開発は着々と
今日は二話投稿ですー!また夜にお会いしましょう!
「ルーク! 魔法を放つのが遅ぇ!」
「はい!」
「お義兄様! ユリウスにぶつかります!」
「悪ぃ!」
「ユリウス! 邪魔にならねぇとこに行け! だが回復が間に合わねぇとこにはいくな!」
「わかりました!」
「マリアごめん! 一匹逃した!」
「オッケー任せて!」
そんな声が飛び交うのは、ギルドが管理するダンジョンもどき──モンスターハウスの一室。
お父様からの提案でギルドマスターのギースさんと訓練することになった私たちは、冒険者がめったに寄り付かないモンスターハウスで魔物と戦っている。
モンスターハウスとはその名の通り、魔物が発生するダンジョンになり損なった場所である。スタンピードなどは起こらないため安全ではあるが、ドロップ品が出る確率が普通のダンジョンに比べて異様に低い。それなら低レベルダンジョンのほうがいいので冒険者はわざわざモンスターハウスに入らないのだ。
マリアたちがモンスターハウスで訓練をしている理由は三つある。
一つ、人目につかないから。マリアたちは貴族であり、もし誰かに見つかった場合、品位がどうだのと他の貴族から文句を言われかねない。そういう事態を避けるため、冒険者が訪れるダンジョンではなく、モンスターハウスを使用している。移動は〈テレポート〉という徹底ぶりだ。
二つ目は、子どもたち( 特にマリア )の魔法や剣術が平均を超過しているから。マリアは言わずもがな、珍しい治癒魔法を持つユリウスが権力者に見つからないようにするためである。それは職業が賢者のルークや剣聖のニコラスもしかり。
そして最も大きな理由はモンスターハウスの自己修繕力である。マリアたちが放った魔法の威力に耐えられなくても、修繕力が高いためすぐに修復されるのだ。そのため、力を制御する訓練にもってこいなのである。
ぶっちゃけ、マリアがセイントベール邸の訓練場に結界を張ればちょっとやそっとじゃ壊れないのだが……
「ふぃー、今回は殲滅までどのくらいかかったのかな?」
「だいたい50分強だと思う。まあ及第点かな?」
「先週は一時間かかったっけか?タイムは確実に縮んできてるな」
「魔物の死体も綺麗になってきてます。最初の頃のようにぐちゃぐちゃしたのはもうほとんど無いですね」
部屋の中に散らばる死屍累々を見ながら、ユリウスがそんなことを呟いた。
最初の頃は次々に現れる魔物にパニクって爆破魔法を連発したり滅多斬りにして細切れにしたりとスプラッタが繰り広げられてた。けど確かに今日の魔物の死体はスッパリ首だけ落とされてたり、溺死らしく特に外傷が見当たらないものが多い。
「はぁ……こんなに綺麗なのに食べられないなんて……」
「仕方ねーだろ……食ったって美味くねぇんだから」
切なげなため息をつくマリアに、ニコラスが苦虫を噛み潰したような表情で言葉を返す。
モンスターハウスの魔物は美味しくない。ダンジョンや森に現れる魔物は大地の膿から生まれる。それは大地の栄養を持っているのと同じことで、動物型も植物型も問わず美味だ。だけどモンスターハウスはダンジョンになり損ねたもの。魔物は出るが栄養はなく、美味しくもない。むしろ毒になりかねないということから、マリアたちは泣く泣く肉を諦めていた。
特に、食にうるさい兄妹は。
「貴族のガキがこれでいいのか……?」
「あの二人は少し特殊なので……」
引きつった顔のギースさんに、ルークが困ったように笑った。
「あ。姉上、ドロップ品がありましたよ」
「えっ、ほんと? 見せて見せてー」
「これなんですけど……」
「んんー……? ふあ!?」
「マリア、どうしたの?」
驚いて固まるマリアに、ルークやニコラスもやって来る。同じように鑑定をかけたルークが、納得したように頷いた。
