自供のお供は証拠と恐怖と脅迫です
だんだん一話が長くなっているような…
「ようこそ、ポーロジア伯爵。待っていたよ」
「お招きいただき光栄でございます、王子」
「やめてくれ、僕はもう王子じゃないんだから」
朗らかな笑みを浮かべるセイントベール公爵オーウェンに迎え入れられ、ポーロジア伯爵家の当主ガルドーはセイントベール邸に入った。そこかしこに飾られる高名な画家の絵やアンティーク家具の数々を見渡しながら、前を歩くオーウェンの背について行く。
「いやっ!! 私、絶対王子なんかと結婚しないわ!! 私はルークと結婚するのよ!!」
「落ち着けってマリア! もう王子との婚約は決まったんだよ!」
「そうですよ姉上、諦めてください!!」
「嫌よ! 私は絶対ルークと結婚するんだからぁ!」
扉の前に着いたところで、そんな悲鳴に似た声が聞こえた。驚いて横を見ると、オーウェンが困ったように眉を下げた。
「娘のマリアだよ。なんでも、茶会で会った時に一目惚れしたアラベスタ家の長男と結婚したいってごねててね」
「え?アラベスタ侯爵のご子息をですか……?」
「彼もマリアのことが好きみたいなんだ。アラベスタ家は外交面で強いから敵に回したくないしどうにかしたいんだけどね」
はあ……と深いため息を吐きながら扉を開けると、ボロボロと涙をこぼす美少女がこちらを凝視した。少し視線をずらし、目を見開く。
そこには、何度も殺そうとして殺せなかった、憎きレグリオン家の生き残りがいたのだ。噂は聞いていたが、本当に引き取っていたとは。思わず右手にはめたポイズンリングに手を伸ばす。中に毒を仕込んでおける特注品だ。
レグリオンの生き残りはどうやら共に食事をするらしく、マリア嬢の隣に座りながら彼女を宥めている。
「騒がしくてすまない。マリア、大人しくしなさい。客人にみっともない姿を見せるな」
「……っ、申し訳、ございません。お父様」
乱暴に目元を拭い、マリア嬢が大人しく席へと座る。温厚な元王子だと思っていたが、こんな厳しい面もあったのかと驚きが隠せない。
「失礼した、ポーロジア伯爵。さあ、食事を始めよう」
うながされ、レグリオンの息子の隣へと座る。次々と料理が運ばれてくるため、味わいながらも食事を進めていく。
そのあいだにも、どうにか隣に座るこの少年を今度こそ殺したいと頭を回していた。直接手を下せるなど、もう二度とないチャンスだ。
「チキンローストです」
ついにメインが出された。隣を見ると、自分の方が少し大きい。重畳とばかりに隣へと声をかけた。
「君、そちらのチキンを貰ってもいいかね? 残してしまっては申し訳ないからね、小さいものを食べたいんだよ」
「は、はい。どうぞ」
「ありがとう」
自分のものを渡す瞬間に、指輪の蓋を開けて中の毒を振りかける。それからにっこりと笑って隣へと皿を押しやった。
「ありがとうございます」
カチャリ、とカトラリーを動かす音が響く。このまま食べてくれれば、レグリオン家の血を途絶えさせることができるうえ、セイントベールが自分を殺そうとした、という事実をネタにいくらでも脅せるだろう。
「待ってください、お義兄様」
期待に目を輝かせ今にも口に入りそうなチキンを見つめていたところに、やけに冷静なマリア嬢の声が上がった。レグリオンの一人息子はその声に料理を刺したフォークを皿へと戻してしまう。それから少し眉をしかめてマリア嬢へと向き直った。
「なんだ、マリア」
「証拠は手に入れました。もう茶番は必要ありません」
「あ、そう? じゃあお願いしてもいいかい?」
先程までとは打って変わって学生時代を彷彿とさせる声音のオーウェンに、こくりと頷いたマリア嬢がパチンと指を鳴らした。瞬間、どこからか伸びてきた蔦が手足に絡まる。
