を発動し、障壁を形成する。ティーカップは障壁に弾かれ床に落ち、粉々に割れて散った。
……思わず叩き落としちゃったんだけど、高価なものじゃないよね? ね??
あばばばと縋るようにルークの腕を抱きしめていると、部屋の奥から射抜くようなアクアマリンと目が合った。
「おまえら、誰だ」
「え、えぇと」
「この度王命により、陛下より遣わされました、ルーク=アラベスタと申します」
「ま、マリア=セイントベールと申しますわ」
ルークに習い慌てて礼をすると、男の子がチィッ! と大きな舌打ちをした。
「おまえたちもどうせ、俺を馬鹿にするんだろう! 王子に媚を売りたければ他を当たるんだな!」
「はあ!?」
「出ていけ!」
次に投げられたのはティーポット。これも障壁で弾く。すると、男の子がさらに声を荒らげた。
「ハッ! そんなに王家に縋りたいのか!? 恥も外聞もないな!」
「なっ!」
「図星で言葉も出ないか! フン、やはり王家に集るハエだな! ぶんぶんと飛び回り擦り寄り媚を売る! どうせおまえも俺の婚約者にと言われて来たんだろう! 残念だったな、俺はおまえみたいなブスとは婚ッ」
ザクッ!
「…………」
「…………」
「…………」
…………壁に刺さる氷柱。長い沈黙。
男の子の頬に一筋の切れ目が入り、じわりと血が滲む。マリアは壊れたロボットのように、隣で手を突き出すルークに顔を向けた。
「ヒッ」
能面だ、能面がいる。目に光が灯ってない。
無表情で自分を見下ろすルークに、我に帰った男の子がぎゃんぎゃんと噛み付いた。
「お、おい! 俺を誰だと思ってるんだ!? 王子だぞ!? 王子に魔法を向けるなんて不敬だぞ! 殺人未遂容疑だ!!」
「マリアに対する発言の方が、よっぽど不敬だと思うけど?」
「なに!?」
「不敬というより、万死に値すると思うんだよね。こんなに可愛い女の子に向かってブス? 君の目は節穴なのかな? 一度医者に見てもらった方がいいんじゃない? ていうかマリアが君の婚約者候補? そんなの、王命でも絶対許さない」
ひと呼吸で言葉を紡ぐルークが凍えるような笑みを浮かべた。
「それで、マリアが何だって?」
*****
「職業が無い?」
男の子──アランジールの頬の治癒を終えたマリアは、首をかしげながら聞き返した。
職業とは所謂、魔術師や剣士、特殊な例だとルークの賢者やニコラスの剣聖といったもののことである。通常、一人一つくらいは剣士などの一般職を持っているはずなのだが……
「そうだ。兄さんは奏楽師、弟は従魔師の職を持っているんだが、俺は何も持ってない。だから何をやっても中途半端だ」
「そんな事があるの?」
「母上が俺を妊娠中に呪いをかけられたらしい。本人に怪我がなかったから油断していたら、俺にかかっていたそうだ」
「その呪いって、今からでも解くことができないのかな……ルーク、お願い?」
マリアが治療のため、アランジールに近づくことさえ渋ったルークが、マリアの視線に負けて〈賢者の書〉を発現させる。
「……多分、『カラレスの呪い』のことだと思うけど、この呪いは一般職の人間の血を全種類鍋で三日三晩魔力を注ぎながら煮詰めて、妊婦の腹に十字を描くことで完成する、面倒な上に高度なものだよ。それ故に解くことも出来ない、厄介な呪いだ」
「そんな……」
「ただ、解決策はある。……ねぇ君は、なんで僕やニコラスを殺さなかった?」
「……えっ!?」
ルークの言葉にマリアは目の前のアランジールを見た。
「君がつけない職は一般職だけのはずだ。この呪いははるか昔、王族や貴族が子供に力のある職……賢者や剣聖を与えるために使っていた呪いなんだから」
「……」
「職を得るための条件は膨大な魔力による儀式と、同じ職業を持つ人間がこの世に生存していないこと。僕やニコラスを殺せば、少なくとも賢者か剣聖は得られたはずだ」
ルークが見定めるようにアランジールを見つめた。そのサファイアとアクアマリンが交差する。
「……なんで、俺のために国民を殺すんだ」
小さく息を吐き、アランジールが言葉を続けた。
「確かに、家臣からその案が出ていたことは知っている。特にその黒髪を不吉と言う奴らがな。だが、それは検討するまでもなく却下した」
「陛下が仰ったから?」
「違う! 父も反対していたが、俺もその意見には同意したくなかったからだ。子供は国の宝と言う。王は、王族は宝を独り占めしてはいけないと思うから、たかだか俺一人のために命を捨てさせるわけにいかない。本当は役立たずの俺なんか守って欲しくない」
俯いていた顔が上がる。
「俺は、守られるんじゃなくて、守りたい」
アランジールがルークを睨み返す。しばらく無言の睨み合いが続き、やがてルークが大きくため息をついた。
「……そう。マリアのことを貶すからどんな馬鹿かと思ったら、まともな事考えてるんだね」
「ば、馬鹿だと!? おまえ本当言葉遣い考えろよ!?」
「僕の一番はマリアだから。順列はマリア、僕とマリアの家族、その他だから」
「視野が狭すぎる!!」
「ルーク……そんなに私のこと思ってくれてたなんて……!! 私の一番もルークだよ!」
「マリア……」
「二人の世界を作るな!」
顔を真っ赤にして叫ぶので、思わずルークと吹き出してしまった。
「ぷ、あはは! おっかしー!」
「はははっ、揶揄いがいがあるね!」
「おまえら〜! 俺で遊んで楽しいか!」
「「楽しい!」」
「いい笑顔しやがって!」
「なによ、そっちだって初っ端からカップ投げてきたじゃない」
「あ、それは僕まだ許してないからね。マリアが怪我したらどうするの」
「俺に怪我させたのはいいのか!?」
「自業自得でしょー!」
くすくす笑えば、バツが悪そうに視線をそらす。それをルークが揶揄って、二人とも楽しそうだ。名前を呼ぼうとして、はた、と気づく。なんて呼べばいいんだろう。王族だけど、従兄弟だ。
「うーん……アランジール、殿下?」
「今更か!? あれだけタメ口きいといて今更殿下って呼ぶのか!?」
「王族なんですよね?」
うわぁ……ルーク、わっるい顔してるわ……
完全にブラックモードのルークに、アランジールが苦虫を噛み潰したような顔で悔しげに言った。
「ああもう、アランでいい! 家族はそう呼ぶ! 敬語もやめろ気持ち悪い!」
「うん、アランね。私のことはマリアでいいから」
「僕はルークでいいよ。でもマリアにティーカップ投げたこと、謝ってね?」
「ぐ……悪かった! 気が立ってたんだ。連日連れてこられた貴族の子供が全員媚び売ってきたからおまえらもそうだと思ったら、殺しにくるとか予想外すぎるだろ」
「だって媚び売ったって意味ないんだもん……私、あなたの従姉だし。ルークだって私の婚約者だからこれ以上の権力要らないよね」
「そうだねー。下手に権力持って貶められたくないしね」
「おまえら……本当に貴族か?」
そのセリフ、どっかで聞いた気がするぞ。
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