「これ、真珠だ」
ユリウスが拾った白い小さな粒は、ドロップが珍しい真珠だった。
「モンスターハウスでドロップするの珍しいね」
「ダンジョンでもレアだろ。確かオークのドロップ品だったよな?」
「はい。でも、このくらいのサイズだと市場には回らないと思います」
「小さいもんなぁ……」
お義兄様の言うとおり、真珠のサイズはめちゃくちゃ小さい。ユリウスの手に持っても小さいのだから相当だ。
「ま、売りもんにはなんねぇからとっとけよ」
ギースの言葉に従って、マリアが〈ケース〉へとしまう。
「じゃ、今日はここまでだ。さっさと帰ってねんねしてろよ。寄り道すんじゃねぇぞ」
「はあい」
ギースさんはそう言ってスタスタとモンスターハウスを出ていってしまった。
最初の一回こそ一緒に来たものの、そのあとはマリアの〈テレポート〉で飛んできているし、帰りも同じく〈テレポート〉だ。
ちなみお父様とルークから許可を取っているので〈ケース〉と〈テレポート〉が使えることだけ言ってある。隠さなくていいって楽ちんだ。
「ただいま帰りましたー!」
「おかえりなさいみんな。今日も楽しかったかしら?」
「はい、お母様! 真珠がドロップしたんです!」
「まあ!モンスターハウスでドロップするなんて珍しいわねぇ」
「母さん、タイムが縮んだんだ! 今度は一時間切った!」
「本当? すごいわ! やっぱりオーウェン様との訓練に励んでいるからね!」
すごいすごいとお母様がお義兄様の頭を撫でる。最初は両親のことを母上、父上と呼んでいたお義兄様だったけど、私やユリウスに断固拒否されたお父様たちが半端強制的に呼ばせ始めた。
まあ、お義兄様も母上とか呼びにくかったみたいだから結果オーライ。
「今日は何作る?」
「えー……何にしましょう」
ルークとユリウスは二人して賢者の書を覗き込んでいる。どうやら一緒にポーションか何かを作るらしい。
「あぁ、そうだわ。マリアちゃん、この前のアレ、商標取れたわよ!」
「本当ですか!? お母様っ!」
「アレって、あれか!?」
「そうですよお義兄様! トランプですよ!!」
そう、地球の誰もが一度はやったことがある、トランプである。マリアは《ネバーランド》が軌道に乗ってすぐ、〈コネクト〉でトランプを創造していた。こういうとき錬金術師って便利。
まあとりあえずみんなで遊びたいがために作ったら、ババ抜きで負けたお義兄様とユリウスがお父様と勝負しようと執務室に突撃してバレたんだけど。そのままあれよあれよという間に商品化しちゃったんだけど。
「サーラ様と相談して決めたのだけど、《ネバーランド》を商会にしようと思うの」
「……はい?」
「服だけならブランド一社でいいのだけど、トランプを発売するとなるとねぇ……マリアちゃん、また何か作ってるでしょう?」
「ぎくっ」
さすがお母様、よく見てらっしゃる。
ただいまスゴロクを製作中だ。まだマス目考えてないから商品化はできないけど、いずれは……とは思っていたりする。スゴロクが完成したあとは昔遊びなんかも作りたい。
「咎めるつもりはないわ。むしろ領民の仕事も増えるし庶民に娯楽が広まるし、いいこと尽くめなんだから、マリアちゃんにはもっと自由にやってもらいたいくらいなの」
「お母様……」
「経営はサーラ様がやってくださるそうだから、何の心配もいらないわよ! あの方、昔から思っていたけど本当に優秀なんですもの!」
「どうりで最近生き生きしていると…… 学んだことを生かせる場が嬉しかったんですね」
これが原因か、とルークが苦笑する。
こうして、ファッションブランド《ネバーランド》は《ネバーランド商会》にグレードアップすることとなった。
これにて三章は完結です!夜には新章が始まりますー!




