苦いほうが美味しいよね
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「……というわけで、しつこくレグリオン家の血を狙ったのは愛人にしようとしていたニコラスの母上をレグリオン伯爵に取られ、夫人に手を出そうとした仕返しに不正を調べられ証拠を握られたのが殺害の理由。自己申告の期限を与えられたのがレグリオン一家の命日だった。ニコラスを殺そうとしたのはその証拠をニコラスが託されている可能性があったからだそうだ。詳しくはこの資料にまとめてあるから気になる点があればこれを読んでね」
お父様からの言葉に、私たちはほっと息を吐いた。置かれた書類が事件の収束をこれ以上ない程に意味する。
「ポーロジアの当主はどうなったんでしょうか」
「彼は一族諸共、離島にある牢獄に収監されたよ。あそこは今まで一度も脱走者を出していない監獄島だ。心配はいらない」
ルークの質問にお父様が答えた。
なるほど、前世でいうアルカトラズのようなものらしい。
「裁判とか参加しなくてよかったんですか?」
「うん、証拠はあがってたし……ルークの念写とポイズンリング、あとニコラスの父上が集めた今までのポーロジア家の悪行についてまとめた資料が見つかったんだ。それと本人の自白も合わさって裁判にならず終わったよ」
ユリウスが残念そうに肩を落とした。この世界に裁判員裁判はないから、こういう時に関わってみたかったんだろう。好奇心旺盛でいいことだ。
「あ、そうそう。やっとマリアたちの専用キッチンができたよ。今回のご褒美に急ピッチで改装を進めたんだ。ある程度の食器は揃っているからすぐにでも調理できるよ。他に必要なものがあればキッチンに置いてあるカタログから頼むといい」
「ほんとですか!? やったああ!!」
「やったね、マリア」
「うん! お父様、行ってもいいですか!?」
「いいよー。じゃ、僕は仕事に戻るから、何か作ったら持ってきてね!」
「はあい!」
マリアはテンション爆上げで、男子連中を引き連れて執務室を飛び出していった。
「は、はわわぁぁぁあ!!!!」
「わあ、すごいねー」
「広いです……」
「これを子供のために作るって、すげーな公爵家……」
改修された一室は、子供サイズの大きな厨房に変わっていた。というよりカウンターキッチンに近い。部屋の中央には上質な木のテーブルが椅子とセットで置かれ、基本的な調理道具が勢ぞろいしており、冷蔵庫も大きい。この世界の冷蔵庫は魔石が内蔵されており、それに魔力を注ぐことで一定の温度が保たれるようになっている。魔石の大きさは冷蔵庫に比例するから、お父様からのプレゼントはきっとこれが一番高価だ。
「あ、何か貼ってある」
「え?」
「『これなら前に言っていた〈バケツプリン〉も入るよね?』だって」
「お父様……」
読み上げたルークが苦笑する。実はお父様、極度の甘党だったことが判明した。多分きっかけは私の作ったフォンダンショコラだ。そういえば、お菓子作りに必要なものはほとんど揃っている気がする。
「あはは、期待されちゃ作るしかないね」
「……じゃあ、早速作るとしましょうか。ユリウス、手伝って」
「はい、どのレシピですか?」
「とりあえずスタンダード。ゼラチン多め」
「分かりました」
〈ケース〉から牛乳や卵などプリンに必要な材料を取り出す。ユリウスは完全記憶で全部覚えちゃうし、ルークは私が教えたレシピなら賢者の書で反芻できるらしい。
「なんか手伝うことあるか?」
「えっ」
「あ?」
「じゃ、じゃあお兄様は卵割ってください……割れますよね? 握りつぶさないでくださいね?」
「な、なんだよ! 俺だってそのぐらいできるっつーの!」
グシャッ
ニコラスの握った卵の黄身が、その手のひらから垂れ落ちる。
「……」
「……」
「……お兄様」
「んだよ……」
「大人しく座っていてください」
「いや、卵以外ならなんとかっ」
「ニコラス」
「……わあったよ……」
基本穏やかなルークの黒い笑みに、ニコラスが大人しく引き下がる。妹より友人が怖いかっ!
少しの不満を覚えながらも、マリアは手際よく調理を始める。
「今日のカラメルはどうしようかなぁ……甘め? 苦め?」
「僕、苦めがいいです」
「僕も苦いのが食べたいな」
「じゃあ苦めにしよっか。ユリウス、お義兄様と新品のバケツ持ってきて」
「わかりました。行きましょう兄上」
「お、おう」
ユリウスがニコラスの手を引いてキッチンを出ていく。随分懐いたなぁ……としみじみに思っていれば、閉まった扉の先で「ところでプリンってなんだ?」というニコラスの声が聞こえた。マリアとルークは顔を見合わせ、二人同時に吹き出した。