「んなっ!? な、なにをする!」
「何をするって……貴方こそ、私たちのお義兄様に何をするつもりだったんですか? ……いいえ、もうしていましたね」
「なんの話だ! それよりこの拘束を解いてくれないかね! 公爵家といえど、子供の悪戯では済まされんぞ!」
「これを見ても同じことが言えますか? ねぇ、ルーク」
「ん、これね。前より綺麗にできたよ」
「はああ! 本当にルークって格好いい……早く結婚したい」
「僕もだよマリア。でもあと十年と少し待ってね?」
「おいバカップル、話を進めろ」
「お義兄様ってば、せっかちですね……いいですけど」
突然入ってきた黒髪の少年が数枚の紙をマリア嬢に渡した。マリア嬢はぱらぱらとそれを確認し、にっと笑う。
「これは、ルークが今見た光景を念写で描いたものです。さっき、あなたがしたことがバッチリ写っています」
「は、そんなもの事前に描けるだろう。なんの証拠になる?」
「この短時間であなたの服装、装飾品に至るまで完璧に描けるとお思いですか? ……まぁ、これは証拠のうちの、ほんの一部にすぎません。リン」
「はいはい。いやー、思ったより楽だったね! 全然ぼくに気づかなかったよ」
「な、よ、妖精っ?」
ひらひらと舞う羽に目を剥く。リンと呼ばれた妖精は蔦を操りながら、マリア嬢の手元に何かを落とした。
「ねぇおじさん、知ってる? 妖精って、盗みが得意なんだよね」
「だから気づかれずにこういうことも出来ちゃうんですよね」
マリア嬢が掲げたのは、キラリと光る指輪だった。それは、さっきまで、右手にはまっていたはずのもので。
「な、っ!?」
反射的に手を伸ばすが蔦に阻まれ、身動きが取れないほど雁字搦めにされた。
「大人しくしててくださいよぅ。その子達にはあなたが暴れたら引きちぎっていいよって言ってあるんです。下手に動くと両手足とバイバイですよ?」
その言葉にさあっと血の気が引く。齢たった七歳の少女の口から飛び出た言葉に、背中を這うような恐怖を感じた。
「は、はは……ご冗談を……! その指輪はただの指輪だ! 私は何もしていない!」
「どこまでもしらばっくれるんですねぇ……じゃあこのチキンロースト、食べれますか?」
ドタン、バタンという音とともに、あちこちのドアから王宮騎士たちが入ってくる。家を継ぐことはないものの、どの騎士も名のある家の次男三男だ。
「これだけ証人がいればいいですよね?ねぇ、このチキンロースト、食べてくださいよ。そしたらセイントベールから多額の慰謝料をお支払い致しましょう」
「は……!?」
「だって何もしてないんでしょう? だったら食べれますよね?」
「む、無理だ! 私は無実だ!」
「ああ、ごめんなさい。縛られたまんまじゃ食べれませんね。隣人さんたち、手伝ってあげて?」
「ひ、い、いやだ! やめろ!!」
その目は本気だった。こんな少女の微笑みにぞっと震える日が来るなど誰が思っただろうか。
段々と近づいてくるフォークから顔を背けるものの、額に汗が滲み、瞳には薄い膜が貼り、指先がかたかたと震えた。
殺される。
カラカラに乾いた喉で、なんとか声を絞り出した。
「私だ! 私がやった! すべて認めるから殺さないでくれ!!」
そう叫んだ瞬間、これでもかと手足に巻きついた蔦がはらりと解け、支えられていた体が床へと崩れ落ちる。腰が抜けて立てないでいると、両脇を騎士に抱えられた。
「それでは、この者は公爵子息暗殺未遂の現行犯逮捕ということで連行いたします」
「うん。余罪の追求もよろしくね」
「はっ!」
気合の入った騎士の敬礼に、ポーロジア家当主は目の前が真っ暗に塗りつぶされたような感覚に襲われた。
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