煮込みうどんとハンバーグ
新学期始まっちゃいましたね〜。というわけで更新がこんなペースになります(´·ω·`)
肉の香ばしい匂いとスポンジケーキの甘い香りが厨房に充満する。マリアとルークはお互いの調理を終えるべく厨房内を駆け回っていた。
公爵令嬢と侯爵子息が揃って料理をするという異常な光景は、今やセイントベール家の日常風景と化していた。
マリアの作るお菓子はこの世界にはない上に絶品で、最初は渋っていた使用人たちも今ではすっかり虜となっている。初めて見た時は驚いていたルークもマリアの話で興味を持ったのか、試しに一品作ってみたら初めてとは思えない出来栄えだった。マリアが慌ててルークのステータスを確認したら料理スキルを取得していた。恐ろしい子である。
それからというもの、ルークとともに何度も厨房を使っていたら、お父様から今度の誕生日に今は使っていない部屋をマリアとルーク専用のキッチンにしてくれるという提案があった。今はルークと二人でキッチン用具や食器を物色中だ。
そんなことを考えながらも手を止めずにいれば、あっという間に美味しそうな料理がテーブルに並んだ。
「完成……!」
マリアが作ったのは胃に優しく喉にも通る煮込みうどんといちごのロールケーキだ。
ちなみにこの世界、米どころかうどんもなかった。その事実を知った時は絶望したものの、マリアには持ち前のチートがあったのだ。
そう、〈緑の手〉である。なんとこれ、新種の植物を生み出せるとんでもスキルだった。イネ科の植物をかき集め、リンに土下座し、隣人さんたちに頼み込んで品種改良を重ねてもらっている。数年経てばできるらしいので、それまでは丹精込めて世話をするつもりだ。他にも日本にあった食材の開発を進めている。
ロールケーキはルークやユリウスのリクエストだった。今までケーキを巻くなんて発想がなかったらしくいたく感動していたのを覚えている。
「僕もできました」
「僕もできたよ〜」
まだユリウスに包丁を持たせるのは怖いので、フルーツジュースを作ってもらった。電気器具がない世界なので刻んですっての繰り返しだ。ベースはバナナ、子供はみんなこれが好き。間違いない。
ルークにはミニハンバーグを作ってもらった。マカロニ入りの野菜スープ付き。ガッツリ食べたくなってもいいように少し焼いて焦げ目をつけたパンなんかも用意してある。
「どうぞ、召し上がってください」
マリアが勧めると、ニコラスがおずおずと野菜スープに手を伸ばす。こくんとひとくち飲んで、ニコラスがカッと目を見開いた。
そのままニコラスは無言で大量の料理を食べ続け、少し躊躇ったものの食べてしまえば平気だったらしくうどんまで完食し、結局残ったのはロールケーキ半分だけだった。呆気に取られていたマリアたちを現実に引き戻したのは、ニコラスがカチャリとカトラリーを置いた音だった。
「お、美味しかったですか?」
「…………うま、かった」
絞り出すような掠れた声だけど、やっとニコラスが言葉を発した。喋った本人が喉を押さえて驚いている。マリアはにやりと口角を上げた。
実はこれ、〈ヒール〉の効果である。〈賢者の書〉で〈ヒール〉ができることを調べてもらった時発覚したものだが、魔力を込めながら料理をするとその料理が回復アイテムになるらしかった。つくづくチートである。隣にいるルークが小声で「やったね」と笑う。可愛い。
「それじゃ、お義兄様? 私たちの名前を呼んでくださいな」
「えっ」
「あっ、敬語はなしですよ? 貴方は兄で私たちは妹と弟です。何より敬語デフォルトはユリウスとキャラ被るので……」
「いやそれが本音だろ!」
キレのいいツッコミが入り、ニコラスがやってしまったと口を押さえる。しかし、もう遅い。
「そうそうそれですよぅ! お義兄様絶対敬語とか無理ですよね!? 素の口調でお願いします!」
「失礼すぎんだろ!? こいつホントに公爵令嬢なのか!?」
「すみません、姉上はこうなんです。兄上」
「あはは、僕らの周りにこういうタイプの人いないもんね。新鮮だからテンション上がるね」
「くっそなんだおまえら! 今までたらい回しにされた家の子供たちと全然ちげーんだけど!」
「嫌ですねぇ、私たちが変人みたいに言わないでくださいよ!」
「いや変ですけどね」
「特にマリアはね」
「ほら見ろユリウスもルークもこう言ってんだろ!」
勝ち誇ったように笑うニコラスの何気ない言葉に、本人以外の三人が固まった。急に静かになったマリアたちには首をかしげたニコラスが、次の瞬間にハッと口を噤んだ。
「兄上……っ」
ユリウスがキラキラとした目でニコラスを見つめる。その視線にニコラスがうぐっとたじろいだ。
「あー、ずるい、二人だけー! お義兄様! 私もマリアって呼んでください!」
「僕も兄さんって呼んでいいですか?」
「……ルークは敬語やめろ。俺のことはニコラスと呼んでくれ」
「わかったよニコラス、よろしくね」
「ぐぎぎ……もういいですよ! 私は片付けでもしてきますから!」
むすぅ、と頬をふくらませ、マリアは綺麗に食べられた皿を重ねる。手伝います、とユリウスが席を立った。最初は使用人がやるので! と反対されていた食後の後片付けも、何度か強行しているうちに止める人がいなくなった。こういう頑固なところは元のマリアが出ていると思う。ベクトルは変わるが我儘令嬢だ。
拗ねたように食器を洗っていると、後ろから二人分の笑い声が聞こえた。思わず振り向くとくすくすと笑うルークと目が合った。あれ、私をからかうときの瞳だ。
「面白いな」
「でしょ?」
「…………リン」
「はいはーい! やっと出番ー?」
「……はっ?妖精!?」
「私の契約妖精リンです。さあリン! やっておしまいっ!」
「いいよぉ! ていやー」
「えっ、わぁ!?」
リンの声とともに、置いてあった鉢からミントが伸びて、ペシペシと二人をひっぱたいた。
「ちょ、痛い痛い! ごめんってマリア!」
「おいマリア! 地味に痛てーからやめろって!」
「ついに呼びましたね! うおっしゃあああっ!」
「姉上、それは令嬢どころか女性としてアウトです」
ユリウスに窘められ、マリアは慌てて口元に手を持っていき優雅に微笑んだ。元の容姿はいい。様にはなっているはずなのに、ニコラスは半目でマリアを見た。
「俺が見てきた中じゃ一番美人なのに、素を見てるからなんとも言えねーな」
今日一失礼な言葉を吐いて、ニコラスが乾いた笑みを浮かべた。




